黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

司法試験はどうあるべきか(1)

2012-06-12 23:55:14 | 法曹養成関係(H25.1まで)
 BLOGOSに,以下のような記事が載っていました。
http://blogos.com/article/40809/?axis=t:458

 タイトルは,『司法改革:旧司法試験に戻すべきではないか?』(著者:井上晃宏)ですが,河野氏の訴える司法改革の現状については理解を示しているものの,著書の内容については「司法改革について,具体的かつ現実的な私案が提示されるものと期待して読み続けたが,最後まで,状況説明で終わってしまって,具体的な改革案は示されなかった」と不満を示し,私見としては「今からでも遅くないので,旧司法試験に戻してはいかがだろうか」との感想を述べられています。
 司法改革(特に法科大学院制度)の問題点については,ようやく一般の方にも理解が深まってきましたが,この記事を読んだ結果,法曹養成制度を改善するための具体的な法改正の動きにつなげるためには,現状批判を繰り返すだけでは駄目で,建設的な提言の在り方についても議論を深める必要があると感じています。
 司法試験制度の「再改革」については,かなり前にこのブログで私見を書いたことがありますが,状況も自分自身の考え方もいくらか変わっているので,改訂版を書こうと思っています。

第1 基本的な背景と問題意識
 法科大学院制度については,少なくとも機能不全に陥っていることは関係者のほとんどが認識していると思いますし,法科大学院の教職にあるなど一部の人を除いては,司法試験の受験要件として法科大学院の修了を強制すること自体に合理性がないと考える人が大半になっていると思います。したがって,法科大学院の修了は司法試験の受験要件から外すべきであり,それに伴い司法試験の予備試験は撤廃すべきことになります。この点についての考え方は以前と変わりません。
 ただし,司法試験の制度自体も,法科大学院制度が始まる前の「旧司法試験」に戻すのが良いかと言われると,それにも若干問題があります。法科大学院制度はともかく,新司法試験自体については,出題範囲・出題内容の見直しや情報開示の充実など,旧司法試験時代から改善が見られたところもあり,試験問題の内容も特に論文試験については概ね好評となっているので,新司法試験で良くなったところは継承した上で,旧司法試験制度とは異なる新しい司法試験制度を構築するのが相当であると思われます。
 そして,ここからが従前の意見と大きく変わるところなのですが,司法試験制度の改革を行うにあたっては,他の法律資格制度との調整も考慮する必要があります。すなわち,わが国には弁護士のほか,法律に関する業務を行う資格として司法書士,行政書士,弁理士,税理士,社会保険労務士といった複数の国家資格が存在し,それぞれの有資格者は専門分野に特化した法務サービスを提供しているものの,資格相互間における業務の垣根の問題は一向に解消されず,しかも司法改革に伴い多くの士業で限定的な訴訟分野への進出が認められ,業務の権限に関する紛争がより深刻化しているという現実があります。
 特にひどいのが弁護士と司法書士で,もはや泥沼の抗争が続いていると言っても過言ではありません。
① 従前,登記業務を行っているのは司法書士だけでしたが,弁護士人口の拡大に伴い,自ら登記の仕事をしようとする弁護士も現れるようになりました。自らの独占業務が脅かされることを恐れた司法書士会は,弁護士が登記業務をなし得るのは訴訟事件等に付随して行う場合に限られるとの見解を発表した上,実際に商業登記手続をある弁護士に依頼した会社に対し,司法書士会が登記業務のできるのは司法書士だけである旨の文書を送付し,これに怒った弁護士が当該文書送付は名誉毀損であるとして損害賠償請求を起こすという事件がありました(埼玉訴訟)。
  この問題について浦和地判平成6年5月13日判時1501-52は,弁護士は司法書士会に入会しなくても,登記申請代理業務を行うことができる旨を判示し,判例により弁護士は特に制限無く,法律事務の一環として登記業務を行うことができる旨の解釈が確定しました。
② 司法改革に伴い,法務大臣の認定を受けた司法書士(認定司法書士)に,簡易裁判所の管轄に属する一部の民事訴訟事件を取り扱う権限が認められましたが,簡易裁判所で司法書士と戦うことになった弁護士は,簡易裁判所の第一審ではわざと和解を拒否して事件を終わらせず,判決に対し控訴して事件を地方裁判所に持ち込む戦術を採るようになりました。控訴審では司法書士の代理権が認められないので,控訴されたら司法書士では実質的に戦えないだろうというわけです。
  現在は司法書士法の改正が行われ,自ら代理人として関与している事件の判決等に対する上訴の提起は認められるようになったため,一応この問題は解決したものと思われます。
③ 認定司法書士が進出した訴訟業務は,実際には債務整理事件や過払い金返還請求事件が多く,弁護士との間で深刻な権限争いが起こりました。認定司法書士が取り扱えるのは訴額140万円以下の事件ですが,この140万円の解釈について,司法書士会側は,債権者1件あたり,利息制限法による引き直し計算で減額される債務額が140万円以内であればよいという最も広い解釈を主張し,弁護士会側は債権者全員の債権額合計が140万円以内であることを要するという最も狭い解釈を主張して,至る所で法廷闘争を繰り広げることになり,認定司法書士が140万円以上の事件を取り扱ったとして刑事告発される事例もあったようです。この問題についての裁判例はいくつかあるようですが,その判断にはばらつきがあり,最高裁の確定判例もまだ出されていません。
④ 東京地裁の破産事件では,平成一ケタの頃まで破産管財人の予納金は50万円必要でしたが,裁判所と弁護士会の話し合いにより,事務手続きをできるだけ簡素化する代わりに予納金を20万円にするという合意が成立し,いわゆる少額管財制度がスタートしました。その後,少額管財制度は普及の一途を辿り,破産法改正の頃には「少額」という言葉すら使われなくなり,予納金20万円が原則的な取扱いとなっていました。
 もっとも,この少額管財制度は,弁護士が申立代理人となり,破産の申立前に相応の調査を尽くしていることが運用の前提とされており,裁判所も調査が必要な事件では破産管財人を使いやすくなり弁護士側にもメリットがあるということで,予納金の金額を20万円に下げる合意が成立したものであり,東京地裁では破産事件に弁護士代理を事実上強制する取扱いとなり,司法書士が申立書類を作成して東京地裁に提出しても受理されないという状態が続いていました。
 これに対し司法書士会が猛講義した結果,どうやら平成22年の8月から司法書士が書類を作成した破産事件も受理するようにはなったのですが,司法書士が関与した事件の管財事件予納金については弁護士会と折り合いが付かず,結局従来通り50万円の予納金が要求されるようになってしまいました。

