読書の森

松本清張と林芙美子 その2



松本清張は一見醜男である。
又、家が貧しく上の学校に進む余裕がなかった。
『半生の記』を読むと、恋愛経験に乏しかったと言う。
これが彼の人生観を堅実にした要因であろう。

妻子や老親を養う中で懸賞金の為に書いた『西郷札』。
この卓抜な着眼点が彼を世に出した。
遅咲きの人である。



全く異なる作風の二人の作品に、何故か私は強く惹かれる。
それは一人っ子で、父親の職業が定まらない為子供時代に次々と住まいを変え、終生親に縛られたという点で全く同じだからである。
芙美子も清張も旅が好きである。
そして実際の飢え以上に心の飢えた体験が、満ちる事への希求がその作品から伝わってくる。
それが自分の共感を呼ぶのだと思う。

それだけでなく、私は二人の育った地域に憧れを持っている。
荒々しい関門海峡の波音とはどのようなものか、まだ見ぬ土地への憧憬が深い。
無頼な雰囲気と共に熱い情熱が、その音から聞こえる気がする。

ただ、名が出てから二人の活躍した舞台は東京であり、名声を博してからは山手のお屋敷に住んだ。
戦後間もない頃の流行作家は、殆どが高額所得者であった。

しかし、芙美子も清張も金銭的に満ち足りても貪欲に書き続けた。
それは名声へのあくなき野望よりも読者に認められたいという欲求からではなかろうか?
兄弟もなく、転々とした為に馴染む友人にも恵まれなかった彼らにとって、創作は飢えた心を満たす最高の手段だったのかもしれない。
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