東電の原発事故の被災地など8県の水産物の輸入を韓国が禁止していることについて、WTOの上級委員会が韓国の主張を認めた。一審に当たる紛争処理小委員会では「恣意的または不当な差別」を禁じるWTO協定違反との日本の主張が認められていたのだが、その判断が覆され、日本の逆転敗訴となった。
WTOの上級委というのはどういう組織なのだろうと思って検索してみたら、定数7人なのだが4人が欠員の状態だという(読売新聞2019-4-14;REUTERS 2018-9-27;Newsweek 2017-11-28)。アメリカのトランプ政権が退任者の穴を埋めるための再任や指名の承認を拒み続けているためだ。現職の3人の国籍はインド、アメリカ、中国だ(WTO)。三人いればまだ「機能不全」ではないということだが、二人を抱き込めば結論をいかようにも左右できるというのは異常ではないだろうか。(←と書いてから思い直したが、7人いても全員で合議するわけではないと思う。処理量が減るだけで、個々の案件を扱う人数は変わっていないのかもしれない。)
奇しくも安倍政権やトランプ政権は最高裁判事を自分のカラーに染める人選を行なっている(過去ブログ)。紛争調停機関の中立性というのはどれくらい保証されているのだろう。
それはともかく、今回の逆転敗訴について、朝日新聞社説2019-4-16を参考に考えをまとめてみた。
・まず、上級委は小委の判断を取り消したとはいえ、小委で認められた日本の食品の安全性については異論は出ていないという。ただ、科学的に安全ならいいというものではなく、「安全」とは別の「安心」という観点から輸入国側の裁量の幅を認めたということだ。だとすると、科学的な安全性を主張するだけでは問題は解決できない。原発事故の影響については日本でもまだ不安視する人はいる。安全性の説明はもちろんのこと、どうすれば日本人も、韓国人も、世界の人々も「安心」できるか、よく考えるべきだ。
・「安心」をアピールするために社説は厳しい検査体制を紹介することを挙げている。だが昨今、自動車メーカーなどで検査不正が報道されている。医薬等の論文などでも不正があると聞く。ISOの品質管理の認証を取ったのが取り消された化学メーカーもあった。原発関係でも、活断層の存在が指摘されるなどしても、深く考えずに「再稼働」の決定が下されているような気がする。そんなことが、日本がいくら検査しているといってもあてにならない、という風評につながっていないだろうか。
・また、上級委の報告書は韓国の禁輸措置がWTO協定に違反しているかどうかという点については言及しない中途半端なものだったという。
・そんなこともあって菅官房長官は敗訴ではないと言い張っているようだが、勝訴確実と信じた油断がなかったか。しっかり検証してほしい。
追記:「敗訴ではない」と言い張る政府の説明はどうも的外れだったようだ。関連記事「韓国の禁輸問題:政府のメンツのために的外れな主張をしては国際社会に笑われる」参照。
追記2:原発はテロもこわい。大型航空機の衝突を受けた際などに原子炉を遠隔で冷却する緊急時制御室などを備えるテロ対策が定められているらしいが、まだどこの原発でも設置できていない。再稼働のための審査後5年間は猶予期間とされていたらしいが、このたび原子力規制委員会はその期限の延長を認めない方針を決めたという(朝日新聞2019-4-24夕刊)。こういうことをきちんとやっていくことが、日本の「安全」主張への信頼を取り付けることにつながると思う。ゆめゆめ政府の横やりで腰砕けになることのないように願いたい。
WTOの上級委というのはどういう組織なのだろうと思って検索してみたら、定数7人なのだが4人が欠員の状態だという(読売新聞2019-4-14;REUTERS 2018-9-27;Newsweek 2017-11-28)。アメリカのトランプ政権が退任者の穴を埋めるための再任や指名の承認を拒み続けているためだ。現職の3人の国籍はインド、アメリカ、中国だ(WTO)。三人いればまだ「機能不全」ではないということだが、二人を抱き込めば結論をいかようにも左右できるというのは異常ではないだろうか。(←と書いてから思い直したが、7人いても全員で合議するわけではないと思う。処理量が減るだけで、個々の案件を扱う人数は変わっていないのかもしれない。)
奇しくも安倍政権やトランプ政権は最高裁判事を自分のカラーに染める人選を行なっている(過去ブログ)。紛争調停機関の中立性というのはどれくらい保証されているのだろう。
それはともかく、今回の逆転敗訴について、朝日新聞社説2019-4-16を参考に考えをまとめてみた。
・まず、上級委は小委の判断を取り消したとはいえ、小委で認められた日本の食品の安全性については異論は出ていないという。ただ、科学的に安全ならいいというものではなく、「安全」とは別の「安心」という観点から輸入国側の裁量の幅を認めたということだ。だとすると、科学的な安全性を主張するだけでは問題は解決できない。原発事故の影響については日本でもまだ不安視する人はいる。安全性の説明はもちろんのこと、どうすれば日本人も、韓国人も、世界の人々も「安心」できるか、よく考えるべきだ。
・「安心」をアピールするために社説は厳しい検査体制を紹介することを挙げている。だが昨今、自動車メーカーなどで検査不正が報道されている。医薬等の論文などでも不正があると聞く。ISOの品質管理の認証を取ったのが取り消された化学メーカーもあった。原発関係でも、活断層の存在が指摘されるなどしても、深く考えずに「再稼働」の決定が下されているような気がする。そんなことが、日本がいくら検査しているといってもあてにならない、という風評につながっていないだろうか。
・また、上級委の報告書は韓国の禁輸措置がWTO協定に違反しているかどうかという点については言及しない中途半端なものだったという。
・そんなこともあって菅官房長官は敗訴ではないと言い張っているようだが、勝訴確実と信じた油断がなかったか。しっかり検証してほしい。
追記:「敗訴ではない」と言い張る政府の説明はどうも的外れだったようだ。関連記事「韓国の禁輸問題:政府のメンツのために的外れな主張をしては国際社会に笑われる」参照。
追記2:原発はテロもこわい。大型航空機の衝突を受けた際などに原子炉を遠隔で冷却する緊急時制御室などを備えるテロ対策が定められているらしいが、まだどこの原発でも設置できていない。再稼働のための審査後5年間は猶予期間とされていたらしいが、このたび原子力規制委員会はその期限の延長を認めない方針を決めたという(朝日新聞2019-4-24夕刊)。こういうことをきちんとやっていくことが、日本の「安全」主張への信頼を取り付けることにつながると思う。ゆめゆめ政府の横やりで腰砕けになることのないように願いたい。