小澤一郎・民主党元代表に対する政治資金規正法違反事件について,裁判所が作ったと思われる判決要旨と思われる書類が,なぜかPDFファイルでネット上に流出していました(下記リンク参照)。
http://yamebun.weblogs.jp/my-blog/2012/04/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%9C%B0%E8%A3%81%E5%88%A4%E6%B1%BA%E3%81%AF%E5%B0%8F%E6%B2%A2%E3%81%95%E3%82%93%E7%84%A1%E7%BD%AA%E3%82%92%E3%81%93%E3%81%AE%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%AB%E8%AA%AC%E6%98%8E%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E5%88%A4%E6%B1%BA%E6%89%B9%E5%88%A4%E3%81%99%E3%82%8B%E5%89%8D%E3%81%AB%E8%AA%AD%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%BB%E3%81%97%E3%81%84.html
このブログの管理人が,裁判所からマスコミに配布されたという判決要旨をどうやって手に入れたのかは謎ですが,そのあたりは細かく追及しても仕方ないので,この「判決要旨」を基礎に,いわゆる「小沢裁判」における第一審無罪判決の妥当性について検討してみることにします。
もっとも,この判決要旨は目次を除いても全95頁と長文にわたるものであり,その全てについて長々と引用や言及を繰り返すのではこのブログの字数制限である1万字を軽く超えてしまいますので,検討するのは基本的に小沢氏の「故意」に関する部分に限るものとし,判決要旨からの引用も黒猫が必要と考えた最小限度の部分にとどめます。判決要旨の全文を読みたい方は上記のリンク先から各自参照して下さい。
本題に入りますが,本件の前提となる事実関係を可能な限り要約して説明すると,概ね以下のようになります。
(1) 関係する当事者
・小沢一郎 衆議院議員で,政治団体「陸山会」の代表者
・大久保隆規(以下「大久保」)小沢氏の秘書で,陸山会の会計責任者を務めていた。
・石川知裕「以下「石川」)小沢氏の秘書で,平成17年6月末まで,陸山会を含む小沢氏の政治団体の経理事務を担当していた。
・池田光智(以下「池田」)小沢氏の秘書で,平成17年7月から石川に代わり経理事務を担当していた。
ちなみに,大久保,石川,池田の秘書3人は政治資金規正法違反で起訴済み。
・東洋アレックス株式会社(以下「東洋アレックス」)本件土地の売主
・株式会社ミブコーポレーション(以下「ミブ」)本件土地の売買の仲介業者
(2) 各秘書の執務態勢
小沢氏は,東京都世田谷区内に自宅を構えているが,自宅近隣の建物を秘書寮としており,大久保,石川及び池田はいずれも,当時この秘書寮に居住していた。小沢氏は,毎朝秘書達を自宅に集め,自らのスケジュール等に関する打ち合わせを行うことを日課にしており,その後石川や池田は陸山会の赤坂事務所に,大久保は衆議院議員会館にある小沢氏の事務所にそれぞれ出勤するのが通例であった。
(3) 本件土地購入の経緯
・平成16年9月頃,陸山会において,新たな秘書寮を建築するための土地として,世田谷区深沢の土地(本件土地)を購入する計画が持ち上がった。大久保は本件土地の購入につき,小沢氏の了解を得て,ミブと連絡を取って交渉を進めた。
・同年10月5日,大久保と石川は東洋アレックスとの間で,本件土地の売買契約書を作成し,手付金等合計1008万円を支払ったほか,ミブに仲介手数料500万円を支払った。なお,本件土地の売買総額は3億4264万円であり,残金は同月29日に支払われる約定であった。
