むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所クラスター63

2019-08-28 09:59:22 | 小説
 昭和四年四月未明。香港のタイプライター販売店で店主が鼻と口にポマードを押し込まれて、窒息死する事件が起きる。公安(中国の警察)が奥さんから事情を聞くと、「イギリス人がうちの店で『大麻を販売しろ』と言いにきて、主人がことわると顔にポマードを塗りつけたんです」と言った。公安は若い公安に応援を要請したが、全員別な現場に出払っていたっ。公安は住所を聞いて前向きにそこへ行く。海辺の倉庫でシートを広げて、大麻を中国人が三人でいじくっていた。公安が近づくと倉庫のなかで上半身に、真空パックみたいにポマードを塗りたくった坊主頭のイギリス人が立っている。公安が「どうして殺した」と聞いたら、男は足もとの特大ポマード缶から両手でかたまりをつかみながら「おまえを殺すためだ」と答えて公安に近づいてきた。公安は機械油につかった殺人マシーンのような、男のひとことにおじけついて心の電話で、小学生の息子(被害者幽霊を小学生に変換して対話する特殊能力がある)に呼びかけたが、応答がない。金貨の使い道が飽和して、これが誕生したんだろう。とりあえず公安はキックを男の顔面にヒットさせたが、鼻のそばをすべっただけで、男は鼻のまわりにポマードをつけなおす。男は公安が足払いを、してくる瞬間を狙って、片手をベルトの高さで左右に振っている。公安が飛び蹴りを、片足ずつ男の顔面に命中させたが、男は少しのけぞっただけでダメージがない。男がポマードを肩口につけてから、顔にポマードをつけなおした。男が肩口のポマードをつかんで公安に突進してくる。公安はふせて地面を転がってよけた。男が向きを変えて突進してくる。公安は大麻のシートに飛び込む。男がシートを蹴り上げる。公安は大麻を両手につかんで、男の顔に飛びついて貼りつけた。男がよろけて公安は背後にまわり込む。公安は飛びはねて男の頭にキックしたが、男が振り返ってポマードを持っている方の手で受けとめられる。なぜ気づいたんだ。男が目のまわりについたポマードと大麻をぬぐっていた。男が首まわりのポマードを両手につかんで、公安につかみかかってくる。公安は靴底のポマードですべった瞬間に足をかけられて押し倒された。公安は顔にポマードを塗りつけられる。腕をつかんでも手がすべってつかめない。そのとき奥さんが倉庫に入ってきて、男の頭に、タイプライターの活字をひとつかみ投げた。公安は渾身の力を込めて、男の股間をキックして、男の顔についているポマードをかきまわす。公安は男を逮捕した。

超IQ研究所クラスター62

2019-08-27 09:47:49 | 小説
 昭和五年五月未明。北京の居酒屋で、超能力者の男が、窒息死している事件が起きた。死体は鼻と口がゴムのりを厚く貼りつけた布でおおわれている。殺し屋の手口だ。公安(中国の警察)は前向きに捜査を始める。現場は間仕切りがあるテーブル席で、死体は長椅子にうつぶせの状態で、翌日に発見された。死んだ男は古代の皇帝を超能力で念写できて新聞に載ったこともある。公安は若い公安が場かずを踏むのにいい機会だと思って、あちこち手配したが全員麻雀荘に出払っていた。食事代のトラブルは殺人事件に匹敵するから途中で抜けることができない。小学生の息子(被害者幽霊を小学生に変換して対話する特殊能力がある)が出てきて「脳みそのひだが、つるつるになるような正義のために戦うことも悪くないよ」と言う。公安は死んだ男の家へ行く。二階建ての一軒家にひとりで、住んでいるようだった。二階の部屋が、合成写真のアトリエになっている。壺のなかにノートがあった。誰にどんな写真をいくらで売ったか書いてある。公安はノートに、「用心棒風」と書いてある男が気になった。地主が小作人を管理するために、流れ者の殺し屋を雇うことがある。買った写真は楊貴妃だった。公安は楊貴妃を買った男の農場へ行く。納屋の入り口に、ゴムのりの缶がある。死体が吐き出すガスのような、死臭が漂っていた。公安が納屋に入ると、潜んでいた男がつかみかかってくる。公安が飛びはねてかわすと、ズボンにゴムのりがべたりとつく。男がゴムのりの缶をつかんで、片手をなかに突っ込んでいる。公安が「どうして殺した」と聞いたら、男は笹の葉を口にくわえながら「似てないので殺しにゃあ」と言う。男がゴムのりのかたまりをつかんで公安に突進してきた。公安が足払いを食らわすと、男がよろけてゴムのりのかたまりを、公安の首付近に投げつける。溶剤のにおいが鼻について、公安がひるんでいると、男が蹴り上げてきた。公安はかろうじて両手で受けとめたが後ろに飛ばされる。男がまたゴムのりの缶を手にとった。こんどは両手にゴムのりのかたまりをつかんで突進してくる。公安は飛びはねてキックをしたが両手で「べたっ」と受けとめられて倒された。男が公安の口を目がけて、手を伸ばしてくる。公安は男の両手首をつかんでこらえた。男が口にくわえていた笹を、いちど口に入れてから、公安の目に向けて吐き出す。男が下あごを半開きにさせて蹴り上げようとしている。公安は足をたたんで、キックを男の顔面にヒットさせた。公安は男を逮捕する。



