一人人海戦術

世界の3%くらいの人に納得してもらえばいいかなと考える、オメガ・ブロガーを目指してみようか。

虐殺の巷通州を脱出して(同盟通信社特派員、安藤利男) page 26, 27

2014-08-25 18:48:38 | 歴史資料現代語化

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中に漬けたまま泳いで、息が苦しくなると上に浮いてちょっと呼吸する。水中で私は考えた、これから炎天を走るのであるが、きっと水が欲しくなる、水が〈な〉ければ日射病で倒れる。水は此の先何処にあるのか分からない、現在水はここにあるではないか、これを飲めと思ってその泥水を腹一杯呑みました。こう云うようにして向う岸に泳ぎ着いた。着くと直ちに玉蜀黍畠〈とうもろこしばたけ〉に走り込んだ。後から銃弾が飛んで居るかもしれない。一刻も早く此の危険区域を遠ざからなければならぬので、畠と云わず、川と云わず、池と云わず、約一時間ぐらいは無我夢中で驀地〈まっしぐら、ふりがな〉に、泳いだり走ったりしました。

 相当走ってから、どうも服が重くて思うように走れないのに気が付いた。勿論濡れた侭です。靴は勿論穿いていないし、靴下も水中でなくなったらしい。上衣とズボンを脱いで小脇に抱え、此時初めて後を振り返って見ましたが、通州城には濛々〈もうもう〉たる黒煙が上がって居る。之はガソリンに火が付いたのです。如何にも落城の悲哀を感じ

27

ました。丁度其時、我が軍の飛行機が一台、私の頭上を爆音勇ましく飛んで行きましたが、私は嬉しさのあまり、ズボンを振り回した。

 それから三十分も歩くと最初の村に入った。村に入っても道を聞いて居ると云うことを許されない。そして私はなんでも真直ぐに行き、その為、垣根に飛込んだり、軒下を走ったり、玄関に突き当たったりと云う訳で、百姓がビックリして遂にワーワーと叫びながら追駆けて来る。之に捕まったら銃殺場に送り還されることは分かって居る。私にしてみれば何も罪はないのだけれども、誰が見ても脱走者であることはハッキリして居る。逃げながら時々後を見ると、百姓は私を「先生々々」と呼びながら自分の片方の腕を頻り〈しきり〉に叩いて居る。ははあ之は私の時計をくれろと言って居るのだなと気が付いた。ワイシャツを捲って〈まくって〉居ったから時計を見たらしい。それで私は時計を腕から外し

 

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白戸 太朗 (監修)
宝島社
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