・同月12日,小沢氏は元赤坂タワーズ902号室(小沢氏が個人的な研究,執筆活動,休養等のために利用していた)に石川を呼び,陸山会が本件土地を購入するための資金として現金4億円を渡した。石川はこの4億円を赤坂事務所に運び,事務所内の金庫に一旦保管した後,このうち3億8492万円を,複数の金融機関に分散して入金した。
(4) 虚偽記載の経緯(一審判決の認定による)
・しかし,石川は,同月20日頃,先輩秘書から示唆を受けるなどした結果,このままでは平成16年分の収支報告書において,上記4億円を小沢氏からの借入金として計上し,本件土地の取得や取得費等の支出も併せて記載することになるが,そのように小沢氏が巨額の個人資産を有していることや,これを提供して陸山会が高額の不動産を購入したことを公表すれば,マスメディアから追及的な取材や批判的な報道を受けるなどして,小沢氏が政治活動上不利益を被るおそれがあることに思い至った。
・そこで,石川は収支報告書で上記4億円を公表せず,銀行からの融資金で本件土地を購入した旨の対外的な説明を可能にするための外形作りとして,金融機関からの預金担保貸付を利用することとし,併せて本件土地の取得等を,平成16年の収支報告書ではなく平成17年の収支報告書に記載することとした。
・石川は,上記公表時期を遅らせるための口実を作るため,東洋アレックスに対しまず決済全体の先送りを打診したが,代金決済の繰り延べは拒否され,最終的に所有権移転登記手続きのみを先送りすることで了承を得た。具体的には,平成16年10月28日作成の合意書で,代金決済日である翌29日には所有権移転仮登記のみにとどめ,本登記は平成17年1月7日に行うこと,これに伴って平成17年分の固定資産税は東洋アレックスに課されるがその分は陸山会が負担することなどが決められた。
・石川は,同じく10月28日,それまで6カ所の口座に分散入金していた資金をりそな銀行衆議院支店の預金口座に集め,りそな銀行に対し,陸山会名義の定期預金4億円を担保として,小沢氏名義で4億円の融資を受けたい旨を申込み,同銀行からその内諾を得た。
・翌29日,石川は本件土地の売買代金を支払って本件土地の所有権移転登記手続きに必要な一切の書類を受け取るとともに,司法書士に仮登記の手続きを行わせたほか,りそな銀行にある陸山会名義の預金4億円を定期預金に振り替え,それを担保として小沢氏個人名義で4億円を同銀行から借り入れ,小沢氏個人の口座に入金された4億円を陸山会名義の口座に振込送金した。
・平成17年3月31日,石川は平成16年分の収支報告書を選挙管理委員会に提出したが,陸山会名義の定期預金4億円とりそな銀行からの借入分(10月29日に小沢氏個人名義から陸山会に送金されたお金)についての記載はあるものの,本件土地や10月5日に小沢氏から現金で受け取った4億円の借り入れについては記載されていなかった(本件土地の取得や取得費等は,翌平成17年の収支報告書に記載された)。
上記の経緯に照らし,裁判所は本件土地の所有権移転時期が平成16年10月29日であり,本件土地の取得に関する事項は平成16年の収支報告書で記載されるべきものであったこと,また陸山会が小沢氏から現金で受け取った4億円についても収支報告書に記載すべきであったことを認め,よって平成16年及び平成17年の収支報告書には虚偽の記載があったことを認定しています。黒猫は,このあたりの事実認定に関し特に問題はないものと考えていますが,問題があると主張する人は勝手によそで議論して下さい。
問題は,小沢氏が上記の取引や虚偽記載の経緯をどこまで認識していたかですが,判決は
① 陸山会が本件土地を取得することに関しては,大久保から説明を受けて現場を視察したりしていることから,これを認識し,了承したものと認められる。
② 陸山会が平成16年10月5日に本件売買契約を締結し,同月29日が決済日となったことは,同月5日頃,朝のミーティングで石川から報告されて認識したものと認められる。
③ 小沢氏が10月12日,石川に現金で4億円を交付し,「ちゃんと戻せよ」と述べたことから,陸山会への貸付けについては認識があったものと認められる。
④ 同月20日頃,石川が先輩秘書からの示唆を受けて,本件土地の取得に関する事項の公表を先送りする方針としたことについては,小沢氏も参加した朝のミーティングでの出来事であることから,小沢氏もその旨の報告を受け,了承したものと認められる。