超IQ研究所クラスター61

2019-08-26 10:14:12 | 小説
 昭和四年三月未明。北京で洋服屋の店主が、爆死する事件が起きた。死体は店の前で頭部だけ爆発している。現場に帽子の切れはしがあることから、爆竹を巻いた帽子に火薬の袋がしかけられていて爆死したらしい。公安(中国の警察)は死体を見て「きまじめな男が空中で円軌道を描きながら走ってなにかから逃げてる」ように思えた。現場の洋服屋は倉庫を改造した爆竹工場があって、近所の商店に爆竹を売っているらしい。工場に男性従業員が二人いた。公安が事情を聞くと、「週の始めに店先で爆竹を鳴らすと縁起がいいよ」と言う。外出していた奥さんが帰ってきた。公安が事情を聞くと、「従業員がもうひとりいるわ」と言いながら竹ざおに爆竹を巻き始める。公安が下駄の底に、爆竹を巻いている別な従業員に「その男が帽子に爆竹を、巻いた物をつくってたか」と聞いたら、「つくってたよ」と答えた。男は四〇代で二年前に爆竹づくりを、店主に持ちかけて店主が意気投合してつくり始めたという。奥さんが「女がいて爆竹を買った店で、商品を、買うふりをするわ」と言った。公安は住所を聞いてそこへ行く。マンションの三階だった。公安がその部屋に行くと、女が出てきて「なかへどうぞ」と言う。なかへ入ると天井から重りをつけた網が落ちてきて公安は床へたたきつけられた。部屋にいた男が入り口から逃げる。公安が床をはって網から脱出すると網は三m四方ぐらいで重さ二~三㎏の、砂袋が網の四方に一〇個ずつついていた。壁にフックがあって、網にひもが四本ついている。砂袋はひとつずつ天井につるされていてひとつ落ちると左右の砂袋も落ちるしかけだ。公安が感心していると、女が「あの男がひとりで全部やった」と叫ぶ。公安は近くにある仕入れ先の火薬工場へ行く。大きな砂山の前に工場がある。公安が工場の責任者に事情を説明すると、責任者は「以前はうちで働いててがんばってるようだが」と言う。公安が「まじめな性格じゃなかったですか」と聞いたら、責任者はうわずった声で「竹ぼうきは休憩所の、ベンチの下だ」と言って公安をにらみつける。資材の陰からダイナマイトを、胴体に巻いた犯人の男が姿を現す。片手にライターを持っている。公安が「なぜ店主を殺した」と聞いたら、男は「『もっと早くつくれ』と言ったから殺したっ」と言う。公安は男がライターに火を、つけないことを見抜いて、走って近づいてチョップでライターをはじき飛ばす。公安は男を逮捕した。


超IQ研究所クラスター60

2019-08-25 10:01:44 | 小説
 昭和五年四月未明。天津の水上住宅で、自動車販売会社の社長が足を縛られて軒下につるされて、溺死している事件が起きる。死体は昼間農作業に出ていた住人が帰ってきて「トイレに死体があるけど」と言って発見された。水上住宅は水面から二mほど上に密集しているため、公安(中国の警察)は「トイレのくみとりがいらないことはともかく、ごみを捨てほうだいなことは感心できない」と思いながら目撃者を探す。やがて「昼間馬に乗った二人組がきてた」と言う目撃者が現れる。公安は人相を聞いて、死んだ社長の奥さんから事情を聞く。奥さんは五〇代で、社長は年下で婿養子。奥さんの両親と、三人の弟と暮らしている。公安は「こんなありふれた状況描写で先物プログラムを読み込めるだろうか」と不安になった。しかし三人の弟が、犯人の人相に似ていることから、公安は目撃者の男を連れてきて確認したが違っている。公安は目撃者の男をタオシイと呼ぶことにした。タオシイは水上住宅で水道を管理しているという。公安は自動車販売会社へ行く。公安が女性従業員から事情を聞くと、「販売して間もない自動車で交通事故を起こした場合に社長が、見舞いに行くことがありますけど」と言いながら公安におしりを、突き出すように背なかを向けて奥の棚から、見舞金の台帳を持ってきた。台帳の一番上に、タオシイの名前がある。事件の一か月前に、水上住宅に住んでいた少年が、自動車にはねられて死んだ記録があって、父親がタオシイだ。公安はタオシイの家へ行く。公安はドアの陰に水道管を、持ったタオシイを透視した。水道管の先端に継ぎ手がついている。公安はドアを強く押し開けてなかへ飛び込んだ。靴底に水道管がかすった。公安が部屋の様子を見ていると、ひざを狙って、水道管を振ってくる。飛びはねてよけると家がぐらつく。次は胴体の真んなかを狙って、握りの逆回転に切り口をつけて忘却しながら強く振ってくる。公安は壁づたいに飛びはねてよけた。低い姿勢で着地すると家が大きくゆれる。タオシイが子供のようになにかわめきながら頭を狙って振り下ろしてきた。公安がよけると、水道管が床板をたたきわって、床下の支柱が突き出てきて「ぎしぎしっ」と音を立てながら、家が水面まで落下し始める。公安は窓わくにしがみつく。タオシイは床板のすき間に、器用に足をはめて動けなくなった。公安はタオシイを逮捕する。タオシイは「『別な事故で死んだことにしてください』と言って金をよこしたから殺した」と言う。


