2011-06-27 09:30:08 コメント欄 MaliEliさんより
69歳の母が手術を受けることになりました。1回目は骨の癒着を取る手術。2回目は後ろからスクリューを入れて固定する手術です。現在1回目の手術が終わったところですが、右足がマヒ状態となってしまいました。脊髄に造影剤を入れてみたり神経科の専門医に見てもらったりしておりますが、右足が動きません。執刀して下さった先生も困惑しており、2回目の手術は延期になったままです。こんなに辛い痛い思いをして1回目の手術をしたのに、このまま何もしなければ、1本の足を失い、且つ状況は何も改善しないままになってしまいます。この麻痺は直る見込みはないものでしょうか。2回目の手術は行うべきなのでしょうか。本人を含め家族が絶望の淵にいるところ、貴殿のブログを見つけ、思わずコメントをしてしまいました。何かアドバイスお願いします。
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MaliEliさんへ
ご心配のことと思います..... このStep by stepのなかで、何度もご説明させていただいておりますように、私はメディカルドクターではありません。また、皆さまへの医療コンサルタントをしているわけでもございません。あくまでもひとりの私人として、ボランティアで、多少なりともお役に立てれば思い、書き続けおります。
私には、医学的判断をする権限も、資格も、そして何よりも、法的責任を負いかねますことをまずご理解ください。
仮に、お話しを伺って、なんらかの考察はできたとしても、それが例えば、皆様から医療機関/医師に対する医療訴訟のようなものになったとしても、このブログは何の法的根拠にも、証拠にもなりませんし、逆に、医療機関/医師側から、このStep by stepあるいはaugsut03に対しての名誉棄損を訴えられることも、私の望むことではございません。
そういう事情を抱えていることをどうかご理解いただきたいと思います。
第一に、お話からは、事実を確認することができませんので、次の点について、あらためて教えて下さい。
①病名 ②手術部位 .....腰椎と思いますが、第一腰椎とか、第二腰椎というように詳しく ③手術日.....手術からひにちが立ちますと、マヒが解消してくることはありますので。 ④痛みの有無 ⑤マヒの状態....右足のどこからどこが動かないのか。まったく歩行困難なのか、動かすことはできるのか、例えば、足指は動くとか、下垂足と呼ばれるだけの状態なのか、そういう詳細情報 ⑥手術前は、何の障害もなかったのか、それとも手術前から、歩行に支障をきたしていたのか
とりあえずは、以上のことを教えてください。
.....ただし、上にも述べましたように、期待されましても、わかるかもしれませんし、わからないかもしれませんので、ご容赦ください。繰り返しになりますが、私は、医療過誤や医療訴訟の助けを目的としてこのStep by stepを書いているわけではございませんので、どうか、ご理解ください。
august03
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上記は、6月27日に記載しました。その後、私からの質問への回答がありませんでしたので、一度は掲載からは外しました。
ここでは、お問い合わせに対する返信ではなく、一般論として、外科手術と癒着の関係、その癒着により起こること、またそれに対する対策としての「神経モニター」の利用についてお話をしてみたいと思います。
癒着について : ネット情報からの引用となります。
癒着とは本来は離れて存在すべき組織間の接着と定義することができる。その原因には手術による組織への直接的な外科的損傷のみならず、手術用手袋に塗布されているタルクや処置に用いられるガーゼ、コットン等の繊維片も挙げられる。癒着は外科的手術の80%以上に認められると言われており、一般外科においては内臓の運動障害や腸閉塞等を引き起こす可能性がある。また脊椎・脊髄手術においては、馬尾症、馬尾癒着によるくも膜炎あるいは神経根症等、硬膜癒着による骨髄症等の重篤な症状を引き起こす可能性が高く、また再手術が必要とされる場合には、本来必要な処置を行う前に癒着を剥離することが必要となり、術者の負担となるばかりでなく術中の瘢痕剥離操作により神経損傷を来す可能性もある。脊椎脊髄手術では外科的処置の際に神経に近接した箇所での操作を伴うために、神経周囲の硬膜などと癒着を認める場合には術中神経損傷を起こすことがある。例えば椎間板ヘルニアに対する除圧手術は神経組織への損傷を避けなければならないが、再発ヘルニアの場合には、初回術後に硬膜などに癒着が生じており再手術時に操作が困難なために神経損傷を起こす可能性がある。したがって脊椎・脊髄領域における術後の癒着防止は、治療を有効なものとするばかりでなく、中枢神経系への人為的な損傷を防ぎ、さらには難治性の癒着性クモ膜炎の発症の予防にもつながるものである。
