太宰治の「人間失格」115ページ
「ようし。ゲンマンしよう。きっとやめる」
そうして翌日、自分は、やはり昼から飲みました。
夕方、ふらふら外へ出て、ヨシちゃんの店の前に立ち、
「ヨシちゃん、ごめんね。飲んじゃった」
「あら、いやだ。酔った振りなんかして」
ハッとしました。酔いもさめた気持でした。
「いや、本当なんだ。本当に飲んだのだよ。酔った振りなんかしてるんじゃない」
「からかわないでよ。ひとがわるい」
てんで疑おうとしないのです。
「見ればわかりそうなものだ。きょうも、お昼から飲んだのだ。ゆるしてね」
「お芝居が、うまいのねえ」
「芝居じゃあないよ、馬鹿野郎。キスしてやるぞ」
「してよ」
「いや、僕には資格が無い。お嫁にもらうのもあきらめなくちゃならん。
顔を見なさい、赤いだろう?飲んだのだよ」
「それあ、夕陽が当っているからよ。かつごうたって、だめよ。きのう約束したんですもの。
飲む筈がないじゃないの。ゲンマンしたんですもの。飲むだなんて、ウソ、ウソ、ウソ」
「ようし。ゲンマンしよう。きっとやめる」
そうして翌日、自分は、やはり昼から飲みました。
夕方、ふらふら外へ出て、ヨシちゃんの店の前に立ち、
「ヨシちゃん、ごめんね。飲んじゃった」
「あら、いやだ。酔った振りなんかして」
ハッとしました。酔いもさめた気持でした。
「いや、本当なんだ。本当に飲んだのだよ。酔った振りなんかしてるんじゃない」
「からかわないでよ。ひとがわるい」
てんで疑おうとしないのです。
「見ればわかりそうなものだ。きょうも、お昼から飲んだのだ。ゆるしてね」
「お芝居が、うまいのねえ」
「芝居じゃあないよ、馬鹿野郎。キスしてやるぞ」
「してよ」
「いや、僕には資格が無い。お嫁にもらうのもあきらめなくちゃならん。
顔を見なさい、赤いだろう?飲んだのだよ」
「それあ、夕陽が当っているからよ。かつごうたって、だめよ。きのう約束したんですもの。
飲む筈がないじゃないの。ゲンマンしたんですもの。飲むだなんて、ウソ、ウソ、ウソ」