ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

脳ミソ考。 北森鴻【冥府神の産声】

2008-12-27 | 光文社
 
きっとどれを読んでもそれなりに好きだろうと思う北森作品。
考えていたよりも作品数が多いので、読みつくすには時間がかかるだろうとも思います。
読もうかなと手に取りながら、また今度と先送りしている作品もたくさん。
この作品もそのひとつだったのですが、新装版で新刊に並んでいたので、今回は勢いがついて読んでみました。
脳死判定と臓器移植を題材にしたミステリ。
シリーズものではありません。

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 冥府神(アヌビス)の産声 新装版

 著者:北森 鴻
 発行:光文社
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人気のない公園で男が殺された。
男は解剖学の権威。臨時脳死及び臓器移植調査会の委員でもあった吉井教授。
以前はその研究室に所属し、考えの違いから大学を出た相馬は、彼の死を調べ始める。
臓器移植推進の急先鋒であった男の死。
その真相はどこにあるのか。
犯人はだれなのか。
その調査が進むうちに、相馬はかつての同僚であった九条を浮浪者の一団の中にみつけ、九条とともに暮らす少女に出会う。
九条はなぜ吉井と袂を分かつことになったのか。
彼らが行った実験とは?

体をどの時点から死体とみなすのか。
あまりにデリケートな問題でうかつに意見なども言えませんが、作品の中で、第二人称の死という言葉が出てきました。
第一人称の死は私の死。
第三人称の死は誰かの死。
第二人称の死は「あなた」と呼びかける近さにいる者の死。
第一人称の死、第三人称の死には冷静でいられても、第二人称の死には冷静でいられない。
その第二人称の死、あるいはその可能性に直面した時、「脳死」をどう考えるのか。
さまざまな立場の人間の思惑が入り混じる中、物語は緊張感を保ったまま進んでいきます。

コメディリリーフ的な人物が登場しないシリアスな作品で、著者が描く登場人物は静かな雰囲気。
とっつきやすさや個性らしい個性も見せない割にえらくかっこいいのです。
生活感を与えるような場面がないからということもあるのでしょうけれど、とぼけたところを一切感じさせません。
物語の進行に必要な迂闊さは時々みせますが、それは仕方ないし。
エビスさんこと九条は壊れているけれどやっぱりかっこいい…。
ホームレスとして暮らしていると書かれていても、怜悧な印象の二枚目俳優をイメージしてしまいます。
でも福耳なのです。
削げた頬に福耳。
真面目に想像すると、ものすごく可笑しいぞ、エビスさん。






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