⑤ 同月29日,小沢氏個人名義で4億円の預金担保貸付を受けた件については,小沢氏も融資関連書類に自ら署名しているほか,その取引の概要等については石川から報告を受け,了承したものと認められる。
⑥ 石川が行った平成16年分の収支報告書の虚偽記載については,小沢氏も平成16年10月の段階で了承したものと認められる。また,池田が行った平成17年分の収支報告書の虚偽記載については,平成18年3月頃に改めて報告を受けて認識し,了承したものと認められる。
などと認定しており(文言については一部簡略化しています),ここまで読めば普通なら十分に有罪の判決を出せると思うのですが(実際,判決も指定弁護士が小沢氏について共謀共同正犯が成立する旨主張していることには,相応の根拠があると考えられなくはない,と述べています)。
それなのに,どうして無罪という結論になったのかという問題について,判決は82頁以降の別紙6で細かく述べていますが,要するに
① 10月29日の本件土地取得については,石川が合意書の内容を小沢氏に報告していない可能性があり,所有権の移転時期を平成17年に遅らせることができなかったことについては認識していなかった可能性がある。
② 10月12日に小沢氏が交付した4億円について,これを収支報告書に記載すべき借入金であると認定するにはその後の経緯(借入金が陸山会の一般財産に混入し,その後本件土地の売買の決済に充てられたこと)が根拠として挙げられるが,小沢氏はそのような細かい経緯については認識していなかった可能性がある。
というものです。
しかし,このような問題は裁判でも争点とされておらず,おそらく判決を出す段階で裁判所が思い付いたものと考えられる上に,上記のような問題点の前提となる裁判所の法解釈自体にも問題があります。
まず①は,売買契約時における不動産の取得時期という問題ですが,売主と土地の売買契約が成立し代金も全額支払われているというのであれば,少なくともその時点で土地の所有権も買主に移っているとみるのが通常の法解釈です(なお,本件土地の売買代金が10月中に決済されたものであることは,小沢氏も当然認識していたと見るべきでしょう)。
企業会計の実務においても,買主側の事情によって土地取得の時期を意図的に遅らせるような処理が認められるはずはなく,仮に小沢氏がそのような処理も合法的に可能であると認識した可能性があるというのであれば,それは単なる法律の錯誤であり故意責任を否定する要素にはなり得ません。
そして②は,小沢氏の貸した4億円が貸付金ではなく預け金(陸山会として単に現金の寄託を受けたに過ぎず,自由に使用することはできない)と認識していた可能性があるというのですが,10月12日に現金を渡した時点では預金担保貸付のスキームを使う話も持ち上がっておらず,小沢氏としては4億円が当然本件土地の購入代金等に充てられることを当然に認識していたでしょうから,この時点で小沢氏が預け金だと認識していた(可能性がある)という事実認定には明らかに無理があります。
その後,陸山会の資金(10月12日に小沢氏から交付された現金以外のものを含む)4億円が定期預金に移され,それを担保にして小沢氏個人がりそな銀行から4億円を借りて陸山会に貸し付けたといっても,その定期預金はりそな銀行からの貸付金に対する担保に充てられたものであり,10月12日に小沢氏が現金で貸した4億円に対する担保にはなっていませんし,その他小沢氏の貸したお金が預け金に性質を変えたと認められるような事情もありません。
判決は,「自分が陸山会に貸したのは4億円にとどまると考えており,本件定期預金は,自分のために確保されると素朴に認識していたとすれば,法律や会計の専門家でない被告人(小沢氏)において,本件定期預金の名義の認識から,直ちに,その原資とされた本件4億円を借入金として計上する必要性まで認識することは難しいといえる」などと縷々述べていますが,このような判示はまさしく「被告人が違法だと認識していなければ故意責任を問えない」と言っているのと変わりません。
