彼女に初めて会ったのは、1996年の初めの頃だと思う。
僕が19歳の終わり頃だ。
大学に入って8ヶ月程が経ち、1度目の学園祭が終わった頃、ちょうどバイトを探していた折にサークルの先輩に誘われ、僕は祇園のバー(というか会員制クラブ??スナック??)でバーテン(兼ボーイ、後にはチーフ)を始めた。京都でのひとり暮らしにもだいぶ慣れた頃で、「これまでやったことのない何か新しいことをやろう」という大学生活での僕のテーマに沿って、またひとつ、好奇心とコワイモノ見たさ(?)で、いわゆる「夜の世界」に踏み込んでみることになったわけだ。
「せっかく京都にきたんだから、舞妓さん芸妓さんと会える仕事をやってみたいなぁ」なんて、今から思えばつくづくバカなことを考えていたモノだ。
余談になるが、祇園の会員制クラブのバーテンなどの仕事は、おそらくほとんどが「知り合いから知り合いへのバトンタッチ」で、バイト雑誌なんかで探してもいい店に辿り着くことはまずないと思われる。そういう意味では、後から考えると僕は非常にラッキーだったのかも知れない。
閑話休題。
免許も取って、父親がクルマを買い換えるタイミングでお古を引き取るメドがついたこともあり、「駐車場代を捻出するために」というのが最初の直接的な動機だったそのバイトは、その後僕にとって重要な位置を占める仕事になり、結局僕は、丸々4年、その店に勤めることになる。
見習いの時期を過ぎ、ひとりでカウンターを任されるようになり、ママ(当然、着物を着ている)に日々いろいろ教わりつつ、怒られつつ、僕なりのバーテンとしてのお客さんへの接し方なんかも、少しずつ考えるようになってきた頃。
そんな頃、おそらく僕は、彼女に初めて会っている。
「おそらく」というのは、実は、僕は最初に彼女に会った日のことを、正確には、憶えていない。
それから何年か経って彼女と「最初に会った日」の話になったとき、彼女は、それを憶えていた。
だから僕は、その話をもとに、初めて会ったのはあの頃だったのか、と認識しているわけだ。
・・・彼女は、その店のお客さんが連れてくる「女」だった。
詳しくは知らなかったし知るつもりもなかったが、どこから見ても「よその店の女の子」で、僕はたぶん、カウンター越しに二三話はしただろうが、あまり積極的に相手はしなかったはずだ。
(その客は、後に彼女の子どもの父親となるわけだが、今はその話はよそう。)
その頃の彼女は、僕のことを「冷たそうな人」だと思っていたらしい。
お店の主役はママであり、女の子達であったわけだから、僕の仕事は基本的には黒子。
お客さんの顔と名前、そしてキープボトルを覚え、好きな飲み方やアルコールの濃さを覚え、そして、吸っているタバコの銘柄を覚え、自然にサーブし、くつろいで女の子やママとの会話を楽しんで貰うこと、それが役割だったわけだから、自分から余計なことを話したりしないのは、当たり前なのだ。ましてや、お客さんが連れている「女」(しかも、見るからに「愛人」)に愛想を振りまくわけがない。
(とはいえ、「冷たそう」に見えたとすれば、それが背伸びをしながら一生懸命大人ぶろうとしていた僕の姿だったのかも知れない。)
19歳、20歳。
遠い昔の話。
「初めてあなたに会った日から、好きだったのかもしれない」と彼女が言ってくれたのは、それからだいぶ後のことになる。
もしタイムマシーンがあるのなら、最初に出会った日のふたりを、眺めてみたい。
時間を巻き戻すことはできないけれど、そんなことをふと思う。
*******
Good Night,Good Night.
あの頃君は、笑っていたように思えたけれど、ホントは泣いていたんだよね。
僕が19歳の終わり頃だ。
大学に入って8ヶ月程が経ち、1度目の学園祭が終わった頃、ちょうどバイトを探していた折にサークルの先輩に誘われ、僕は祇園のバー(というか会員制クラブ??スナック??)でバーテン(兼ボーイ、後にはチーフ)を始めた。京都でのひとり暮らしにもだいぶ慣れた頃で、「これまでやったことのない何か新しいことをやろう」という大学生活での僕のテーマに沿って、またひとつ、好奇心とコワイモノ見たさ(?)で、いわゆる「夜の世界」に踏み込んでみることになったわけだ。
「せっかく京都にきたんだから、舞妓さん芸妓さんと会える仕事をやってみたいなぁ」なんて、今から思えばつくづくバカなことを考えていたモノだ。
余談になるが、祇園の会員制クラブのバーテンなどの仕事は、おそらくほとんどが「知り合いから知り合いへのバトンタッチ」で、バイト雑誌なんかで探してもいい店に辿り着くことはまずないと思われる。そういう意味では、後から考えると僕は非常にラッキーだったのかも知れない。
閑話休題。
免許も取って、父親がクルマを買い換えるタイミングでお古を引き取るメドがついたこともあり、「駐車場代を捻出するために」というのが最初の直接的な動機だったそのバイトは、その後僕にとって重要な位置を占める仕事になり、結局僕は、丸々4年、その店に勤めることになる。
見習いの時期を過ぎ、ひとりでカウンターを任されるようになり、ママ(当然、着物を着ている)に日々いろいろ教わりつつ、怒られつつ、僕なりのバーテンとしてのお客さんへの接し方なんかも、少しずつ考えるようになってきた頃。
そんな頃、おそらく僕は、彼女に初めて会っている。
「おそらく」というのは、実は、僕は最初に彼女に会った日のことを、正確には、憶えていない。
それから何年か経って彼女と「最初に会った日」の話になったとき、彼女は、それを憶えていた。
だから僕は、その話をもとに、初めて会ったのはあの頃だったのか、と認識しているわけだ。
・・・彼女は、その店のお客さんが連れてくる「女」だった。
詳しくは知らなかったし知るつもりもなかったが、どこから見ても「よその店の女の子」で、僕はたぶん、カウンター越しに二三話はしただろうが、あまり積極的に相手はしなかったはずだ。
(その客は、後に彼女の子どもの父親となるわけだが、今はその話はよそう。)
その頃の彼女は、僕のことを「冷たそうな人」だと思っていたらしい。
お店の主役はママであり、女の子達であったわけだから、僕の仕事は基本的には黒子。
お客さんの顔と名前、そしてキープボトルを覚え、好きな飲み方やアルコールの濃さを覚え、そして、吸っているタバコの銘柄を覚え、自然にサーブし、くつろいで女の子やママとの会話を楽しんで貰うこと、それが役割だったわけだから、自分から余計なことを話したりしないのは、当たり前なのだ。ましてや、お客さんが連れている「女」(しかも、見るからに「愛人」)に愛想を振りまくわけがない。
(とはいえ、「冷たそう」に見えたとすれば、それが背伸びをしながら一生懸命大人ぶろうとしていた僕の姿だったのかも知れない。)
19歳、20歳。
遠い昔の話。
「初めてあなたに会った日から、好きだったのかもしれない」と彼女が言ってくれたのは、それからだいぶ後のことになる。
もしタイムマシーンがあるのなら、最初に出会った日のふたりを、眺めてみたい。
時間を巻き戻すことはできないけれど、そんなことをふと思う。
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Good Night,Good Night.
あの頃君は、笑っていたように思えたけれど、ホントは泣いていたんだよね。