癒着は6つのステップにより形成されると考えられている(人工臓器,1994-95,282-285)。すなわち、まず手術等による損傷や炎症などによる異常をきたした部位へ体液,血液などの漏出が起き、フィブリノーゲンが滲出してフィブリンが形成されフィブリン網が形成される。この過程は分単位で進行する。次に時間単位でこのフィブリン網に白血球等の炎症細胞、マクロファージ、線維芽細胞が侵入し、これらの細胞から出される種々の酵素によりフィブリン網が溶解される。続いてこれらの細胞が出す種々の成長因子により繊維芽細胞の侵入が活発となり、細胞周囲のフィブリン網がコラーゲン繊維に置換される。この過程は日単位で進行するが、癒着組織の基本的構造が形成されるために不可逆的なものとなる。さらに週単位で複雑なコラーゲン走行の構築を持つ細胞線維性組織が形成され、これらの細胞による栄養要求性のために無数の毛細血管が侵入し、肉芽組織が形成される。その後月単位で一部の組織は創傷治癒の過程をたどるが、残存する組織はコラーゲン組織が大半を占めることになり、非常に強固な、丈夫な組織である瘢痕組織と称される状態となる。そして年単位で瘢痕組織のコラーゲン量の減少により周囲組織に″引きつり″現象を生じさせることになる。
癒着を防止するためには癒着する可能性のある組織,器官の間隙を隔絶させておくこと、上述の不可逆的状態に進む前の段階でフィブリン析出,細胞侵入,コラーゲン繊維産出などの過程を抑えること、位置的に癒着しそうな組織をたびたび動かして接触状態を維持させないことなどが考えられる。一般に漿膜損傷後の中皮細胞再生には5~8日間必要とされており、この期間損傷を受けた組織と周辺組織とを物理的に隔離して接触を遮断すれば、癒着の形成を防止・軽減することが期待できる。一方、脊椎脊髄手術の場合には、脊椎手術後の炎症の沈静化には術後最低2週間は必要であり、その間の隔離が必要と考えられる。
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以下はaugust03の説明となります
手術を行うことによる「癒着」の発生は、手術という身体への侵襲行為に対する私たち自身のカラダの自己防衛機能ということになりますので、癒着を防止する為には手術はしないこと。というような逆説的な関係になってしまいます。手術後には「癒着」はあるもの、というのが医学的常識であり、またそのような癒着した状態に対しては慎重な手術が要求される。ということも医学上の常識ということになります。
下記もネットからの引用です。
胸椎黄色勒帯骨化症
正中から観音開きに椎弓を左右に展開し側方で切除する。しばしば骨化巣が硬膜と癒着している。観音開きの際、円刃のメスで骨化部を切除しながら癒着を剥離する。硬膜の拍動が確認されれば薄く残った骨化部は切除せずとも除圧は完遂される。癒着剥離で硬膜と、くも膜が欠損し縫合が困難であれば自家筋膜で被覆縫合しフイブリン糊で覆う。術後は必ずドレナージし術後血腫の危惧を回避する。
〔合併症と予後〕
骨化巣と硬膜が癒着している場合、無理に椎弓を反転すると神経障害悪化が起こりうる。この点で、縦溝を左右のみとするen bloc椎弓切除は勧められない。くも膜損傷では髄液漏出により創汚染喀開が起こりうる。腰椎穿刺で無菌的持続ドレナージを行い創治癒後に抜去する。神経障害の予後は術前の重症度に対応するが、黄色靭帯骨化単独例では比較的良好である。
二分脊椎
脊髄脂肪腫摘出術,脊髄係留解除術
成長期に問題になるのが、脊髄脂肪腫、脊髄係留症候群(せきずいけいりゅうしょうこうぐん)です。腰の部分で癒着した背髄は身長の伸びについて行けずに引き延ばされます。足や膀胱・直腸に行く神経が引き延ばされてその機能が低下すると、転びやすくなる、尿を漏らすようになるなどの症状が学童期や思春期になって出てくることがあります。脂肪腫を摘出して脊髄下端の癒着を剥離することで症状が改善します。当院では、足の筋力、肛門括約筋の状態を電気的に測定しながら安全に手術を行うことができます。