法律の勉強をしていない人には分からない問題かも知れませんが,最も基本的な法原理の1つに「法の不知は保護せず」というものがあります。故意責任を問うには,違法性の基礎となる事実関係の認識があれば足り,「法律の素人だから,そのような行為が違法になるとは認識できなかった」といくら主張しても,それを理由に無罪とすることはできないのです(もしそのような主張が認められるのであれば,誰も法律など勉強しなくなるでしょう)。
したがって,小沢氏が法律や会計の専門家でないというのは,量刑判断で考慮される可能性はあっても,有罪・無罪の認定に影響を与えることはないはずであり,そのような理由で無罪の認定をする判決は基本的な法解釈の誤りを犯しており違法ということになりますが,上記判決は小沢氏が「法律や会計の専門家でない」ことを敢えて無罪認定の理由に挙げていることから,いわば自らの判断が違法であることを自ら認めているのです。
以上により,前記の判決要旨を読む限り,東京地裁の判決には重大な法解釈の誤りがあると言わざるを得ず,控訴審で破棄される可能性は十分にあると考えられるほか,一般市民の感覚に照らして小沢氏の関与が少なくとも「黒に限りなく近いグレー」であることは明白でしょう。
民主党が,今回の無罪判決を受けて小沢氏の党員資格停止処分を解除するかどうかはまだ分かりませんが,仮に判決の確定を待たずに解除し,その後小沢氏が控訴審で逆転有罪判決を受けるようなことになれば,民主党の社会的評判はそれこそ地に墜ちるでしょうね。
http://yamebun.weblogs.jp/my-blog/2012/04/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%9C%B0%E8%A3%81%E5%88%A4%E6%B1%BA%E3%81%AF%E5%B0%8F%E6%B2%A2%E3%81%95%E3%82%93%E7%84%A1%E7%BD%AA%E3%82%92%E3%81%93%E3%81%AE%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%AB%E8%AA%AC%E6%98%8E%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E5%88%A4%E6%B1%BA%E6%89%B9%E5%88%A4%E3%81%99%E3%82%8B%E5%89%8D%E3%81%AB%E8%AA%AD%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%BB%E3%81%97%E3%81%84.html
このブログの管理人が,裁判所からマスコミに配布されたという判決要旨をどうやって手に入れたのかは謎ですが,そのあたりは細かく追及しても仕方ないので,この「判決要旨」を基礎に,いわゆる「小沢裁判」における第一審無罪判決の妥当性について検討してみることにします。
もっとも,この判決要旨は目次を除いても全95頁と長文にわたるものであり,その全てについて長々と引用や言及を繰り返すのではこのブログの字数制限である1万字を軽く超えてしまいますので,検討するのは基本的に小沢氏の「故意」に関する部分に限るものとし,判決要旨からの引用も黒猫が必要と考えた最小限度の部分にとどめます。判決要旨の全文を読みたい方は上記のリンク先から各自参照して下さい。
本題に入りますが,本件の前提となる事実関係を可能な限り要約して説明すると,概ね以下のようになります。
(1) 関係する当事者
・小沢一郎 衆議院議員で,政治団体「陸山会」の代表者
・大久保隆規(以下「大久保」)小沢氏の秘書で,陸山会の会計責任者を務めていた。
・石川知裕「以下「石川」)小沢氏の秘書で,平成17年6月末まで,陸山会を含む小沢氏の政治団体の経理事務を担当していた。
・池田光智(以下「池田」)小沢氏の秘書で,平成17年7月から石川に代わり経理事務を担当していた。
ちなみに,大久保,石川,池田の秘書3人は政治資金規正法違反で起訴済み。
・東洋アレックス株式会社(以下「東洋アレックス」)本件土地の売主
