黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

上位の法科大学院は本当に「定評がある」のか?

2012-06-01 16:02:16 | 弁護士業務
 最近色々なコメントを頂いているようですが,なかなか全部読み切れていませんので,後日追々触れていきたいと思います。
 文字の大きさについては,文字が小さくて読みづらいとのコメントを頂きましたのでいろいろ試してみたところ,テンプレート編集で文字の大きさを調整する機能を付けることができました。画面左下の方に「文字の大きさ」という欄が出来ていると思いますので,読みづらいという方は「大」とあるところをクリックして下さい。これでいくらか読みやすくなると思います。
 なお,最近の記事は他の文書からの引用が多いため大変長い記事が多くなっていますが,今日はなるべくコンパクトにまとめたいと思っています。

 本題。法科大学院の是非をめぐる論争も長く続きましたが,最近の法科大学院推進派は,法科大学院を「定評ある法科大学院」と「そうでない法科大学院」に分け,後者は潰すべきだが前者は良い教育を行っているので潰すべきではないという主張をするものが目立ちます。見苦しいトカゲのしっぽ切りみたいな主張だと思いますが,この問題も片付けておく必要はあるでしょう。
 結論から言うと,推進派が「定評ある法科大学院」と称する上位ロー(東大,京大,一橋,早稲田,慶應,中央といった,法学部としても従来からレベルが高く,新司法試験についても相応の合格実績を挙げている法科大学院のこと。この記事では便宜上この6校を「上位ロー」と定義しますが,上記に挙げた6校はあくまでも例示であり,どの法科大学院を「上位ロー」とするかは皆さんのご判断にお任せします)であっても,法科大学院としての教育効果には,疑問を生じる点が少なからずあります。

 第1点。法曹人口問題全国会議が実施した『法科大学院に関するアンケート』の実施結果が公表されています(http://www.veritas-law.jp/newsimg/20120525181957_2.pdf)。
 その問1に,「法科大学院の目的が「多様で質の高い法曹養成」とされているが、質の向上の達成度について。」という質問がありますが,全体では「達成している」が2%,「相当程度達成している」が10%であったのに対し,「余り達成していない」が27%,「達成していない」が40%となっており,実に弁護士の7割近くが,法科大学院による質の向上に否定的な感想を持っていることが分かります。
 そして,回答者のうち新60期以降(法科大学院修了者)は,そもそも法科大学院以前の状態を知らない上に,法科大学院の評価を否定することは自らの存在意義の否定につながりかねないため,このような質問に対しては相当甘い評価になることが当然予想されるわけですが,それでも回答者865人中「達成している」は23人,「相当程度達成している」は200人であったのに対し,「余り達成していない」が276人,「達成していない」が163人,「分からない」が167人となっており,やはり否定的評価の方が多くなっています。
 ちなみに,新司法試験の合格者は,上記6校の出身者だけで概ね過半数に達するのが通例となっており,当然このような上位ローの出身者が法科大学院に対する評判の相当部分を築いていることは疑う余地がありませんから,上位ローに問題がないのであれば,法科大学院教育の評判が,このように全体的に悪い数字になるはずがありません。やはり,法科大学院教育は,上位ローも含めて全体的に「成果が挙がっていない」と評価するしかないのです。

 第2点。以下は定量的情報(統計の結果)ではなく定性的情報(関係者の個人的な感想など)になりますが,上位ローの教育内容に疑問を感じさせられるお話は少なからず耳にします。

○ 平成23年10月ころ,とある上位ローの合格者が自身のブログで「ただ、司法修習に向けて勉強は一切していません。どーせ刑事訴訟なんてやらないし、民事訴訟も知財しかやらないだろうし・・・。ただで1年も拘束されて、生涯年収を減らされて、司法修習制度はマジで渉外弁護士にとっては懐疑的な制度としか言いようがない。」などと発言し,ネット上で話題になったことがあります。たしかこのブログでも以前に取り上げたことがあったと思います。
 上記のブログは既に削除されたようなのでリンクは貼れませんが,たしか東大ローの出身者で,200番台くらいの上位合格者ということなので,おそらく旧試験下でも合格する可能性は高く,したがって法科大学院が悪いのではないという議論をしている人もいました。
 しかし,法科大学院では,「かけがえのない人生を生きる人々の喜びや悲しみに対して深く共感しうる豊かな人間性の涵養、向上を図る」とか,「法曹としての責任感や倫理観が涵養されるよう努める」といった偉そうな教育理念が掲げられていますが,ことが。「定評のある法科大学院」の教育も,少なくともこの卒業生に関する限り,人間性の向上には特に役立っていなかったと考えるしかありません。

