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て、頭の上で振廻してから道に置いて、ちょっと指さして、また走り出した。暫くして後を振返ると、百姓と子供が時計を奪い合って居る。占めたと思って懸命に走り、四五町も離れてしまって、遂に彼等はついて来なかった。次の村でも同じことをやって居る。もう要領は解って居る。物をやりさえすれば宜いだろうと思って、今度はズボンを頭上で振回して投げ出した。今度もそれで追駆けて来なかった。その次の村では上衣を投げました。その次はネクタイと云う訳で、遂に私は裸同様の、シャツとパンツ、及びワイシャツを留めるゴムバンド、この三つだけになってしまった。足は勿論裸足〈はだし、ふりがな〉です。
八.恐怖の一夜を黍畑〈キビ畑〉に
通州を脱出して三時間ぐらいも走ったでしょうか、道のりにして五
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六里、通州の真北で、蘆〈アシ〉の生えた大きな沼の中に入った。まだ追跡して居るに違いない、出たら危いから此処にジッとして居るに限ると思って、蘆の密生した水の深い中に一時間ぐらい居りました。空は段々夕焼となり、陽は暮れて来る。併し〈しかし〉水の中に寝る訳には行かない。人声が段々と聞えなくなった時に、明るい方が西だろうと思って水の中を歩くと沼を出ることが出来た。そして畑を通って玉蜀黍畑〈トウモロコシ畑〉の中に入り込んだ。
其処を野宿の場所と決めて、寝てはみたけれども、何分蚊が多くて迚も〈とても〉寝られない。それに、どう云うものか黄金虫が非常に多く、之がブンブンやって来て中々寝られない。そのうち辺りが段々静かになって来ると、玉蜀黍〈トウモロコシ〉の葉の音が怖い。ジッとして居ると、ガサガサッという音がする。それが捜しに来た者が発見して段々私に接近する音に聞こえる。之はいけないと思って息を殺して見て居ると、眼鏡が無いものだから、玉蜀黍〈トウモロコシ〉の葉の組合せで色々な形が出来て、
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