・株式会社ミブコーポレーション(以下「ミブ」)本件土地の売買の仲介業者
(2) 各秘書の執務態勢
小沢氏は,東京都世田谷区内に自宅を構えているが,自宅近隣の建物を秘書寮としており,大久保,石川及び池田はいずれも,当時この秘書寮に居住していた。小沢氏は,毎朝秘書達を自宅に集め,自らのスケジュール等に関する打ち合わせを行うことを日課にしており,その後石川や池田は陸山会の赤坂事務所に,大久保は衆議院議員会館にある小沢氏の事務所にそれぞれ出勤するのが通例であった。
(3) 本件土地購入の経緯
・平成16年9月頃,陸山会において,新たな秘書寮を建築するための土地として,世田谷区深沢の土地(本件土地)を購入する計画が持ち上がった。大久保は本件土地の購入につき,小沢氏の了解を得て,ミブと連絡を取って交渉を進めた。
・同年10月5日,大久保と石川は東洋アレックスとの間で,本件土地の売買契約書を作成し,手付金等合計1008万円を支払ったほか,ミブに仲介手数料500万円を支払った。なお,本件土地の売買総額は3億4264万円であり,残金は同月29日に支払われる約定であった。
・同月12日,小沢氏は元赤坂タワーズ902号室(小沢氏が個人的な研究,執筆活動,休養等のために利用していた)に石川を呼び,陸山会が本件土地を購入するための資金として現金4億円を渡した。石川はこの4億円を赤坂事務所に運び,事務所内の金庫に一旦保管した後,このうち3億8492万円を,複数の金融機関に分散して入金した。
(4) 虚偽記載の経緯(一審判決の認定による)
・しかし,石川は,同月20日頃,先輩秘書から示唆を受けるなどした結果,このままでは平成16年分の収支報告書において,上記4億円を小沢氏からの借入金として計上し,本件土地の取得や取得費等の支出も併せて記載することになるが,そのように小沢氏が巨額の個人資産を有していることや,これを提供して陸山会が高額の不動産を購入したことを公表すれば,マスメディアから追及的な取材や批判的な報道を受けるなどして,小沢氏が政治活動上不利益を被るおそれがあることに思い至った。
・そこで,石川は収支報告書で上記4億円を公表せず,銀行からの融資金で本件土地を購入した旨の対外的な説明を可能にするための外形作りとして,金融機関からの預金担保貸付を利用することとし,併せて本件土地の取得等を,平成16年の収支報告書ではなく平成17年の収支報告書に記載することとした。
・石川は,上記公表時期を遅らせるための口実を作るため,東洋アレックスに対しまず決済全体の先送りを打診したが,代金決済の繰り延べは拒否され,最終的に所有権移転登記手続きのみを先送りすることで了承を得た。具体的には,平成16年10月28日作成の合意書で,代金決済日である翌29日には所有権移転仮登記のみにとどめ,本登記は平成17年1月7日に行うこと,これに伴って平成17年分の固定資産税は東洋アレックスに課されるがその分は陸山会が負担することなどが決められた。
・石川は,同じく10月28日,それまで6カ所の口座に分散入金していた資金をりそな銀行衆議院支店の預金口座に集め,りそな銀行に対し,陸山会名義の定期預金4億円を担保として,小沢氏名義で4億円の融資を受けたい旨を申込み,同銀行からその内諾を得た。
・翌29日,石川は本件土地の売買代金を支払って本件土地の所有権移転登記手続きに必要な一切の書類を受け取るとともに,司法書士に仮登記の手続きを行わせたほか,りそな銀行にある陸山会名義の預金4億円を定期預金に振り替え,それを担保として小沢氏個人名義で4億円を同銀行から借り入れ,小沢氏個人の口座に入金された4億円を陸山会名義の口座に振込送金した。
・平成17年3月31日,石川は平成16年分の収支報告書を選挙管理委員会に提出したが,陸山会名義の定期預金4億円とりそな銀行からの借入分(10月29日に小沢氏個人名義から陸山会に送金されたお金)についての記載はあるものの,本件土地や10月5日に小沢氏から現金で受け取った4億円の借り入れについては記載されていなかった(本件土地の取得や取得費等は,翌平成17年の収支報告書に記載された)。
