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内側は土が欠けて居る。人がそれに上がれるし、城壁のトップにも行ける。その少し斜面になって居る手前に五六間〈9-11メートル〉のドブがあり、その此方〈こちら〉に射手が立つ。ドブには一本の路があって、それを「渡れ」と言う。私が先頭に立って橋を渡って、斜面をどんどん上がりながら、茲ら〈ここら〉で逃げなけなければ〈原文ママ〉逃げる時がないと、城壁を飛び越える機会を只管〈ひたすら〉狙った。但しあまり目立ってはいけないので、トップまで約五尺〈1.5メートル〉ぐらいの所で停まった。多くの人は私より右の方に並びました。此時そっと時計を見ると午後二時半です。最後の一人がドブの道を渡って斜面の位置に着く頃、四十人ぐらいの射手の銃が縦から横へ、次第に「狙え」の位置になり始めた。私はハッと思って、城壁のトップに向かってスタートした。それより僅か前か同時か、時間的にはハッキリ判りませぬが、「逃げましょう!」という張り裂けるような女の声が聞えた。私はどんどん上がった。綱で縛られて居る者が上がれる訳がない。射手もビックリして一斉に私に向かってバラバラ
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と撃ったが、幸い一発も私に中らず、次の瞬間には私は城壁の反対側の縁に手を掛けて居った。
七.銃撃を後に泳ぎ且つ走る
城壁は、其時はそう高くないと思いましたが、今見ると、此処に写真がありますが、相当高い。この城壁を辷り〈すべり〉降りると、足も痛めていないし何処も怪我をしていない。城壁から十間〈18メートル〉ぐらい離れた所に運河がある。その運河は連日の雨ですから水嵩がある。城壁を辷り〈すべり〉下りて後をも見ずに走った勢いで、濁流滔々〈とうとう〉たる中に頭から飛び込んだ。水中を少し泳いでは頭を上げて呼吸をしました。其間、後では猛烈な銃撃が聞える。銃殺場の阿鼻叫喚も聞こえるような気がする。自分だけが逃げて済まなかった、あとの者はどんな目にあって居るだろうとは思いましたが、とにかく逃げなければならぬと、体〈からだ、ふりがな〉も頭も水の
友吉鶴心 (出演, アーティスト) | |
J.V.D. |
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