先日、高脂血症の治療に通っている実家近くの医院へ行ったとき、すぐそばの畑で、ケリが鳴いていた。目を凝らして姿を探すと、つがいだろうか、ケリが2羽、土の色にうまく溶け込んで、歩きまわっていた。
ケリという鳥を初めて見たのは、7、8年前。自宅近くに銀行の野球部のグラウンドがあった。阪神大震災の影響もあってその銀行は他の銀行と合併し、グラウンドは他の会社に売られ、長い間放置されているうちに草原になった。
ある日、グラウンドの脇を歩いていると、数人がグラウンドの金網に顔を近づけて何かを見ている。草むらからは、ケンケンという甲高い声がする。何やら、鳥らしいものが動いている。
「キジですか」と隣でのぞいている婦人に聞いた。その婦人が言うには「いいえ、ケリです。雛がいるので、カラスが近づくと、親鳥がしきりに鳴いて、警戒しているんです」とのこと。なるほど、上空をカラスが飛んでいた。
図鑑で調べると、ケリという鳥は、田んぼや畑に巣を作り雛を育てる、身近な鳥なのだ。
それから、グラウンド近くの住人や、学校帰りの子どもたちが、ケンケンと親鳥が鳴くたびに、雛の無事を確かめるべく、金網越しに草むらの中を観察するようになった。知らない人同士が「雛は大丈夫でしょうか」などと会話を交わしながら。
カラスが現れるたびに、親鳥は、ある時は両親そろって、必死に鳴き続ける。その親鳥の健気な姿に、住人たちは感動さえして、カラスがどこかへ飛び去るまで、見守らずにはいられないのだった。
そのグラウンドは、次の年には宅地になって、ケリの鳴く声を聞くことはなくなった。
実家の周囲には、まだ田んぼや畑が残っていて、春から秋まで、どこかでケリの声がする。以前は気が付かなかったが、グラウンドに住み着いたケリを見てからは、私には親しい鳥になった。
ケリに続いて、今年初めて、巣を作っているツバメの姿も見た。自宅近くには川があり、里山もあるので、ツバメの数は多い。夕方になると、山の谷あいに、周辺のツバメが無数に集まって、気流に乗り、まるで楽しんでいるかのように空高く飛翔している。
被災地にもツバメは毎年数多く渡って来ていただろう。今年もやってくるだろう。そのとき、去年まで巣を作っていた町や村がなくなっているのを見たら、ツバメはどうするのだろう。
ふと、そんなことを考えた。