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も朝鮮人の泣くのがおかしい。事に依ったら愈々〈いよいよ〉変な所に行くのではなかろうか。さっき隊長が言うた打槍場〈ターチァンチァン、ふりがな〉、打〈ター、ふりがな〉は撃つ、槍〈チァン、ふりがな〉は銃、銃を撃つ場所、なんだ銃殺場のことじゃないかと私も漸く考え着いた。この儘〈まま〉では必ず殺される。何とかして逃げなければいけない。このまま銃殺されてしまえば、斯んな〈こんな〉事実を誰にも言わないで、どんな事があったのかも一般の日本人は知らないで済んでしまう。しかも昨日までは、政府を訪ねれば私等の案内をして、長官も私に会ったのに、今日は殺されなければならない。そんな馬鹿なことがあるものか。自分には報道の任務もある。なんとか逃げる方法はない物かと思ったが、城内のことではあり、四十人ぐらいの保安隊員で我々を囲んで居る。しかも私の前にはピストルを持った者が歩いて居る。
困り抜いて居ると、ふと、私の右腕を縛って居る麻縄が一尺五寸ぐらいの所で太い麻縄に結ばれて居るのを発見した。この結び目を
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解けと思って、警戒しながら歩調を稍々〈やや〉緩めた。必ずしも一列縦隊ではないから、先頭と云っても私だけが常に前になる訳でもない。他の人も前にちょっと出ることがある。そして私が歩調を緩めるから縄が緩む。其時に斯う〈こう〉やって左手を体〈からだ、ふりがな〉の前から右側に延ばして結び目を掴えた。そこで歩きながら死に物狂いの力でやると、結び目が遂に解けた。「しめた。之さえ掴んで居れば宜い」と、如何にも縄を持って居るように見えるが、実は解いた結び目をしっかり握って居った訳です。それから私は比較的冷静になりました。真昼間、天気も好し、空には鳥も飛んで居る。昨日と少しも様子は変わらないのに、我々が銃殺場に連れて行かれるとは、なんと云うことになったのでしょうか全く夢のようです。
私に取っては余りにも皮肉な命の綱をしっかりと掴みながら暫く歩くと、路地の行き詰りの所に着いた。其処〈そこ〉は市の外廓を囲む城壁の内側です。一見しただけで、誠に不気味なグロ風景が迫る。城壁の
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