
今年は昨年と同様に、いやそれ以上に気候変動の激しい年になっているのかもしれない。もう最強寒波が厳しかった冬は過ぎ去り、今は本来ならば春の季節なのだが、桜は開花してくれたものの、日によっては気温の上昇が急で夏日が出現したりする。しかも一日の気温の高低差も極端で、朝晩は冬のように寒いのに、太陽が顔を出している大半の時間が夏の暑さだ。おかげで過ごしやすい春や夏の気温に浸れるのは、ほんの少しばかりの時間である。これでは体調不良になるのは避けられそうにない。
そのせいか、ここ半年以上、聴いている音楽は癒しの効果を実感できる曲が多い。特にジャンルでいうと、クラシックのそれもピアノが主役の音楽だ。モーツアルトは男性よりも女性のピアニストの演奏に癒された。特にイングリット・ヘブラーは協奏曲も独奏も秀逸なことの上ない。またバッハとベートーヴェンやシューベルトは、このブログでも紹介したスヴャトスラフ・リヒテルの演奏ばかり聴いていた気もするが、YOUTUBEで検索する機会も増え、ピアニストの出身は洋の東西を問わず聴いていた。また新たに発見した演奏を聴くことで、鑑賞するレパートリーが増えたようにも思う。ただしショパンの曲はクラウディオ・アラウの演奏に限定していた。
しかしクラシック音楽で使用される様々な楽器の中で、ピアノこそ癒し効果が最高だというわけでもなかろう。多分、今回の気候変動からくる心身の疲弊に、それも個人的なレベルで効果的に、ピアノをメインに据えた音楽が最大級に作用してくれたというのが正解のはずだ。そして著名なピアニストたちは、音楽を鑑賞する人々へ、特に心身が弱っている人々に対し、そのような優しい配慮も携えて演奏しているように思われる。特にキース・ジャレットのピアノの音色には助けられた。聴いていて持病でもある偏頭痛が忘却の彼方へ消えていく、そんな心地良い錯覚さえ感じた。
キース・ジャレットはクラシック畑の人というよりも、ジャズ・ピアニストとして著名で、米国人だが欧州を代表する名門ジャズ・レーベルのECMに在籍している。実際、このECMを代表する音楽家として認識しているジャズ愛好家は世界中に多い。実は私もそんな1人で、特に初めて即興ピアノ演奏の最高傑作と名高い「ケルン・コンサート」を大学時代に鑑賞してから、その虜になって彼のレコードを買い漁り、一時期はキース・ジャレット以外の音楽を耳にしなくなったことさえあったほどだ。またコンサート歴では、キング・クリムゾンに次いで多く、大学生の時に大阪でソロ・コンサートを体験して以降、社会人になってからも幾度か東京のコンサート会場に足を運んでいる。
以下に紹介するYOUTUBEのアドレスは、キース・ジャレットのオリジナルのピアノ協奏曲である。タイトルは“The Celestial Hawk”という邦訳すると「天の鷹」という意味だが、音楽を聴いていて脳内に浮かぶ情景は大自然を鳥瞰したような風景、あるいは鷹という鳥の視界そのものかもしれない。ジャンル的には伝統的なクラシック音楽の範疇に収まっているものの、現代音楽家が作曲した歴然とした稀有壮大な音空間である。キース・ジャレットの場合、オリジナル以外ではジャズのスタンダード、バッハやモーツアルトの作品もリリースしているが、このピアノ協奏曲が素晴らしいのは国境を越えた魅力に満ちているところであろう。つまり西洋と東洋を融和する無国籍な音楽を連想させる。私が一番惹かれるのは第三楽章の、ゆっくりとした穏やかな川の流れのようなメロディだが、謙虚な佇まいでオーケストラに溶け込み自己主張を抑えていながら、ピアノが超越的に音楽空間に存在している点は3つの楽章全てに共通している。素晴らしいのは強い音色よりも、無音から密やかに飛翔し、無音に着地していく静かな弱い音色で、これこそ癒しの極致であろう。
Keith Jarrett - The Celestial Hawk - Second Movement
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