南西諸島貝殻学入門

分子細胞生物学と博物学の分野に跨る「貝類学」を、初歩から学んでみましょう。美術学や数学的な見地からも興味をそそられます。

西南諸島貝殻学入門-005

2013年06月23日 | 生命科学

 

         西南諸島貝殻学入門                                   
                                           -005


              


 

 台風が遠慮がちに奄美大島近海を通過して行きました。特に強い風もなく大雨も降りませんでした。何か拍子抜けしたような感じがします。 太平洋高気圧の勢いが今年は強く、舌の様な形の高気圧の足が東シナ海に伸びている関係でしょうか。 トカラ列島は大変な雨雲が一昼夜に渡って通り過ぎて行きました。もう近日中に梅雨明けでしょうか。

先回は西南諸島の自然環境、特に黒潮の流れについて書いてみました。ご承知のように貝というものは、何処にでも平均に分布しているわけでもなく、加計呂麻島のような小さな島でさえ、場所によって局在して見られる貝というものがあるかと思えば、何処へ行っても嫌と言うほど見られる貝もあります。<マガキガイ>はここいらでは「テラダ」と言うのだそうですが、兎に角勘弁してというくらい転がっております。

 

                         マガキガイ



 

<マガキガイ>と<マガキ>は似ても似つかない貝同士であることも・・・かと思えば<アオイガイ>のように滅多に荒れた日の翌日しか特定の場所でしか見受けられない貝もあります。と思っていたら遠くフィリッピン方面から暖流に乗っかってドンブラ、ドンブラ流れて来る<オオムガイ>などもあります。これなどは在島1 . 5年でたった1個のみの拾いでした。 「宝くじ」にでも当たったような感じ。

 

                         マガキ 

 



貝の採集経験者の間で特に人気のある<タカラガイ>・・・世界中で230種類程とか。日本には43種だそうです。とても色鮮やかな色合いと卵形の殻形、そしてなりよりも殻の表面のガラス光沢は、人の心を引きつけずには居られません。このタカラガイも全国に満遍なく生息したり、転がっている貝ではないのですね。

 

 



                                  タカラガイ

 

 

 



盛口 満 著・「おしゃべりな貝(拾って学ぶ海辺の環境史)」によりますと、タカラガイは南方系の代表的な貝だそうで、神奈川県の三浦半島沿岸海域に於けるタカラガイ類の分布状況を調査したところ、43種類のタカラガイを採取したそうです。 その数99.307個。その内<チャイロキヌタ><メダカラ>が全体の96%を占めていたそうです。

 

        チャイロキヌタ

 

そして、驚く事に海岸で拾う事が出来た30種のタカラガイの内、わずか7種ほどしか、一生定住している種類は無いのではないかと結論づけたそうです。残りの23種類ほどは南方から幼生がプランクトンとして流れ着き、一時的に成長するものの、繁殖まで至らなかった種類であろうと結論づけたそうです。

 

                        メダカラ

 

では、その7種類とは
1-メダカラ 2- チャイロキヌタ 3-オミナエシダカラ 4-ナシジダカラ 5-ハナマルユキ 6-ホシキヌタ
7-カミスジダカラ

これに対して沖縄県宜野座の海岸では小一時間で18種のタカラガイを拾う事が出来たということです。そしてそのうち11種まで千葉県館山でも拾う事が出来た。つまり可なり共通していると言う事ができます。

それでは加計呂麻島ではどうでしょうか。 
統計はまだ取ったことはありませんが、 1-ハナビラダカラ 2- キイロダカラ 3-ハナマルユキ 4- チャイロキヌタ ではないでしょうか。ハナビラダカラは地域によってバラツキが有りますが、以下も2.3.4はほぼ平均しています。場所によってはチャイロキヌタばかりしか転がっていない浜も有ります。しかしながら、チャイロキヌタは世界的に見ると、本州以南九州にかけての日本沿岸と朝鮮半島の一部にしか分布していない種類なのです。そして、南に行くほどひろえなくなるとか。面白いですね。

 

 

キイロダカラ

 

               ハナビラダカラ

 

              

 

 

     ちょっと 一休み 喫茶室   


 ラテン語・・・ 博物学に近づくと先ずお目に掛かるのが、「学名」です。中学時代から英語の読み方に慣れている日本人にとっては、ラテン語は少し戸惑う言語です。ラテン語はイタリア語・フランス語・ルーマニア語・スペイン語・ポルトガル語などのランス語系の言語です。 基本的には小学校時代に習ったローマ字読みをすれば良いのですが、余りにも英語の多種多様な発音に幻惑されて来ましたので、つい間違ってしまいます。

Cyprinus carpio・・・英語読みでは・・・”サイプリナス カーピオ”

            ラテン語読みでは・・・”キュプリカス カルピオ”

一番間違いやすいのが[C] ・・Ciは  です。 とか セ とか チェ にはなりません。

 Cicero・・・”キケロー”  つい ”シセロ”  、 Centrum・・・”ケントゥルム” つい ”セントラム”

 Species・・・”スペキエース” つい ”スペスィーズ” と読みたがります。 

現在、先島諸島の西表島の貝の採取状況を基本として、加計呂麻島の貝の採取状況を整理している最中ですが、結構面白い結果が出てくるかもしれませんね。三浦半島での10万個に近い数字に比べ、まだ千を超えた位ですから統計学的にはまだまだですが、定点観測をしながら採取してますと、身体で大体の状態が分かるかもしれません。ただ、注意しなくてはならないことは、浜にはあまり転がって居なくても、水中深くもぐればまだまだ思った以上の貝が生息しているということです。

 

                      ハナマルユキ

 

先般、大島海峡でその事を発見しました。 <クモガイ><イボソデ><オニノツノガイ>は、もうあまり付近には居ないのかと思っておりました。余り砂浜で見かけなかったからです。 しかし、ある漁師の家の前の海岸一帯の付近には大量の上記の貝殻が漂着しておりました。つまり、海峡の深みにはまだまだたくさん生息していたということになります。表面上だけで即断してはいけませんね。来年からは実際に海にもぐって、この目で確かめたいと思います。

 

 

スイジガイ                                    クモガイ

 

 

タカラガイに限らず世界中には見た目に類似した貝、つまり同種の異体がかなり有ります。10万~11万種類といわれる貝の全てを網羅するのは至難でしょうし、深海にはあるいは化石貝を含めて調べれば、さらに膨大な数になると思います。日本は海産物に恵まれているとは言え、貝だけでも7~8000種類程度です。10%に満たない数字です。博物学の奥行きの深さに驚かされます。

次回は貝の発生について考えてみたいと思います。

 

 

 

 

 



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