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リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

外交青書:「北方領土は日本に帰属」の削除をどう考える

2019-04-30 | 政治
外務省が2019年版の外交青書で2018年版にあった「北方領土は日本に帰属する」との表現をなくした。外交上の配慮だという(朝日新聞2019-4-23)。最初聞いたときには、外交交渉の雰囲気を損なわないための好ましい配慮だと思ったのだが、「「固有の領土」教えよではないのか」という新聞投書(朝日新聞2019-4-28)を読んで考えを改めた。
たとえば韓国の裁判所が日韓合意を反故にする判決を出したとき、韓国政府が対応を決める前から日本側で大きく騒ぎ立てるのは、感情的な反発を買って外交上の国益を損なうことは明らかだ(過去ブログ)。北方領土問題でも、感情的な対立をあおる反ロシア宣伝などを控えるべきことは言うまでもない。
だが「北方領土は日本に帰属する」との表現をなくすことはどうだろうか。

それが事実に基づく主張ではなく、単に日本の立場を強めたいがために取ってつけた主張であったのであれば、青書からの削除も当然だろう。だが、日本政府は歴史的事実に基づいてそのように主張していたはずではなかったか。つまり、日本はサンフランシスコ平和条約で千島列島を放棄しているが、そもそも北方四島は千島列島の中に含まれないというのが日本政府の見解だ(外務省)。昔、野党はそのような自民党政府の主張は詭弁だと批判していたと思うが、その主張を取り下げたわけではなかろう。主張すべきことを主張しないで経済協力に見返りとしての禅譲を待って政権の手柄にしようというのは、交渉の進め方としてはやはりおかしい。

今回の「北方領土は日本に帰属」との表現の削除には二つの問題があると思う。
(1)領土交渉は歴史的事実に基づいて何が正しいか、という観点から進めるべきであって、双方の主張を明確化せずに交渉を進めても、納得できる結論は得られない。上記外務省の説明を見ると、結局、ソ連による北方四島占領は日ソ中立条約を破り、連合国間の領土不拡大の原則をも破っていたから返還すべきだ、ということなのだと思う。それを日本は「不法占拠」と言い、ロシアは「第二次大戦の結果」と言う。そのような領土拡大が当時の国際法に鑑みて正当化できるかどうか、という点こそ議論すべきではないだろうか。日ロとも、自国が正しいという結論ありきの主張はやめて、双方の主張の正当性を客観的に検討すべきではないだろうか。(つまり、日本政府が「北方四島は千島列島に含まれない日本固有の領土」という主張を取り下げて、ソ連による領土拡大の是非の議論に焦点を絞る、ということであれば、今回の記述の削除は的を射ていることになる。)
(2)日本政府がこのところ国内向けの主張と対外的な主張を使い分けている点が気になる。上記投書でも指摘されているように、国内向けには学習指導要領では「歴史的にも国際法上も日本の固有の領土」と教えるものとして、教科書検定でも細かく意見をつけていたのではなかったか。もし国際的に通用しない主張であれば、それを国内向けに使い続けるのはおかしい。正しい主張なのであれば、それは交渉の基礎として主張し続けることに何ら問題はない。過去ブログでも書いたように、禁輸問題でWTO上級委が韓国の主張を容認したことを「敗訴ではない」と説明したり、アメリカとの貿易協定を「FTA(自由貿易協定)ではなくTAG(物品貿易協定)」と言い張ったりするなど、政府が二枚舌で国民を欺こうとする「大本営発表」には気をつけなくてはならない。



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