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上記の「足の筋力、肛門括約筋の状態を電気的に測定しながら安全に手術を行う」を強調文字にしたのですが、実はここで説明されていることが「神経モニター」を使用して手術しています。ということなのです。
上図で青円のなかにある黒点が「電極」と呼ばれるもので、神経モニターにおいて、患者さんの身体に貼付して、体内を流れてきた電流を感知して、その電気信号を神経モニター本体に伝える役目をするものです。この電極の貼付する位置や数は、その神経モニターの機種や、医師の考え方で多少異なることがありますが、基本原理は同じです。
神経モニタがどういう原理で、どのような機械的構造で機能しているかということについては、専門的になりすぎるため、この「安全な脊椎手術を求めて」というシリーズを続けていくなかで、少しづつ説明できると思います。ここでは、神経モニターを利用することで、何が得られるか、ということを皆さんの目から見てもわかりやすい形で、お示ししたいと思います。
上のふたつの画面は、別々の機種の神経モニターに表示される「Free Run EMG」(フリーランイーエムジー)と呼ばれる機能を使用したときの、手術中でのフリーランイベントの発生状態を示したものです。皆さんが見ても何か「異常」が発生していることが感じられると思います。実は、この手術中の「イベント」..... おそらく異常という言葉のほうが皆さんの感覚には理解しやすいと思いますが.... 手術中に発生した「何か」を感知してアラーム(警告)を出すのが、神経モニターという機械の役目なのです。
最初に引用した文書を再掲します
「術中の瘢痕剥離操作により神経損傷を来す可能性もある。脊椎脊髄手術では外科的処置の際に神経に近接した箇所での操作を伴うために、神経周囲の硬膜などと癒着を認める場合には術中神経損傷を起こすことがある。」
これは何を言っているかといいますと、瘢痕した組織や、癒着した組織の中、あるいはその周辺には神経が走っています。神経というのは、解剖図では簡単にどこにそれがあるかを書いてありますが、実際の手術では、神経がどこにあるか、というのは目で見てすぐにわかるものではありません。組織の後ろに隠れていたり、出血した血液が溜まってくるとますます見えなくなりますし、まして癒着組織の中にまぎれていたら、目で確認するということはほとんど不可能になってきます。
そこで、利用されるのが、電気の力.... 電流によって神経を反応させる、ということなのです。組織のそばに電流を流す⇒神経は電気で刺激を受けて反応する⇒その反応は、神経(ここでは道路をイメージして下さい)を流れ、⇒その反応を貼付した電極が感知する⇒その感知がモニター画面に表示される。
簡単に説明しますと、これが神経モニターの原理になります。
皆さんにとっては、原理がどういうことであるか、ということよりも、「神経モニター」のフリーラン機能が、手術中の神経の異常を感知して、術者の先生にアラームを出してくれる。ということが大切だ、ということがお分かりになると思います。
残念ながら、日本ではまだこの神経モニターが広く普及しているとは言えません。前回にも記載しましたが、この神経モニターを利用するには、実は、人手がかかるのです。経営に苦しい病院にとっては、人件費はできるだけ減らしたいというのがいまの日本の全ての病院が抱える現実です。この医療機器があれば、おそらくいまの日本でも、少なからぬ患者さんが手術中のトラブルを避けることができるはずなのですが。米国では脊椎手術を行う際に神経モニター抜きの手術というのはありえません。患者さんの安全を守ること、それが徹底しているのも米国らしいと言えます。日本は、.... こういうことを言いますと、先生がたから叱られそうですが、ご自分の腕に自信を持ちすぎて、神経モニターなどいらない、と考えるかたがまだまだおられる、というのが現実だと思います。前にも書きましたが、名医中の名医、先生がたの間でも「神の手」と評価される名城病院の川上先生でさえも、手術では必ず神経モニターを使っておられ、つねに最先端の神経モニターを利用して手術されているとのことです。患者さんの安全を守る、ご自分の腕を過信しない、そういう姿勢が多くの患者さん (そしてご家族から)信頼を得ているもとなのだと思います。
august03