 ここまで泥沼の抗争が続くと,いい加減弁護士と司法書士の統合なども視野に入れた,抜本的な解決案を考える必要が生じてくると思われますが,上記の事例からも分かるとおり弁護士業界と司法書士業界は大変に仲が悪いですから,弁護士に改革案を語らせると「弁護士が増えた以上,司法書士や行政書士は必要ないから両方とも廃止すべきである」といった極論に陥りやすく,司法書士に改革案を語らせると,「司法書士の名称を司法士に改め,家庭裁判所の代理権や民事執行手続の代理権なども認めるべきである」といった,司法書士を弁護士とあまり変わらない存在にしようといった雰囲気に流れがちになります(日司連が最近公表した意見書にも,これと似たようなことが書いてありました)。
 このような状況のもとで,両資格の統合に向けた建設的な話し合いをするのは困難であり,弁護士と司法書士は試験の内容や主要業務などが大きく異なるため,仮に統合するとしても従前の司法書士に対し当然に弁護士資格を付与するわけにも行きません。
 行政書士などについても業務範囲に関する問題や権力抗争はありますが,これらの士業も独自の専門分野やノウハウを持って,一定の法務サービスを提供し社会に貢献している事実は否定できず,資格制度の再編によって従来の資格を一方的に剥奪するような改革は不可能であり,また相当でもありません。
 もっとも,資格制度の拙速な統合自体は無理であるとしても,従来のように全くの縦割りを維持するのではなく,アメリカのロイヤーのように,すべての法律家にとって基本となる資格を創設し,その上級資格という形で専門資格を置くような形にすれば,共通の資格という土台ができることにより各士業間の連携も進み,権限を巡る紛争もある程度は沈静化できるのではないでしょうか。
 諸外国の例を見ても,日本人が「法曹」「弁護士」と訳している法律家の多くは,実際には裁判外の業務を行う法律の専門家として活動しており,将来わが国が諸外国と資格の相互承認などを行う可能性を考えると,そういった外国人法曹の受け皿として,「一般的な法廷業務以外の法律の専門家」という資格制度を創設しておくことが有益と考えられます。