○ とある弁護士さんが,トップクラスの法科大学院出身者(司法修習生)と話をしたところ,修習生からこのように言われたそうです。
(以下引用部分)
 私が、ロースクール制を廃止しても、すばらしい教育をしているロースクールであれば存続は可能であるし、企業の法務担当者や弁護士などの実務家も講義を受けにいくだろう、と話をしたところ、その修習生は、
弁護士になってから受けるほどの講義はないと思う。日弁連の研修も充実しているし。やはりロースクールで学んだことは机上のものだったということが修習生になってみてよく分かった。前期修習は絶対に必要だと思う。
 と言っていた。また、
弁護修習で文章を添削してもらうと、とても勉強になる。ロースクールでは、こういう機会はなかった。」「もし2年前に実務に直ちについていたら、今はもっと成長できていたと思う。
 という感想も述べていた。
(参照:2012年1月21日『弁護士のため息』http://t-m-lawyer.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/post-edc8.html
(引用部分終わり)
 この記事にも以前言及したかもしれませんが,少なくとも卒業生からこのように酷評される法科大学院が,「定評のある」教育機関であるとはとても言えないでしょう。
 ちなみに,東大法学部にも,かつては大学院実務家養成コースというものがあり,現役の弁護士や公務員なども勉強に来て好評を博していました(法科大学院創設に伴い廃止)が,黒猫も院生に混じってゼミに参加した経験があるところ,勉強になると思ったのはやはり実務家出身者の話であり,あれが教員と学生だけになれば,ク○ープを入れないコーヒーのごとく中身の薄い教育になるであろうことは想像に難くありません。

○ 東京弁護士会で,法科大学院関係のミニシンポジウムを開くというので,黒猫も参加したことがあります。そのシンポジウムでは,パネラーとして法科大学院出身(早稲田だったかな?)の新人弁護士が招かれており,法科大学院の教育成果として,法哲学や法社会学の講義が役に立ったなどと発言していたので,質問の際に「法哲学や法社会学の講義が実務でどのように役立ったというのか,具体的に説明して下さい」という趣旨の質問を提出したところ,その新人弁護士は一言も答えられませんでした。
 その他,弁護士会サイドでは,法科大学院教育では「法曹倫理」を教えているから価値があるんだという主張をやたら強調する傾向がありますが,一般に法科大学院で開かれている法曹倫理の授業はせいぜい2単位くらいです(ちなみに,法科大学院の3年間で取得すべき単位数は,一般に95単位前後)。
 法科大学院を卒業しても弁護士になる人は半数にも満たないんだし,法曹倫理くらいならわざわざ法科大学院でやらなくても,司法試験合格者に対し司法研修所で教えれば十分ではないかと思うのですが,このような疑問には誰も答えてくれません。

(追記:事実誤認が発見されたため,記事の一部を削除致しました。)

 経営法友会が平成22年に企業向けのアンケートを実施したところ,「法科大学院修了者を採用する」と回答した企業は全体の8.8%。つまり,9割以上の企業は,法務博士の採用なんて考えもしていません。
 もっとも,「法務博士の資格は就職においてほとんど意味をなさないため,就職希望者の大半は退学を希望している」と認識している法科大学院もあれば,卒業者について企業からの問い合わせや説明会開催の申入れがあることを理由に,卒業者の就職についてひどく楽観視している法科大学院もあるようですが,後者の言い分を鵜呑みにするのは危険だと思います。この不景気でも,あまりに人気が悪く学生からも逃げられて新人を採用できない企業などがあったりしますので・・・。

 また長くなってしまったので,結論に行きます。これらの状況証拠から判断すると,やはり上位ローといえども,「定評がある」教育機関だという評価はできません。たまに優秀な卒業生がいても,その多くはもともと素質が良かっただけで,法科大学院の教育により優秀になったとは思えません。そういう人の多くは,旧試験でもおそらく合格できたでしょう。
 やはり法科大学院は,一旦司法試験の受験資格から外した上で,上位ローも含めて法曹養成機関としての適格性を有するかどうか,市場原理でふるいにかけてみる必要があると言わざるを得ません。

39 コメント

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Unknown ()
2012-06-01 21:10:14
今年の問題を見てみたのですが、添付の契約書は「和風だし」についてのものなので(契約書第1条)、「山菜おこわ」は無償寄託の原則通り自己物と同一の注意義務ではないかと思います。
http://www.moj.go.jp/content/000098336.pdf
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Unknown (とおりすがり)
2012-06-01 21:23:18
上位ローに行く意義はできる人と一緒にゼミを組むためだそうです。下位ローには足を引っ張る人はいても切磋琢磨できる人がいないのは想像できますね。
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Unknown (Unknown)
2012-06-01 21:35:14
ブログの彼はむしろ優秀な受験生だそうです。
先のコメントにあるように契約書とおこわは別の契約が原則のはずです。
「和風だし」と「山菜おこわ」の契約は別であることが原則で、後者の契約を当事者の関係や事情から前者に組み込むという構成はありえると思いますが、そこを論じずにいきなり前者の契約条項を持ち出すことはどうでしょうか。

