リベラルくずれの繰り言

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特定の弁護士に対する組織的な懲戒請求は正当か?

2018-05-20 | 政治
特定の弁護士に対する懲戒請求が殺到している.ネット上に懲戒請求を求めるブログがあり,請求のひな型まで用意されていたという.(朝日新聞2018-5-18
懲戒請求が出された弁護士のうち二人は業務を妨害されたとして一部の請求者に対して損害賠償を求めて訴える方針だという(AERA.dot).懲戒請求を呼び掛けたブログ主については刑事責任の追及も検討しているという.
これに対し,某氏は「懲戒請求した一般市民に対して、法的措置を執るこの弁護士たちの態度振る舞いは言語道断。しかも和解金を取るという」「懲戒請求をした人たちに違法行為がない限りは最大限保障されなければならない」と批判している.(はてなブックマーク

どちらが正しいのだろうか.
まず,懲戒請求は誰でもできると定められている弁護士法上の手続きで,それ自体を批判することは当たらない.だが,弁護士側の説明によれば,当人たちの仕事内容をきちんと把握せずに懲戒請求を出している人がいるようだ.大量の懲戒請求の請求書が届けば弁護士だって怖い.最悪の場合弁護士資格を失う可能性だってある.それに懲戒請求がされれば調査に応対するなど手間が発生するので,現実に負担が生じる.それだけのことをする以上,懲戒請求は事実に基づくきちんとした理由によってなされるべきだろう.(ネット上の匿名書き込みのノリで懲戒請求した人もいたみたいだが,懲戒請求をした人の実名や住所は弁護士に通知されるらしい(毎日新聞).その前提で,本当に正しいと思う請求に限るべきだ.)
一方,上記朝日記事によれば,一人で何回も請求しているケースもあるとみられるという.もしそれが事実であれば,「業務妨害」を裏付けることになるように思う.
懲戒請求をブログで呼びかけることはどうだろうか.署名運動など,賛同者を募って自分の主張を届けようとすること自体も必ずしも批判されるべきではないだろう.ただ,懲戒請求となると,場合によっては相手の弁護士資格の剥奪にもつながりかねないものだ.弁護士としてそれほどの非があったと確信できるだけの根拠があればともかく,そうでなければやはり問題があるのではないか.たとえば,考え方が気に入らないとか(たとえばの話だが,カジノ法案に反対する声明に賛同しているのが気に入らないとか)それだけの理由で懲戒を呼び掛けるというのは行き過ぎだと思う.

さて,ここまではあえて背景について何も触れずに論じた.本項を読む人に,自分の主義主張とは別に,何が正しいかを考えてほしかったからだ.
大量の懲戒請求のきっかけになったのは,朝鮮学校への補助金の交付の問題だ.文部科学省が2016年3月に交付を再考するよう自治体に通知を出したのだが,全国21の弁護士会などが政府の対応を批判する声明を出した.それが今回の大量請求のきっかけになったようだ.(ただし,請求した人は請求相手の弁護士が本当にその声明に関わったのかどうか,把握せずに行ったケースがあるらしい.)そして弁護士が法的措置を取ることを批判する上記の「某氏」は(上記リンク先の表示を信じるなら)あの橋下徹弁護士だ.だが場合によっては,左派が似たような呼びかけをすることだってあるかもしれない.「朝鮮学校への補助金の交付」への賛否とは切り離して,組織的な抗議行動というのはどこまで許されるのか,考えたい.
それにしても,名門中学校の教科書採択に対する組織的な「問い合わせ」が行なわれた事例(過去ブログ)や,靖国問題に関するブログに4人で700以上のコメントを付けた事例(別の過去ブログ)を紹介したことがあるが,この手の運動は(左派もやっているのだろうが)右派の運動で盛んのように思える.こうして右派の主張ばかりが増幅されて「世論」と思われてしまうのは,それはそれで怖い.

関連記事:
「言論のフェアプレーはつらいよ」
「組織的なアンケート回答で教科書を変える」

関連リンク:
「ブログの言うまま、懲戒請求 ひな型送られ「日本のために」 朝鮮学校巡り、弁護士会へ13万件」(朝日新聞2018-6-23

追記:弁護士側が慰謝料などを求める通知を送ったことを「脅迫だ」として損害賠償を求める裁判が起こされたが,それに対して弁護士側が業務妨害などを理由として反訴した(朝日新聞2019-4-12)。その記事ではブログの呼びかけに応じて懲戒請求したが「目が覚めた」男性の経緯を紹介している。ブログを見て住所を登録すると、ブログ筆者の名前も連絡先も知らされないまま書類が郵送されてきた。署名押印して指定の宛先に送付することを繰り返したという。ブログには郵送するだけであとは「何もしなくていい」とあったのに裁判所に呼び出されるなどしておかしいと気づいたそうだ。


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