69歳の母が手術を受けることになりました。1回目は骨の癒着を取る手術。2回目は後ろからスクリューを入れて固定する手術です。現在1回目の手術が終わったところですが、右足がマヒ状態となってしまいました。脊髄に造影剤を入れてみたり神経科の専門医に見てもらったりしておりますが、右足が動きません。執刀して下さった先生も困惑しており、2回目の手術は延期になったままです。こんなに辛い痛い思いをして1回目の手術をしたのに、このまま何もしなければ、1本の足を失い、且つ状況は何も改善しないままになってしまいます。この麻痺は直る見込みはないものでしょうか。2回目の手術は行うべきなのでしょうか。本人を含め家族が絶望の淵にいるところ、貴殿のブログを見つけ、思わずコメントをしてしまいました。何かアドバイスお願いします。
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MaliEliさんへ
ご心配のことと思います..... このStep by stepのなかで、何度もご説明させていただいておりますように、私はメディカルドクターではありません。また、皆さまへの医療コンサルタントをしているわけでもございません。あくまでもひとりの私人として、ボランティアで、多少なりともお役に立てれば思い、書き続けおります。
私には、医学的判断をする権限も、資格も、そして何よりも、法的責任を負いかねますことをまずご理解ください。
仮に、お話しを伺って、なんらかの考察はできたとしても、それが例えば、皆様から医療機関/医師に対する医療訴訟のようなものになったとしても、このブログは何の法的根拠にも、証拠にもなりませんし、逆に、医療機関/医師側から、このStep by stepあるいはaugsut03に対しての名誉棄損を訴えられることも、私の望むことではございません。
そういう事情を抱えていることをどうかご理解いただきたいと思います。
第一に、お話からは、事実を確認することができませんので、次の点について、あらためて教えて下さい。
①病名 ②手術部位 .....腰椎と思いますが、第一腰椎とか、第二腰椎というように詳しく ③手術日.....手術からひにちが立ちますと、マヒが解消してくることはありますので。 ④痛みの有無 ⑤マヒの状態....右足のどこからどこが動かないのか。まったく歩行困難なのか、動かすことはできるのか、例えば、足指は動くとか、下垂足と呼ばれるだけの状態なのか、そういう詳細情報 ⑥手術前は、何の障害もなかったのか、それとも手術前から、歩行に支障をきたしていたのか
とりあえずは、以上のことを教えてください。
.....ただし、上にも述べましたように、期待されましても、わかるかもしれませんし、わからないかもしれませんので、ご容赦ください。繰り返しになりますが、私は、医療過誤や医療訴訟の助けを目的としてこのStep by stepを書いているわけではございませんので、どうか、ご理解ください。
august03
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上記は、6月27日に記載しました。その後、私からの質問への回答がありませんでしたので、一度は掲載からは外しました。
ここでは、お問い合わせに対する返信ではなく、一般論として、外科手術と癒着の関係、その癒着により起こること、またそれに対する対策としての「神経モニター」の利用についてお話をしてみたいと思います。
癒着について : ネット情報からの引用となります。
癒着とは本来は離れて存在すべき組織間の接着と定義することができる。その原因には手術による組織への直接的な外科的損傷のみならず、手術用手袋に塗布されているタルクや処置に用いられるガーゼ、コットン等の繊維片も挙げられる。癒着は外科的手術の80%以上に認められると言われており、一般外科においては内臓の運動障害や腸閉塞等を引き起こす可能性がある。また脊椎・脊髄手術においては、馬尾症、馬尾癒着によるくも膜炎あるいは神経根症等、硬膜癒着による骨髄症等の重篤な症状を引き起こす可能性が高く、また再手術が必要とされる場合には、本来必要な処置を行う前に癒着を剥離することが必要となり、術者の負担となるばかりでなく術中の瘢痕剥離操作により神経損傷を来す可能性もある。脊椎脊髄手術では外科的処置の際に神経に近接した箇所での操作を伴うために、神経周囲の硬膜などと癒着を認める場合には術中神経損傷を起こすことがある。例えば椎間板ヘルニアに対する除圧手術は神経組織への損傷を避けなければならないが、再発ヘルニアの場合には、初回術後に硬膜などに癒着が生じており再手術時に操作が困難なために神経損傷を起こす可能性がある。したがって脊椎・脊髄領域における術後の癒着防止は、治療を有効なものとするばかりでなく、中枢神経系への人為的な損傷を防ぎ、さらには難治性の癒着性クモ膜炎の発症の予防にもつながるものである。
