この半月あまりの間に、3本のドキュメンタリー映画を見た。
一つは「セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター」。原題は“THE SALT OF THE EARTH” 。
何年前になるか、サルガドの作品が掲載された雑誌を友人が貸してくれて、初めて見た写真に釘付けになった。
そのサルガドが故郷ブラジルに帰って、父から受け継いだ荒れ果てた農園に木を植え、周辺にも森を再生したというテレビ番組を少し前にやっていた。
映画は、ヴィム・ベンダースが監督だというので、上映されるのを楽しみにしていた。
ヴィム・ベンダースは、30年以上も前に、友人がドイツ領事館から借りてきた映画「さすらい」を小さな集まりで見たのが最初。
「パリ・テキサス」を見たとき、「さすらい」という映画に感じが似ていると言ったら、「『さすらい』も同じ監督だよ」と友人が教えてくれて、ヴィム・ベンダースという名前が、私のお気に入りの監督の名前として、脳裏に刻まれた経緯がある。
サルガドとベンダースという組み合わせは、映画を見る前から、期待せずにはおれない。
映画館は「シネ・リーブル神戸」。
サルガドは、飢餓や戦争に苦しむ人間に寄り添って写真を撮り続けた結果、精神的なバランスを崩してしまい、写真が撮れなくなる。
故郷ブラジルに帰るが、生まれ育った父の農場は、開発と旱魃で荒れ果てていた。
「木を植えましょう」という妻の一言で、農場やはげ山となった周辺に木を植え続け、失われた緑の大地を取り戻す。
森の再生はサルガドの魂も再生させ、撮影する対象も、自然そのもの、自然とともに生きる先住民と変わっていく。
サルガドの写真、父の撮影に同行した息子、ジュリアーノ・リベイロ・サルガドの撮った映像、ヴィム・ベンダースとのインタビュー、サルガドの人生の要所要所で重要な、賢い選択を促してきた、妻でもあり仕事の同志でもあるレリア、障害を持つ次男。
さまざまなことをシンクロさせながら、映画は、人間も動物も自然も、山川草木すべてを含んだ地球そのものが持つ再生の力を感じさせてくれる。
サルガドの撮る写真は、旧約聖書の世界を感じさせたが、この映画は、仏教的、華厳経的な世界観をも感じさせる。
ベンダースは、ニュー・ジャーマン・シネマの旗手と言われると同時に、ロード・ムービーの旗手とも言われてきた。この映画も、ロード・ムービーだとも言える。
故郷を出て、世界中をさまよい、家族とともに荒れ果てた故郷に帰り、森を再生させ、人間の希望の道を見つける、そういう旅人の映画だ。
そう言えば、華厳経の「入法界品」で、善財童子が旅をして、さまざまな出会いの果てに悟りを得るという話に似ているなあ。
あとの2本の映画については次回に書く。