日本版生ハムメロンはNo Good!...その1

2005-12-21 14:53:48 | 美味しんぼ話

高級マスクメロン高級生ハム・プロシュートの組み合わせ

結論から云うと 味覚と風味を殺し合うまずい組み合わせだ
この2つを同時に食すると
口の中にマスクメロンの甘いジュースと香りが広がる中
ジュースを飲み込んだ後、そこに生ハムの生臭さと
ラードのような重い脂肪分が口の中に残り広がり、
それを肉とともに噛み砕いてから飲み込む代物だ。

推察しうるに
この組み合わせを世に広めたのは 日本の高級ホテルとグルメ評論家たちだろう。

遙か昔(東京オリンピック開催前)の話だが、こんなことがあった。
帝国ホテルでは世界中から来日する外国客(オリンピック出場選手や要人も含め)を迎えるため、日本の料理人として恥ずかしくない料理を提供しようということで、オリンピック開催期間中、日本中の西洋料理に造詣の深い料理人に調理の協力応援を要請した。そこでは外国料理の研究会・勉強会も多く開かれた。
そこにオードブルも各国から集めたレシピをもとに、日本にある食材で創作された経緯がある。(欧州で食されているメロンの品質に問題があったり、常時入手確保できないこと、仕入単価が高価となる理由などから日本の食材が検討され用いられた)
そこで、当時、帝国ホテルほか日本の高級ホテルで出す(仕入れている)メロンといえばマスクメロンだ(当時は超高級品で貴重品。温室メロンの生産農家は極めて少ない持代で、マスクメロンを卸すのも高級ホテルやデパート、千疋屋など高級フルーツ専門店に限られていた時代。「イメージできる?」)

帝国ホテルのエリート料理人たちは、エスコフィエの伝統を受け継ぐ名門、パリのホテル・リッツで修行するのが伝統で、西洋料理のベースは頑固に正統フランス料理とされている。
フランス料理(元々は美食とはほど遠い田舎料理)の進化発展にはイタリア料理(中世に仏は伊王室から妃をめとった際、メディチ家のお抱え料理人が妃に付いて仏王室へ入り美食の伝統料理を伝えた)の寄与したところが極めて大きい。Prosciuto e melone(生ハムとメロン)もイタリアからフランスに伝えられた料理の一つ。

メロンの品種は多すぎて私も正確なところはつかめないが、網(ネット)メロン、冬(ウィンター)メロンの西洋系メロンも、マクワウリ、シロウリなどの東洋系メロンもオリジンはキュウリ属メロ種とされる同種同族の植物。

イタリアでProsciuto crudo e melone(生ハムとメロン)でもっぱら使われるのは、日本では殆ど栽培されていないカンタロープ型メロン、いわゆるロックメロンというヤツ。
西洋系メロンの主流は、果面に網目が出る網(ネット)メロン、マスクメロンはこれに属し、もう一つの主流に、外観はメロンとは思えないものもあるカンタロープ型メロンがある。マスクメロンのような果汁(ジュース)がしたたり甘味・芳香の強いものでなく、甘みは少なく味は淡白、マスクメロンのように単独で食すよりも肉系のモノと調理したり、瓜に近い野趣な香りがあるため、正に生ハムなどと合わせて食べるととても具合がいい。

本来は帝国ホテルほか海外修行してきたエリート料理人たちは、ロックメロンの存在は十分承知してたハズだ。しかし、美味いロックメロンが国内で手に入らないことで、一流ホテルの看板を背負った料理人たちは、フランス料理の華やかな演出のためにオードブルには(彩りも美しい)マスクメロンを使用したと考える。

*参考までに画像にあるのがロックメロンだ。(夕張メロンのように見えるが別物)
グルメの人ならご存じ、雁屋哲氏のマンガ「美味しんぼ」でも紹介されてた。あれ読んだときはうれしかったな。「そうだよ、ロックメロンなんだよ!マスクメロンなんて絶対合わないんだ」と叫んだよ。
ミカン色、あるいは赤身がかったパパイア色や品種改良でピンク系のものまであるが、生肉の赤身の色とこのメロンのオレンジ系の色が重なると、彩りにうるさいこだわりのフランス料理人は拒むんだな~!

メロンは戦前には贈答用のマスクメロンしかなかくて、庶民が口にするのはマクワウリだったんだ。戦後、西洋の路地メロンを掛け合わせた新種が多く作られていった。プリンスメロン、アンデスメロン、アムスメロン、夕張メロン等々が生産農家の思惑と消費者の口を満足させるメロンとして厳しい過当競争を経て生き残っているわけだ。
だから戦後のメロンの品種改良が進む中で、何も海外のロックメロンを珍重し食材として使う必要などまったくなく、国内で充分生ハムに相性のいいメロンは開発されてきている。しかし、日本人の食卓に高価な生ハムに相性のいいメロンなどをわざわざ買い求める家庭がどれだけいる?自ずと農家は需要の望めない商品に開発欲はわかない。
それゆえ、某高級ホテルが便宜的にでも創作したマスクメロン利用のオードブルが現存してしまう(本来ならとっくに淘汰されていい組み合わせなのに)。
加えて、食通評論家などが「珍味だ。美味だ」などと評価したもんだから、当時帝国ホテルに集まり応援協力した料理人たちが共有レシピを地元に持ち帰り、マスクメロンと生ハムの組み合わせで紹介したもんだから全国的な定番になっちゃた。

(つづく)

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