黒猫のつぶやき

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法の上限超える金利、特約で「強制」は無効 最高裁判決 (朝日新聞)

2006-01-16 15:17:31 | 法律関係事件
法の上限超える金利、特約で「強制」は無効 最高裁判決 (朝日新聞) - goo ニュース

 貸金業規制法の「みなし弁済」に関する平成18年1月13日最高裁判決は,期限の利益喪失約款による「事実上の強制」があった場合にも弁済の任意性を認めないという判断を下しました。
 この論理は,クレサラ業界の弁護士の間では従来から主張されていたものの,これを認めると現実に「みなし弁済」が成立する余地は皆無となってしまうことから,下級審ではあまり認められてきませんでした。
 今回の最高裁判例は,貸金業者による「みなし弁済」の主張に対する事実上の「死刑判決」といえるかもしれません。

 ところで,一般に消費者被害の事案について裁判所が消費者有利の法解釈をしてくれることは少ないのですが,貸金業の分野は例外で,法律の明文規定を空洞化させてしまうほど画期的な判決を最高裁が出すことも珍しくありません。 
 このような判決が出されるのは,最高裁判事になっている検察出身者が,検察実務を通じて貸金業者の悪質性を身にしみて知っているからだという説もあります。 この説によれば,検事出身者などいない下級審の裁判例が比較的保守的で,最高裁が突っ走っている理由も十分理解できるのですが,もしそうであれば,是非貸金業以外の分野でも,消費者有利の判決をどんどん出して欲しいと思うのは黒猫だけでしょうか。

 それと新聞記事自体について若干コメント。
「消費者金融や商工ローンのほとんどはグレーゾーン金利で貸し付けているのが実情で、業界は業務の抜本的な見直しを迫られる。」
 これはあまりない。「2割司法」といわれるわが国の社会では,業者が実際に過払金の返還請求を受ける可能性はそれほど高くなく,現在の業界実務も「みなし弁済」が成立しないことは覚悟の上でやっている面があるので,おそらく抜本的な見直しの理由にはならないだろう。

「多重債務者問題などに取り組む弁護士グループによると、消費者金融や商工ローンの利用者は全国で2000万人に上るとも言われる。貸金業規制法は今年、見直しが予定されている。貸金業界には金利の上限の撤廃や緩和を求める声も強く、業界への参画をはかる外資も政界などへの働きかけを強めている。司法が打ち出した「借り手保護」の立場をいかに立法に反映させるかが今後の課題となる。」
 貸金業をめぐる法律関係では,これまでも消費者保護に積極的な立法側と,消費者保護に積極的な最高裁との激しい対立があった。
 昭和29年の利息制限法制定では,業者保護のため1条2項に「みなし弁済」の規定が設けられたが,この規定が昭和39年・昭和43年の最高裁判決によって事実上空洞化され,これに対して昭和58年に制定された貸金業規制法の43条では,業者保護のため再度「みなし弁済」の規定が設けられた。
 この43条もその後の最高裁判決によりものすごく厳格に判断され,今回の最高裁判決により事実上空洞化されるに至ったが,これに対して今後予想される立法措置は,おそらく業者保護のものになるだろう。今後の課題になるのは,銀行や外資などによる参入の動きも強まっている業界の圧力を受け政府がおかしな立法をするのを,いかにして食い止めるかということになる。