癒着は6つのステップにより形成されると考えられている(人工臓器,1994-95,282-285)。すなわち、まず手術等による損傷や炎症などによる異常をきたした部位へ体液,血液などの漏出が起き、フィブリノーゲンが滲出してフィブリンが形成されフィブリン網が形成される。この過程は分単位で進行する。次に時間単位でこのフィブリン網に白血球等の炎症細胞、マクロファージ、線維芽細胞が侵入し、これらの細胞から出される種々の酵素によりフィブリン網が溶解される。続いてこれらの細胞が出す種々の成長因子により繊維芽細胞の侵入が活発となり、細胞周囲のフィブリン網がコラーゲン繊維に置換される。この過程は日単位で進行するが、癒着組織の基本的構造が形成されるために不可逆的なものとなる。さらに週単位で複雑なコラーゲン走行の構築を持つ細胞線維性組織が形成され、これらの細胞による栄養要求性のために無数の毛細血管が侵入し、肉芽組織が形成される。その後月単位で一部の組織は創傷治癒の過程をたどるが、残存する組織はコラーゲン組織が大半を占めることになり、非常に強固な、丈夫な組織である瘢痕組織と称される状態となる。そして年単位で瘢痕組織のコラーゲン量の減少により周囲組織に″引きつり″現象を生じさせることになる。
癒着を防止するためには癒着する可能性のある組織,器官の間隙を隔絶させておくこと、上述の不可逆的状態に進む前の段階でフィブリン析出,細胞侵入,コラーゲン繊維産出などの過程を抑えること、位置的に癒着しそうな組織をたびたび動かして接触状態を維持させないことなどが考えられる。一般に漿膜損傷後の中皮細胞再生には5~8日間必要とされており、この期間損傷を受けた組織と周辺組織とを物理的に隔離して接触を遮断すれば、癒着の形成を防止・軽減することが期待できる。一方、脊椎脊髄手術の場合には、脊椎手術後の炎症の沈静化には術後最低2週間は必要であり、その間の隔離が必要と考えられる。
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以下はaugust03の説明となります
手術を行うことによる「癒着」の発生は、手術という身体への侵襲行為に対する私たち自身のカラダの自己防衛機能ということになりますので、癒着を防止する為には手術はしないこと。というような逆説的な関係になってしまいます。手術後には「癒着」はあるもの、というのが医学的常識であり、またそのような癒着した状態に対しては慎重な手術が要求される。ということも医学上の常識ということになります。
下記もネットからの引用です。
胸椎黄色勒帯骨化症
正中から観音開きに椎弓を左右に展開し側方で切除する。しばしば骨化巣が硬膜と癒着している。観音開きの際、円刃のメスで骨化部を切除しながら癒着を剥離する。硬膜の拍動が確認されれば薄く残った骨化部は切除せずとも除圧は完遂される。癒着剥離で硬膜と、くも膜が欠損し縫合が困難であれば自家筋膜で被覆縫合しフイブリン糊で覆う。術後は必ずドレナージし術後血腫の危惧を回避する。
〔合併症と予後〕
骨化巣と硬膜が癒着している場合、無理に椎弓を反転すると神経障害悪化が起こりうる。この点で、縦溝を左右のみとするen bloc椎弓切除は勧められない。くも膜損傷では髄液漏出により創汚染喀開が起こりうる。腰椎穿刺で無菌的持続ドレナージを行い創治癒後に抜去する。神経障害の予後は術前の重症度に対応するが、黄色靭帯骨化単独例では比較的良好である。
二分脊椎
脊髄脂肪腫摘出術,脊髄係留解除術
成長期に問題になるのが、脊髄脂肪腫、脊髄係留症候群(せきずいけいりゅうしょうこうぐん)です。腰の部分で癒着した背髄は身長の伸びについて行けずに引き延ばされます。足や膀胱・直腸に行く神経が引き延ばされてその機能が低下すると、転びやすくなる、尿を漏らすようになるなどの症状が学童期や思春期になって出てくることがあります。脂肪腫を摘出して脊髄下端の癒着を剥離することで症状が改善します。当院では、足の筋力、肛門括約筋の状態を電気的に測定しながら安全に手術を行うことができます。
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上記の「足の筋力、肛門括約筋の状態を電気的に測定しながら安全に手術を行う」を強調文字にしたのですが、実はここで説明されていることが「神経モニター」を使用して手術しています。ということなのです。