上記の経緯に照らし,裁判所は本件土地の所有権移転時期が平成16年10月29日であり,本件土地の取得に関する事項は平成16年の収支報告書で記載されるべきものであったこと,また陸山会が小沢氏から現金で受け取った4億円についても収支報告書に記載すべきであったことを認め,よって平成16年及び平成17年の収支報告書には虚偽の記載があったことを認定しています。黒猫は,このあたりの事実認定に関し特に問題はないものと考えていますが,問題があると主張する人は勝手によそで議論して下さい。
問題は,小沢氏が上記の取引や虚偽記載の経緯をどこまで認識していたかですが,判決は
① 陸山会が本件土地を取得することに関しては,大久保から説明を受けて現場を視察したりしていることから,これを認識し,了承したものと認められる。
② 陸山会が平成16年10月5日に本件売買契約を締結し,同月29日が決済日となったことは,同月5日頃,朝のミーティングで石川から報告されて認識したものと認められる。
③ 小沢氏が10月12日,石川に現金で4億円を交付し,「ちゃんと戻せよ」と述べたことから,陸山会への貸付けについては認識があったものと認められる。
④ 同月20日頃,石川が先輩秘書からの示唆を受けて,本件土地の取得に関する事項の公表を先送りする方針としたことについては,小沢氏も参加した朝のミーティングでの出来事であることから,小沢氏もその旨の報告を受け,了承したものと認められる。
⑤ 同月29日,小沢氏個人名義で4億円の預金担保貸付を受けた件については,小沢氏も融資関連書類に自ら署名しているほか,その取引の概要等については石川から報告を受け,了承したものと認められる。
⑥ 石川が行った平成16年分の収支報告書の虚偽記載については,小沢氏も平成16年10月の段階で了承したものと認められる。また,池田が行った平成17年分の収支報告書の虚偽記載については,平成18年3月頃に改めて報告を受けて認識し,了承したものと認められる。
などと認定しており(文言については一部簡略化しています),ここまで読めば普通なら十分に有罪の判決を出せると思うのですが(実際,判決も指定弁護士が小沢氏について共謀共同正犯が成立する旨主張していることには,相応の根拠があると考えられなくはない,と述べています)。
それなのに,どうして無罪という結論になったのかという問題について,判決は82頁以降の別紙6で細かく述べていますが,要するに
① 10月29日の本件土地取得については,石川が合意書の内容を小沢氏に報告していない可能性があり,所有権の移転時期を平成17年に遅らせることができなかったことについては認識していなかった可能性がある。
② 10月12日に小沢氏が交付した4億円について,これを収支報告書に記載すべき借入金であると認定するにはその後の経緯(借入金が陸山会の一般財産に混入し,その後本件土地の売買の決済に充てられたこと)が根拠として挙げられるが,小沢氏はそのような細かい経緯については認識していなかった可能性がある。
というものです。
しかし,このような問題は裁判でも争点とされておらず,おそらく判決を出す段階で裁判所が思い付いたものと考えられる上に,上記のような問題点の前提となる裁判所の法解釈自体にも問題があります。
まず①は,売買契約時における不動産の取得時期という問題ですが,売主と土地の売買契約が成立し代金も全額支払われているというのであれば,少なくともその時点で土地の所有権も買主に移っているとみるのが通常の法解釈です(なお,本件土地の売買代金が10月中に決済されたものであることは,小沢氏も当然認識していたと見るべきでしょう)。
企業会計の実務においても,買主側の事情によって土地取得の時期を意図的に遅らせるような処理が認められるはずはなく,仮に小沢氏がそのような処理も合法的に可能であると認識した可能性があるというのであれば,それは単なる法律の錯誤であり故意責任を否定する要素にはなり得ません。
