今日は「防衛」の問題について考えたいと思います。
この問題は、この国のカタチを考えるなかで実は最重要かもしれません。
近現代の日本政治に詳しいかたならば「吉田ドクトリン」のことはご存じかと思います。
これは、第2次世界大戦後の政権を担った吉田茂首相によって打ち出された、
「日本の安全保障の多くをアメリカに担ってもらい、日本は経済成長と経済発展最優先する」という国家方針です。
「国としてのプライドを捨てた」とか「対米従属」だという批判はあったものの、国防費に国家予算を割く必然性が薄れ、
経済政策に傾注できたことで、日本はその後の高度成長期を迎えたことは紛れもない事実です。
その後冷戦終結までは、日本政府は、なんだかんだ言いながらも、
「平和憲法とアメリカによる安全保障のもとでの経済成長をめざす」という国家方針で
このくにのカタチを考えればよかったことも紛れなき事実です。
政権担当者にとって楽な時代でしたね。
でも、いま時代は変わっています。劇的にしかも複雑に。
冷戦終結後、事態が変わり始めます。
2001年9月11日のアルカイダのテロ攻撃は、アメリカを中心とした世界秩序に対する攻撃であり、
ここにアメリカを中心とした欧米的価値観とイスラム主義の対立が表面化、先鋭化し、
さらには2008年のリーマン・ショックによって、市場中心主義とアメリカによる世界秩序そのものが
揺さぶられ始めた、いや崩壊し始めたと私は考えています。
さらには、冷戦の敗者であったはずの共産主義国家である中国がアメリカの地位を脅かす大国となったことで、
アメリカ自体が混乱し始めて、今日のアメリカ国内の分裂につながっているのだ、とも考えています。
現在の不安定化した世界秩序のなかで世界は危機の時代に突入しています。
もはや日本が信奉してきた「吉田ドクトリン」は空虚な方針となり、有名無実化し、
戦後はじめて日本は自国の防衛を真剣に考えねばならなくなったのです。
2022年は日本政治にとって大転換であったと後世の教科書に書かれるかもしれません。
昨年12月16日、政府は安保三文書(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)を改定し、
「敵基地攻撃能力(反撃能力)」を明記しました。字句に対する法解釈解説は諸議論があるので、
私なりの解釈だと「存立危機事態(敵国基地が日本を攻撃する準備を始めた)と認定すれば集団的自衛権を行使できる」
ということですが、これ冷静に現実的に考えて、現状の日本の能力で大丈夫なのか、という不安を覚えます。
まず、この改定で世界が日本をどうみているかというと、
乱暴な言い方をすれば「日本は存立危機事態になれば米軍と共同作戦(軍事行動)をすることになった」ということであり、
どこであれ日本の敵国となる国からすれば、
「これで、米軍基地と同時に緒戦から日本の自衛隊基地も攻撃対象にしなければならないな」ということになります。
エーワックスが配備されている浜松基地は間違いなく最初の攻撃対象確定的です。
また、私が問題視する「日本の能力」というのは、自衛隊には悲しいかな独自の情報収集能力がないということです。
専守防衛に徹してきた我が国は各国の軍事情報をスパイ衛星などを使って入手することはできませんでしたから、
当然といえば当然です。そうすると、存立危機事態と認定し集団的自衛権を発動するとき、
その判断材料がすべて米軍情報だとしたら、はたしてそれで本当に大丈夫か、と警鐘を鳴らしておきたいと思います。
かつて、アメリカブッシュ政権は「イラクに大量破壊兵器がある」としてイラク戦争を始めましたが、
結局大量破壊兵器はなかった。こんなことが万が一繰り返されたら、第3次世界大戦になりかねない。
しかも今度は地球を滅亡させかねないレベルの兵器をもった国々の戦争となることを考えたら、
ゾッとするどころか、人類滅亡の危機的戦慄を覚えます。
岸田総理は昨年12月13日の自民党総務会で『防衛費増額は国民が自らの責任として背負うべき』という趣旨の
発言をして、批判されると『我々が自らの責任として』と言い換えて批判逃れをしましたが、
私からすれば、ちがうでしょと思って聞いてました。
ちゃんと、この一連の方針変更ででどういう事態になってゆくのか解説し、
日本が防衛力として備えねばならないことはこういうことが必要です、
また、そのためにはこのくらいのお金と人材育成が必要です、そして国民のみなさまには
今現在の世界の危機的状況をご認識いただき、日本がどうあるべきか、日本の防衛をどうすべきか、
いっしょに考え、議論していただきたい。場合によってはご負担もご理解いただきたい。
・・・と、はっきりなぜ言えないのか。
昨日も書いたように政府が「目先の選挙を優先する」的な感覚で政治をしているのであれば、
本当に日本は危ないと痛感しています。
世間には、「防衛力を整備するべき」という趣旨のことに言及すると、すぐ「右翼だ」というような
レッテル張りをするかたがたもいらっしゃるようですが、もはや現在の日本は
「右翼だ左翼だ」と国内で言い合っているヒマはないんですよ、と申し上げたいと思います。
私はかつて内閣官房長官秘書として官邸で緊迫する国際情勢と隣り合って仕事をしてきただけに、
国家のありようについてものすごく気になります。
生意気な書きぶりに映るかもしれませんが、
それだけ皮膚感覚的に現在の日本の防衛問題には深刻な心配があるということを感じていることだけは、
お伝えしておきたいと思っています。