「人間失格」の70ページと71ページ
その夜、自分たちは、鎌倉の海に飛び込みました。女は、この帯はお店のお友達か
ら借りている帯やから、と言って、帯をほどき、畳んでい岩の上に置き、自分もマント
を脱ぎ、同じ所に置いて、一緒に入水しました。
女のひとは、死にました。そうして、自分だけ助かりました。
自分が高等学校の生徒であり、また父の名にもいくらか、所謂ニュウス・バリュー
があったのか、新聞にもかなり大きな問題として取り上げられたようでした。
自分は海辺の病院に収容せられ、故郷から親戚の者がひとり駆けつけ、さまざまの
始末をしてくれて、そうして、くにの父をはじめ一家中が激怒しているから、これっきり
生家とは義絶になるかも知れぬ、と自分に申し渡して帰りました。けれども自分は、
そんな事より、死んだツネ子が恋いしく、めそめそ泣いてばかりいました。本当に、
いままでのひとの中で、あの貧乏くさいツネ子だけを、すきだったのですから。
その夜、自分たちは、鎌倉の海に飛び込みました。女は、この帯はお店のお友達か
ら借りている帯やから、と言って、帯をほどき、畳んでい岩の上に置き、自分もマント
を脱ぎ、同じ所に置いて、一緒に入水しました。
女のひとは、死にました。そうして、自分だけ助かりました。
自分が高等学校の生徒であり、また父の名にもいくらか、所謂ニュウス・バリュー
があったのか、新聞にもかなり大きな問題として取り上げられたようでした。
自分は海辺の病院に収容せられ、故郷から親戚の者がひとり駆けつけ、さまざまの
始末をしてくれて、そうして、くにの父をはじめ一家中が激怒しているから、これっきり
生家とは義絶になるかも知れぬ、と自分に申し渡して帰りました。けれども自分は、
そんな事より、死んだツネ子が恋いしく、めそめそ泣いてばかりいました。本当に、
いままでのひとの中で、あの貧乏くさいツネ子だけを、すきだったのですから。