そして②は,小沢氏の貸した4億円が貸付金ではなく預け金(陸山会として単に現金の寄託を受けたに過ぎず,自由に使用することはできない)と認識していた可能性があるというのですが,10月12日に現金を渡した時点では預金担保貸付のスキームを使う話も持ち上がっておらず,小沢氏としては4億円が当然本件土地の購入代金等に充てられることを当然に認識していたでしょうから,この時点で小沢氏が預け金だと認識していた(可能性がある)という事実認定には明らかに無理があります。
その後,陸山会の資金(10月12日に小沢氏から交付された現金以外のものを含む)4億円が定期預金に移され,それを担保にして小沢氏個人がりそな銀行から4億円を借りて陸山会に貸し付けたといっても,その定期預金はりそな銀行からの貸付金に対する担保に充てられたものであり,10月12日に小沢氏が現金で貸した4億円に対する担保にはなっていませんし,その他小沢氏の貸したお金が預け金に性質を変えたと認められるような事情もありません。
判決は,「自分が陸山会に貸したのは4億円にとどまると考えており,本件定期預金は,自分のために確保されると素朴に認識していたとすれば,法律や会計の専門家でない被告人(小沢氏)において,本件定期預金の名義の認識から,直ちに,その原資とされた本件4億円を借入金として計上する必要性まで認識することは難しいといえる」などと縷々述べていますが,このような判示はまさしく「被告人が違法だと認識していなければ故意責任を問えない」と言っているのと変わりません。
法律の勉強をしていない人には分からない問題かも知れませんが,最も基本的な法原理の1つに「法の不知は保護せず」というものがあります。故意責任を問うには,違法性の基礎となる事実関係の認識があれば足り,「法律の素人だから,そのような行為が違法になるとは認識できなかった」といくら主張しても,それを理由に無罪とすることはできないのです(もしそのような主張が認められるのであれば,誰も法律など勉強しなくなるでしょう)。
したがって,小沢氏が法律や会計の専門家でないというのは,量刑判断で考慮される可能性はあっても,有罪・無罪の認定に影響を与えることはないはずであり,そのような理由で無罪の認定をする判決は基本的な法解釈の誤りを犯しており違法ということになりますが,上記判決は小沢氏が「法律や会計の専門家でない」ことを敢えて無罪認定の理由に挙げていることから,いわば自らの判断が違法であることを自ら認めているのです。
以上により,前記の判決要旨を読む限り,東京地裁の判決には重大な法解釈の誤りがあると言わざるを得ず,控訴審で破棄される可能性は十分にあると考えられるほか,一般市民の感覚に照らして小沢氏の関与が少なくとも「黒に限りなく近いグレー」であることは明白でしょう。
民主党が,今回の無罪判決を受けて小沢氏の党員資格停止処分を解除するかどうかはまだ分かりませんが,仮に判決の確定を待たずに解除し,その後小沢氏が控訴審で逆転有罪判決を受けるようなことになれば,民主党の社会的評判はそれこそ地に墜ちるでしょうね。
陸山会事件のヤバい資料が流出した模様 ダウンロードは自己責任で
田代報告書は「多少の捏造」とかではなく「徹頭徹尾、全部、でっち上げ」
ttp://blogos.com/article/38220/
ttp://blog.livedoor.jp/googleyoutube/archives/51755645.html
ttps://docs.google.com/file/d/0ByWdni-HzzdgV0RMV0o5WWNiTlk/view?pli=1&sle=true
https://docs.google.com/open?id=0ByWdni-HzzdgQkl3Z0w2cTdiNXM
田代・斎藤・木村報告書(と思われるもの)
https://docs.google.com/open?id=0ByWdni-HzzdgV0RMV0o5WWNiTlk
判決要旨では、小沢氏側が17年1月以降の固定資産税を精算したことを、16年中に所有権が移転したことの証拠としているが、大きな金額の不動産取引では、固定資産税を月割りや日割りで精算するのが常識になっている。固定資産税の精算が16年10月以降分でないことは逆に17年1月に所有権が移転したことの証拠でしょう。刑事裁判官というのは、どうしてこう民事を知らないのでしょうか。