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それが私に錯覚を起こさせる。間違いなく兵隊が来て居る。唾を呑込むのも我慢してジッと見て居ると向うもジッとして居る。それは私の錯覚だったのです。錯覚だったと思っても矢張り怖い。死人の顔が出て来たり、惜い〈慴ろしい(おそろしい)と書こうとして誤ったか?〉錯覚の連続で、遂に其の晩は一睡も出来ませんでした。
九.支那土民の情けの粟飯〈アワ飯〉
不安の一夜が明けて、私は全くの野人になってしまった。朝起きがけに、その辺の玉蜀黍〈トウモロコシ〉を生のまま噛ったり、薩摩芋の小さいのを掘り出して食ったが、腹の足しにはならぬ。それから大体北平と見当を付けた方角に歩き出した。
敵地に入っても必ずしも敵ばかりではない。百姓などは非常に親切で、私は二人の百姓と一人の漁夫に救われました。その人達の情け
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があった為に斯うやって戻ってくることも出来た訳です。
その最初の親切な百姓にぶっつかったのは朝の十時頃でした。初めは玉蜀黍〈トウモロコシ〉の中に隠れて居って、百姓だと云うことを確かめてから出て行って、いろいろ話して、それから飯をご馳走になった。其上、親切な彼は、残った飯‐‐‐‐‐‐‐と云っても粟飯〈アワ飯〉を態々〈わざわざ〉紙に包んで、「持って行け」と次の食糧まで与えてくれた。更に靴を一つくれて、それがガタつくので態々〈わざわざ〉紐を持って来て、靴を足に縛り着けてくれた。そして「危いから決して村に入ってはいけない」と言いながら北平の方向を教えてくれた。救われた最初の嬉しさに私が握手をすると、「外国人はそう云うことをする」と言って居りました。
その日は食糧があるので随分と思い切って歩きました。山道ばかり〈「それがガタつく・・・」の行頭から、「その日は食糧があるので・・・」の行頭までを括弧で括ってある〉を歩いて居りました。夕方から雨になって、行先が非常に心細くなる。とある玉蜀黍〈トウモロコシ〉畑の曲り角でバッタリ便衣隊に出会った。こっちは勿論びっくりしたが向うもびっくりした。顔と顔を突き合わせ、目
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