上図で青円のなかにある黒点が「電極」と呼ばれるもので、神経モニターにおいて、患者さんの身体に貼付して、体内を流れてきた電流を感知して、その電気信号を神経モニター本体に伝える役目をするものです。この電極の貼付する位置や数は、その神経モニターの機種や、医師の考え方で多少異なることがありますが、基本原理は同じです。
神経モニタがどういう原理で、どのような機械的構造で機能しているかということについては、専門的になりすぎるため、この「安全な脊椎手術を求めて」というシリーズを続けていくなかで、少しづつ説明できると思います。ここでは、神経モニターを利用することで、何が得られるか、ということを皆さんの目から見てもわかりやすい形で、お示ししたいと思います。
上のふたつの画面は、別々の機種の神経モニターに表示される「Free Run EMG」(フリーランイーエムジー)と呼ばれる機能を使用したときの、手術中でのフリーランイベントの発生状態を示したものです。皆さんが見ても何か「異常」が発生していることが感じられると思います。実は、この手術中の「イベント」..... おそらく異常という言葉のほうが皆さんの感覚には理解しやすいと思いますが.... 手術中に発生した「何か」を感知してアラーム(警告)を出すのが、神経モニターという機械の役目なのです。
最初に引用した文書を再掲します
「術中の瘢痕剥離操作により神経損傷を来す可能性もある。脊椎脊髄手術では外科的処置の際に神経に近接した箇所での操作を伴うために、神経周囲の硬膜などと癒着を認める場合には術中神経損傷を起こすことがある。」
これは何を言っているかといいますと、瘢痕した組織や、癒着した組織の中、あるいはその周辺には神経が走っています。神経というのは、解剖図では簡単にどこにそれがあるかを書いてありますが、実際の手術では、神経がどこにあるか、というのは目で見てすぐにわかるものではありません。組織の後ろに隠れていたり、出血した血液が溜まってくるとますます見えなくなりますし、まして癒着組織の中にまぎれていたら、目で確認するということはほとんど不可能になってきます。
そこで、利用されるのが、電気の力.... 電流によって神経を反応させる、ということなのです。組織のそばに電流を流す⇒神経は電気で刺激を受けて反応する⇒その反応は、神経(ここでは道路をイメージして下さい)を流れ、⇒その反応を貼付した電極が感知する⇒その感知がモニター画面に表示される。
簡単に説明しますと、これが神経モニターの原理になります。
皆さんにとっては、原理がどういうことであるか、ということよりも、「神経モニター」のフリーラン機能が、手術中の神経の異常を感知して、術者の先生にアラームを出してくれる。ということが大切だ、ということがお分かりになると思います。
残念ながら、日本ではまだこの神経モニターが広く普及しているとは言えません。前回にも記載しましたが、この神経モニターを利用するには、実は、人手がかかるのです。経営に苦しい病院にとっては、人件費はできるだけ減らしたいというのがいまの日本の全ての病院が抱える現実です。この医療機器があれば、おそらくいまの日本でも、少なからぬ患者さんが手術中のトラブルを避けることができるはずなのですが。米国では脊椎手術を行う際に神経モニター抜きの手術というのはありえません。患者さんの安全を守ること、それが徹底しているのも米国らしいと言えます。日本は、.... こういうことを言いますと、先生がたから叱られそうですが、ご自分の腕に自信を持ちすぎて、神経モニターなどいらない、と考えるかたがまだまだおられる、というのが現実だと思います。前にも書きましたが、名医中の名医、先生がたの間でも「神の手」と評価される名城病院の川上先生でさえも、手術では必ず神経モニターを使っておられ、つねに最先端の神経モニターを利用して手術されているとのことです。患者さんの安全を守る、ご自分の腕を過信しない、そういう姿勢が多くの患者さん (そしてご家族から)信頼を得ているもとなのだと思います。
august03
①病名:特発性側湾症(5歳で側湾症と診断され、12歳前後にはコルセット着用の成果がある程度あったとのことから、特発性との診断。今回の麻痺が出たことで、もしかしたら先天性だったのかもしれないと先生はおっしゃったそうですが・・。)②手術部位:本人を含め分らないようです。先生に確認中。③2011年6月20日 ④キズの痛み、背中全体の痛みは酷いです。特に胸のあたりまで「しびれた感じ」がするようです。⑤麻痺の状態:右足指は全く自発的に動かせません。ひざのコントロールもできませんが、意識していないときにビクッと動くことが出てきたようです。腰を使って足を押すことはできるようですが、もちろん歩くことは出来ません。 ⑥手術前に障害はありませんでした。歩行は普通にできておりました。
