黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

「筋が悪い」事件とは?

2005-12-19 15:40:14 | 司法(平成17年)
「町弁のひとりごと」で,筋のいい事件,悪い事件とは何か,という話が載っていました。

http://lake.269g.net/article/1305011.html

 町弁(まちべん)さんの説では,「筋の悪い」事件の例として,(1)依頼者が暴力団や犯罪者がらみの人である,(2)勝ち目のない事件や面倒な事件,(3)収入源にならない事件が挙げられていますが,黒猫の考える「筋が悪い」はちょっと違います。

 黒猫がある事件を「筋が悪い」という場合,それは当該事件について法律論がどうとかいう以前に,人間の道徳の問題として「そういった主張をするのはいかがなものか」と思ってしまうような事件を指します。
 黒猫の考えでは,上記(2)の「勝ち目のない事件」には,大きく分けて2種類があります。1つは,依頼者の言い分には社会通念に照らせばそれなりに理由があると思うけど,その言い分を支援してくれる法律がないというもの。こういう事件は,勝ち目が薄いと思っても黒猫は「筋が悪い」とは言いませんし,こういう事件も黒猫のオリジナルは受任しています。
 もう1つは,法律論の問題以前に,社会通念として依頼者の主張がおかしいというもの。典型例としては,隣の家から電波が降ってくるので隣の家を訴えたいなどというものですが,相談段階で明らかにおかしいと分かるものは,誰も受任しないのであまり問題は生じません。
 問題となるのは,相談段階では事情がよく分からず,一応法律的に理由がありそうな感じもするので受任したところ,後になっておかしな事情が次々と発覚するというタイプ。
 例を挙げれば,事業に失敗して多額の借金を抱えたが,頑張って返済して住宅ローンの残っている自宅だけは何とか守りたいという依頼者がいて,何か不審な感じがしたものの一応申立要件は満たしているようなので受任してみたら,その後受任時には申告されていない債務がぼろぼろ出てくるわ,事業やるときに決算書類偽造して金借りてるわ,おまけに3年前に自己破産してるわ・・・
 黒猫がいう「筋の悪い」事件は,主にこういった事件のことです。あえて定義するなら,「勝訴の見込みが低い上に,依頼者の言うことをあまり信用できない事件」ということになるでしょう。こういう事件では,多くが収入源にはつながらない上に,依頼者が思ったとおりの結果にならないと弁護士のせいにしてきて,紛議に発展するケースも少なくありません。

 ちなみに,こういう「筋の悪い」事件は,大企業などの依頼では滅多になく,大抵は面識のない一消費者から依頼されるのがほとんどなので,「筋の悪い」事件の受任を回避しようとする行動が極端になると,結局企業様の事件しか受任しないとか,元依頼者や知り合いの紹介による事件しか受任しない,などということになってしまいます。
 もちろん,弁護士としてあまり名前が売れていない段階だと,企業様の事件しか受任しないなんて贅沢なことは言っていられないのですが,そこそこ名前が売れてきて企業との顧問契約を何件も取れてきたりすると,企業の事件だけやっていても食べていけるようになってしまう(しかもその方が効率がいい)ので,いきおい面倒な消費者事件などには手を出さなくなってしまうようです。
 弁護士に対する社会的批判として「敷居が高い」ということをよく言われますが,弁護士が立てている「敷居」には,筋の悪い事件に対する自己防衛という面があり,弁護士登録当初は「日本一敷居の低い弁護士を目指すんだ!」などと調子のいいことを言っていた人でも,経験を重ねるにつれ「一般向けの広告を見て来る事件は筋の悪いものばかり」などという現実を突きつけられ,徐々にトーンが落ちてきてしまいます。
 いわゆる「筋の悪い事件」と弁護士「敷居」に関する問題は,一般に考えられているように単なる弁護士の意識のみから来る問題ではなく,実は非常に根の深い問題であるような気がします。