第2 新制度の基本的な考え方
 具体的な制度設計に関する意見は次回以降にゆっくり書いていきますが,私見の基本的な考え方を箇条書きにすると,概ね以下のとおりになります。
・現行の行政書士試験を改組し,「法務士試験」(仮称)を創設する。
・法務士試験は,大学法学部生の統一修了試験のような形で行い,法学部の卒業者は原則として法務士の資格を有するような運用を目指す一方,他学部の修了者にも受験資格を認め,また大学の学位を取得していない者についても,別途教養試験を課すことなどを条件に法務士試験の受験を認める。
・上級法務士試験(旧司法書士試験),知的財産法務士試験(旧弁理士試験),租税法務士試験(旧税理士試験),労働法務士試験(旧社会保険労務士試験),海事法務士試験(旧海事代理士試験)及び司法試験については,法務士試験の合格を受験資格とする。
・マンション管理士については,法務士試験の合格を受験資格とした上で,業務範囲を拡大し高層住宅法務士(またはマンション法務士)の資格に改組する。
・弁護士は,法務士の上位資格であり,法廷業務その他高度な法律事務を行う専門家として位置づけるが,裁判外の法律事務を行う専門家として法務士制度を創設・整備する以上,もはや弁護士への法的需要が大きく増加することは想定しがたいことから,司法試験の年間合格者数は1,000人前後とする方向で運用する。
・法科大学院の修了は,司法試験受験の要件としない。法科大学院を存続させるか否かは各法科大学院の自主的判断に委ねるが,法務士を育成するための教育機関である法学部の教育が空洞化することを防ぐため,法学部と法科大学院の併設は認めないものとする。また,法科大学院修了者に対し,短答式試験の一部免除等は行わない。
・司法試験は,短答式試験・論文式試験・口述式試験の3段階に分けて実施する。
・短答式試験の内容・形式は新司法試験と同様とするが,現行試験と異なり,短答式試験に合格した者のみが論文式試験を受験できる形式に改める。
・論文式試験については,必須科目である公法系・民事系・刑事系は概ね新司法試験と同様とし,選択科目として法律科目1科目と教養科目1科目を受験させるものとする。
・法律選択科目は,新司法試験の倒産法・労働法・経済法・国際関係法(公法系)・国際関係法(私法系)・知的財産法・租税法及び環境法の科目を維持するほか,消費者法を新たに加えるものとする。また,知的財産法務士試験の合格者は知的財産法を,租税法務士試験の合格者は租税法を免除する。
・教養選択科目は,外国語(英語,フランス語,ドイツ語,中国語など),政治学,会計学,経済学,心理学,経済政策,社会政策,刑事政策などの科目を設けるが,受験生の負担を考慮し,いずれも基本的な事項を中心に出題する。また,法学以外の分野に関する一定の資格試験に合格した者(公認会計士,医師,一級建築士など)や法学以外の分野に関する一定の学位を有する者については,教養選択科目を免除する。
・口述式試験は,論文式試験に合格した者に対し,公法系・民事系・刑事系の3科目について行う。

4 コメント

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Unknown (通りすがり)
2012-06-13 07:33:19
弁護士を法廷代理人+それに付随する民事代理権に縮減する方が本当は座りが良いと思うんだけどね。それなら人数の削減の口実にもなるし。
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Unknown (a)
2012-06-13 12:29:52
「弁護士となる資格を有する者」(二回試験合格者など)は、当然、法務士となる資格を有するという条文も一応入れてください。
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Unknown (Unknown)
2012-06-13 16:07:37
実現するといいですね
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Unknown (Unknown)
2012-06-17 15:57:36
弁護士となる資格を有する者は、司法試験の受験資格に法務士が必要であることから当然法務士となるでしょう。そのため、その条文は不必要です。いたずらに資格を付与するような条文は、多分この記事からは想定されていないと思いますよ。
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