読書の森

スキャンダル その3



エリカは恐々、FBを開いた。
エリカに寄せられた悪口雑言は思いの他に少なかった。
恐らくセキュリティを固くしていたお陰であろう。
それでも、見も知らぬ男たちからの嫌らしい言葉が連なっていた。

情報とはどこから漏れるかは分からない。
しかも偽の情報である。
情報を流した人間が陰で舌を出しているに違いない。
全く正体不明である。
それなのに、気持ちの悪くなる様なメッセージがエリカに届くのである。

エリカはFBを退会した。
そして、昼間外出出来なくなった。夜中にコンビニで食糧を調達する位がやっとだった。



しかし、狭いアパートの中に居ると気持ちが滅入るばかりである。
エリカは普段コンタクトをしてるが、その日は黒縁の眼鏡をかけ、大きなマスクをして、思い切って外に出た。

冷たく澄んだ外気がエリカにはひどく心地よかった。
エリカが深呼吸しようとした途端声を掛けられた。
「ほう、変装ですか? 木村エリカさん」
彼女がギョッとして振り向くと、フラッシュで目が眩んだ。

小柄な男がニヤニヤ笑いかけた。
「S社のものですが、お聞きしたい事があって」

男は雑誌社の名を名乗った。

突然、雑誌記者が無辜の人間に取材をするのか?
何故こんな無礼な事されなきゃならないのか?
「私何も知りません」
エリカは上ずった声を出した。

「まだ何も言ってませんがね?」
男は舌舐めずりして卑しい表情を浮かべた。

訳の分からない衝動に駆られて、エリカは嫌らしい男に殴りかかろうとした。
その時脚が滑って、ぬかるみに転んだ。
彼女は大声を上げて泣いた。

元々傷つきやすく激しやすい心を隠していたエリカである。
目立たぬ様にして傷つくのを避けていたのに、次々襲う強いストレスが彼女の神経を狂わせた。

「こりゃキチガイだ」
男は慌てて逃げていった。

(続く)

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