むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所クラスター⑯

2019-07-12 09:40:25 | 小説
 昭和一三年三月未明。香港のビルで看板が、通行人の頭上に落下して通行人が、死ぬという事件が起きた。公安(中国の警察)は看板にある一〇か所の、とめ具のボルトが外されていることから殺人事件として捜査を開始する。死んだ通行人は長さ一mの木製定規と、長さ二mの巻き尺を使って、男二人が戦う「スケールファイター」という格闘技のイギリス人選手で、近所に住んでいた。落下した看板はビルの、四階の壁にとりつけられていて、近い部屋の窓からボルトを外すことができる。その部屋は空き室でドアが開きっぱなしだった。公安は目撃者を探す。スケールファイターは公安もなんどか観戦したことがあって、普通は相手の首に巻き尺を巻きつけて、間に定規をはさんでぐるぐるまわして勝負がつく。犯人は熱狂的なファンなのかも知れない。公安が向かいの、マンションの住人に話を聞くと、「ずっと部屋にいてときどき外を見たが人影は、なかったけど」と言う。夜なかに、落下しないていどに下側のボルトを外していた者がいるわけだ。上部のゆるんだボルトにひもをひっかけて、強く引けば他の階でも落下させることができる。公安は屋上を調べた。そこには家があって、公安が家の住人に事情を聞くと、「その時間に、『思想革新集団』のメンバーがいたよ」と言いながら思想革新集団のちらしをさし出す。ちらしには「青少年を戦争に、参加させることで永遠の若さを・・」と書いてあった。公安が人相を聞くとそれは向かいの、マンションの住人だ。公安は犯人の部屋に踏み込む。男は玄関に出て「まだなにか」と言ったが、公安が「どうして戦争をやりたいんだ」と聞いたら、男は状況と立場を理解したらしくて、「反戦を唱えるイギリス人思想家と間違えた」と言う。公安は男を逮捕した。男は「架空の戦争をやれば永遠に若く・・」と言っている。公安はスケールファイターの「例のパターン」を思い出してなんだか愉快になった。スケールファイターは定規を本気でむち打った方が一気に、相手の首に巻き尺を巻きつけようとして、力加減を間違えて、相手に巻き尺をとられる場合が多い。そこからしばらく定規のぶつけ合いをしてから、巻き尺を奪った方が相手の横方向へ空中で、つかめそうでつかめない位置に巻き尺をほうり投げる。そして相手がつかもうとして、ガードが甘くなったときに、二回転巻きが、決まる場合がほとんどだ。公安は思想革新集団の一斉捜査に乗り出す。