黒猫さんの事実誤認だと思われますが、お認めになるのであれば、ブログの方にきちんと謝罪すべきだと思います。
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Unknown (Unknown)
2012-06-01 21:38:58
自称優秀な弁護士は、チンケなレベルであるはずの司法試験の問題文すらまともに読めないのかい?
あんたのやってる読み間違いは受験生全体のレベルから見てもポンコツだし(なにせ契約書どころか事案の流れすら終えていないことを露呈する間違いなもので)、合格者レベルからすればお話にならないですね。
ただでさえ弁護士が受験生のブログを叩いてどや顔なんてみっともないのに、恥の上塗りもいいところですよ。
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第3点について (大江ゆかり♂)
2012-06-01 22:13:12
すでにコメントされていますが、「山菜おこわ」は「無償で保管すること」が合意されています(問題文:事実10)。
わたくしも、引用のブログ主と交流がある受験生ですが、
発表前の受験生はとりわけデリケートでセンシティブになっています。事実をご確認いただけますようにお願いいたします。
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さすが優秀な弁護士ですね! (さやか)
2012-06-01 22:22:18
契約書が何の契約書なのかは無視
問題文の事実関係も無視


きちんと謝罪すべきだと思います。
あと、旧と今では試験の質が全く違うので、どっちの受験生が優秀かというのは比べようがないと思いますよ。
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Unknown (なまぽ)
2012-06-02 00:01:52
おめえに食わせる山菜おこわはねぇ!! じゅんお
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Unknown (Unknown)
2012-06-02 00:11:09
旧試験合格者の質も全く保証されていないことを示していただきました。

受験生の答案構成を晒しあげて、不合格と決めつける自らの人間性を省みるべきでしょう。
是非、法科大学院に入学して、「かけがえのない人生を生きる人々の喜びや悲しみに対して深く共感しうる豊かな人間性の涵養、向上を図る」ことができるようになってください。
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残念です。 (さくらい)
2012-06-02 00:19:42
『「弁護士になってから受けるほどの講義はないと思う。日弁連の研修も充実しているし。やはりロースクールで学んだことは机上のものだったということが修習生になってみてよく分かった。前期修習は絶対に必要だと思う。」
 と言っていた。また、
「弁護修習で文章を添削してもらうと、とても勉強になる。ロースクールでは、こういう機会はなかった。」「もし2年前に実務に直ちについていたら、今はもっと成長できていたと思う。」
 という感想も述べていた。』
の下りですが、ただの一卒業生の感想に過ぎないですよね。これを全員そう思っているように引用するのはどうですか?ロースクールを語るなら自身で卒業してから語って下さい。痛すぎます。
あと、民法苦手みたいですね。行政法ならともかく、恥ずかしいです。黒猫さんが今の司法試験に合格できないのは当たり前で、そこはどうでもいいです。ただ、今回のブログのような、切れ味が悪く、無駄に辛口なだけの記事は控えた方がいいですよ。弁護士なんだから、とは言いませんが、弁護士でも、ある程度、分別はわきまえて下さい。悲しくなります。坂本隆志という名前を背負ってブログをされているんですから、ご自身の記事内容の責任を持っているということですよね。記事削除はしないで、今回の記事について、このコメントや、http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/shihou/1338542561/
ここであなたについて言われていることを受けて、どのような感想を持ったか、是非聞かせて下さい。勿論、無視して頂いても結構ですが、コメントを解禁されているので、コメントしたまでです。
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よくわからないのですが, (三毛猫)
2012-06-02 00:24:50
素人の素朴な疑問で恐縮ですが,
『「山菜おこわ」は「無償で保管すること」が合意されています(問題文:事実10)』といわれますが,附属的商行為(商法503条)の可能性はないのですか?
「和風だし」については,保管料を払ってますので(問題文:事実8),その寄託契約は継続的な有償契約ですよね。この関係で,「質店」と「倉庫」業では業種が違うにしても,Hに商人性を認める余地があれば,『添付の契約書は「和風だし」についてのものなので(契約書第1条)…』としても,Hには善良なる管理者の注意義務(商法593条)があるのではないでしょうか?
「和風だし」の保管料は,Hの商人性を基礎付けるもの,という理解はできないものでしょうか?
法務博士の先生方から御教示いただけますと幸いです。
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