空の道を散歩

私の「仏道をならふ」の記

そこのみにて光輝く

2014-09-13 01:46:06 | 映画

 この夏、いい映画を2本続けて見た。

 一つは、狭山事件を描いた「SAYAMA 見えない手錠をはずすまで」というドキュメンタリー映画。

 知人から映画の案内が送られてきたとき、いつものプロパガンダ映画かなと思い、正直、積極的に見に行こうとは思わなかった。

 しかし、上映をうっかり見逃した私に、知人が再び、上映スケジュールのコピーを送ってくれた。見れば、私が住んでいるところから、そう遠くない市民会館での上映なので、行って見た。

 見てよかった。再び、映画を見るように勧めてくれた知人に感謝した。

 監督の金聖雄さんは、大阪・鶴橋生まれの在日2世。この人のセンス、アプローチの仕方がとてもいい。

 映画は、仮釈放後、結婚した石川一雄・早智子夫妻の生活を中心に、布川事件、足利事件の免罪被害者との交流、石川さんの兄夫婦の話、石川さんの両親の過去の映像も使って、貧しさと差別の中でまっとうに生きてきた被差別の人々の夫婦愛、家族愛を描いている。

 これまでの運動にありがちだった、プロパガンダ映画では決してない。出てくる人々は、みんな魅力的な人々で、中でも、石川一雄さんと早智子さんの人間性がそのまま伝わってくるような画面を見ていると、石川さんは絶対に無実だという確信が自然に生まれてくる。

 拳を振り上げたり、大声で国家権力を糾弾するというような、プロパガンダ映画にありがちなステレオタイプの映像や言葉はない代わりに、映画に出てくる三組の夫婦の何でもない日常の姿や言葉が、却って、冤罪がいかに非人間的で、正義に反するものであるかということを浮き彫りにしていく。

 会場で挨拶した撮影担当の人が「運動の側からは、運動を描いていないと言われました」と語っていた。

 私は、こういう映画がつくられたことは、狭山事件を、解放運動から、もっと広い人々のなかに広げていく、きっかけになるのではないかと思う。

 

    ~ ◇ ~ ◇ ~ ◇ ~

 

 

 もう一つの映画は「そこのみにて光輝く」。

 朝ドラの「カーネーション」で見て以来、綾野剛ファンになった私は、彼が出ているというだけの理由で、この映画を見に行った。

 封切以来、なかなか出かけることができずにいたが、近所の映画館で上映されていたので、これが最後の機会とばかりに見に行った。

 綾野剛さえ見ることができたら、映画がそれほどでなくても別にいいや、と思っていたのが恥ずかしい。

 綾野剛はもちろんよかったが、ヒロインを演じた池脇千鶴、その弟役の菅田将暉がすばらしい。脇役の高橋和也、火野正平、伊佐山ひろ子もいい。

 何より、呉美保監督の人間のとらえかた、映像センスに脱帽した。脚本、カメラもとてもいい。

 呉美保監督は、以前に評判になった「オカンの嫁入り」を撮った監督だ。

 映画の題名だけは知っていたが、呉美保監督については全く知らなかった。

 そして、原作を書いた佐藤泰志という作家についても全く知らなかった。

 三島由紀夫賞や芥川賞など、何度も文学賞の候補に上げられながら、受賞に至らず、41歳で自死した作家だそうだ。

 帰宅しても、ずっと、映画のことが頭から離れない。

 そうしているうちに、テレビに、突然、モントリオール映画祭で、吉永小百合主演の映画が特別作品賞を、呉美保監督が最優秀監督賞を取ったというニュースが流れた。

 私が見た時間帯のNHKのニュースでは、吉永小百合の映像ばかり流れて、呉美保監督についても、作品についても何の説明も出てこなかった。これって、NHKの偏見?と思ったほど。

 後で、早い時間帯のニュースで、呉美保監督の映像も流れたと知ったが

 とにかく、最優秀監督賞受賞というニュースに、「そうだろ。当然だ」と思った。

 おまけに、その後、「そこのみにて光輝く」が、アカデミー賞外国映画賞候補の日本代表作品に選ばれた。

 呉美保監督は、モントリオールでの記者会見で、「受賞を、作者の佐藤泰志の墓前に報告したい。トロフィーは佐藤泰志の故郷、函館に送った」と語った。その気持ちもすごくよく分かる。

 この映画にかかわった人は全員、原作者の佐藤泰志への思いでつながって、映画に全力投球しているような、そんな感じがする。

 呉監督が語っているように、奇跡が続いて、アカデミー賞も受賞してほしい映画だ。

 私の好きな日本映画の監督は、みんな死んでしまって楽しみがなくなっていたが、これからは、呉美保監督の作品を楽しみにできるのがうれしい。