太宰治の「人間失格」の137ページ
東京に大雪の降った夜でした。自分は酔って銀座裏を、ここはお国を何百里、ここ
はお国を何百里、と小声で繰り返し繰り返し呟くように歌いながら、なおも降りつもる
雪を靴先で蹴散らして歩いて、突然、吐きました。それは自分の最初の喀血でした。
雪の上に、大きい日の丸の旗が出来ました。自分は、しばらくしゃがんで、それから、
よごれていない個所の雪を両手ですくい取って、顔を洗いながら泣きました。
東京に大雪の降った夜でした。自分は酔って銀座裏を、ここはお国を何百里、ここ
はお国を何百里、と小声で繰り返し繰り返し呟くように歌いながら、なおも降りつもる
雪を靴先で蹴散らして歩いて、突然、吐きました。それは自分の最初の喀血でした。
雪の上に、大きい日の丸の旗が出来ました。自分は、しばらくしゃがんで、それから、
よごれていない個所の雪を両手ですくい取って、顔を洗いながら泣きました。