以上です。改めまして、august03様からお返事を頂いておりましたのに返答が遅くなってすみませんでした。毎晩日本と国際電話をしつつ、本人の精神的ケアで私も一杯一杯の状況でおりました。昨日あたりからリハビリが入ってきたようで、本人も少し前向きになり始めホッとしております。手術をしなければよかったと後悔するよりは、この状況からいかに抜け出すかに集中したいと言っております。3519
母は幼少の頃(10歳前)に既に側湾症と診断されました。コルセットを一時装着した時期もあったそうですが、いつの時点からか装着を止め、経済的に余裕がなかったこともあってその後医者には全く出向かない生活をしておりました。50歳を過ぎた頃から背中と腰への痛みが激しくなり、自分なりの体操を毎日続けておりました。本人は側湾症は直るものではないのだから医者に行っても仕方がないと思っていたようです。60才前後にインターネットを使えるようになり、自分と同じように苦しんでいる患者さんが大勢いること、側湾外来があること、患者の会もあることなどを知りました。背中の痛みも激しくなり、どんどん背が縮んでいるという自覚はあるものの、歩行などに以上はなくきわめて普通の生活が出来ておりましたので、医者にかかるということはどんどん先延ばしになって行きました。
70歳を目前にして、胃が苦しく吐いてしまう、呼吸が苦しいといった症状が一時的に現れ、初めて側湾外来にお世話になることになったという状況です。その時点での歪みは100度前後。背骨のレントゲンはクランクのようになっていたそうです。その場で手術を進められ、4ヶ月迷った挙句父の進めもあって手術に踏み切りました。
何の癒着があったのか私には定かではありませんが、背骨があまりにも硬くなってしまっているので、前から開腹してあばら骨を一本づつ取り(2回目の手術で使う予定)、超音波?を使用して背骨の骨と骨の癒着を取る手術が1回目。2回目の手術時には神経モニターを使用して今度は後方からスクリューなどを挿入していく、というのが手順であったようです。何故1回目の時に神経モニターを使用頂けなかったのは今となっては疑問ですが、普段であればこういった後遺症は起こりえないと執刀医の先生も憔悴しきっています。私たちは医療訴訟を起こしたいのではなく、今この状況からどうやった脱出するのが母にとって一番なのかを考えているのです。1回目の手術(6月20日)後、母は肺炎も起こしております。肺炎は未だ完治していません。右足は、触っているという感覚がわずかにあるものの、温度は感じません。ひざを立てるとパタンと倒れてしまってコントロールができません。腰で押すことは出来るようです。痛みは酷く、夜眠れないため座薬を入れてもらっています。腸の働きが極端に落ち、自分で便を出すことが出来ません。6・20に手術が終わってから一度もベットから起こしてもらっておりませんので、床づれもできつつあります。それでも体力は少しづつ回復してきていると父からは連絡が入っています。私もアメリカのインターネットで必死に調査をしております。まず69歳で手術という選択肢は本当に正しかったのか。アメリカでは50歳をすぎるとよほどのことがない限り手術はしないとの記述があります。でも、母はきっと余程のケースだったのでしょう。
さて、こういった現状で、2回目の手術をどうするかという問題がございます。2回目の手術のほうが体への負担は数倍大きいと聞いておりますし、母の体力が持つかなど大きな不安があります。本人も家族も出来れば手術をしたくありません。考えようによっては、1回目の手術で骨は多少なりとも矯正しやすくなっているはずなので、アメリカにある最新の装具(コルセット)をつけることで、これ以上の進行を防ぐ、という選択肢はないものかと考えております。august03さんはどうお考えになりますか?執刀医の先生は、体の回復を待って2回目の手術はしたほうがいいだろうとの見解です。この状態で、セカンドオピニオンを求めたいと母に持ちかけたところ、執刀医の先生に申し訳がないからそれはできないと母に断られてしまいました。正直、選択肢として何が残されているのかもよく分りません。お分かりになる範囲でアドバイス頂けましたら幸いです。