むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所クラスター㉝

2019-07-29 09:49:03 | 小説
 昭和一二年二月未明。武漢で女性鉄道駅員が、駅の近くで機関車にひかれて、ばらばら死体になる事故が起きる。公安(中国の警察)は駅員がなにかの理由で、駅の手前で機関車を停止させようとして、線路上でつまずいて、頭を打って気絶した状態でひかれたと考えた。しかし他の駅員に事情を聞くと、「機関車を停止させる理由は、なかったよ」と言う。近くで女学生が反対側のホームにいる労働者を、挑発するように股を開いてしゃがんでいた。考え違いをしたのは、きっとそのせいだ。さっきの駅員は、なにかを隠している様子だったが、公安はもういちど現場の線路付近を調べた。枕木のひとつに小石を、よけてできた直径二〇㎝ほどの穴がある。公安がそこに手を入れると、奥行きのある空洞があった。次の瞬間に、空洞に潜んでいるなにかが公安の腕を、ひものような物で縛ってなかへ引きずり込もうとする。公安は大声で助けを呼んだ。他の公安が駆けつけて付近を調べると、枯れ草を貼りつけた板があって出入り口になっていた。なかは昔の墓で、五m四方ほどの空間があって、明かりがついている。裸婦の絵を描いたキャンバスがあって、壁で作業ズボンにとっくりのセーターを、着た四〇歳前後の男が、線路にいる公安の腕を引っ張っていた。公安は男を逮捕する。男は一〇年ほど前から偶然その空間を見つけて住み続けていたらしい。男は趣味で推理小説を書いていて、換気口から腕が出ているのを見て思わず引っ張ったという。公安が男の作品を読ませてもらうと、前後にスローガンのような物をつけて語り継げば、なにかの役に立つ感じがする。男は「完成させたやつはいない」と言う。公安が「金貨の負荷はどうするんだ」と聞いたら、男は「文字数をそろえれば最小になる」と言った。公安が「誰に売るつもりだ」と聞いたら、男は「日本軍に売る予定だった」と答える。裸婦の絵を聞いたら「続きを知りたければ文章を読むことだ」と答えた。