超IQ研究所クラスター59

2019-08-24 10:30:23 | 小説
 昭和四年二月未明。香港で剥製屋の店主が、なにかの装置で首を斬られて死ぬという事件が起きた。凶器は扇風機のような形で、大きさが三〇㎝ほどの、プロペラ状のカッター三枚が電気で回転する構造になっている。どうやら虫を吸引して粉砕する装置らしい。製造もとは「世界革命集団第二支店」になっている。公安(中国の警察)は住所を調べてそこへ行く。倉庫にいろいろな工作機械が並んでいて、中央に小型の電気炉を組みつけた装置がある。装置の中央に、銅貨と同じな鏡文字のデザインがあった。長髪の男が出てきて「それは『家庭用貨幣製造装置』だけど国から製造販売の許可を受けてるよ。原料の銅を入れればなん枚でもつくれる」と言う。公安はお金に裏づけが、必要なのは読み書きがままならない人間だと感じた。公安が剥製屋のことを聞くと、男は「前金でもらってたからさっき納品してきたよ」と言う。公安が「とり扱い方法を説明したか」と聞いたら、「した」と答える。公安が「他に客はいたか」と聞いたら、「自動車に乗った不審な男がいたけど」と言う。剥製屋の店主は、富裕層のイギリス人に売春をあっせんしている容疑で公安が捜査していた。人相を聞いてすぐあの男だと判明する。あの男は、死んだ店主の仲間だ。公安は古代の原人が黄鉄鉱を宝物として、物々交換している様子を想像しながらあの、男の店に行く。公安は途中で古代の羽根突きを思いついた。まず羽子板と羽根がついた木の玉。木の玉に細いひもがついていて、高さ一m八〇㎝ぐらいで固定した長さ三mほどの、棒の中心とつながっている構造。ルールは「二回打って棒の上を通過させる」だ。ひもの長さが一m八三㎝で、地面についたら相手の得点。このゲームは未来人をだませてかなりおもしろい。死んだ店主とあの、男の先祖が対戦していたかも知れない。店に着く。そこは倉庫を改装した大きな雑貨屋で若い女性ばかりが働いていた。売り場に二〇人くらいいる。公安が店員に「責任者はどこだ」と声をかけたら、「社長」と叫ぶ。奥から男が出てきて公安と、目を合わせると男は奥へ引き返す。公安が追う。男は外へ出た。拳銃を持っているようだ。公安は石を拾って追いかけた。公安が近づくと男は走りながら拳銃を撃って地面に命中する。阿片の使いすぎだろう。公安が石を投げつけると、男が振り返って拳銃で受けとめようとして首に命中して倒れた。公安は男を逮捕する。男は「剥製の、代金の方が多くて頭にきて殺した」と言う。


超IQ研究所クラスター58

2019-08-23 10:35:56 | 小説
 昭和四年一〇月未明。瀋陽で陶芸家の男が、庭の土に顔を押しつけられて死んでいる事件が起きた。死体は昼間外出していた奥さんが夕方に発見している。工房は陶芸家と奥さんの二人でやっていて食器などをつくって販売しているようだが、庭で劣化処理させている陶芸品が大量にあった。犯人は本物があるか探したらしい。公安(中国の警察)が奥さんに事情を聞くと、「主人は『博物館に納品するため』と言ってます」と言った。公安は小学生の息子(被害者幽霊を小学生に変換して対話する特殊能力がある)に聞く。小学生の息子は「ペンダント屋さんだよ」と言う。公安は奥さんからペンダント屋の住所を聞いてそこへ行く。ペンダント屋は町の中心部で露店をやっていた。外国製な銀貨のペンダントを一〇〇点ほど並べて奥に壺が一〇個ある。壺は全部死んだ陶芸家から買ったようだ。公安が事情を聞くと、「ひとつだけけたが多い値段をつけると売りやすいけど」と言う。公安が「それを誰か買っただろ」と聞いたら、「僧侶のような男が買った」と答える。公安は僧侶と物の特徴を聞いて寺院に行く。寺院の広場で修道士が、一〇人ほど武道の稽古をやっていた。公安が建物に近づくと、買った人物と思われる僧侶が出てきて、「なかへどうぞ」と言う。建物のなかは、ドーム型の天井が吹き抜けになっていて、上に巨大な電球がある。壁に粘土でできた古代の人形が並んでいたけどどれもレプリカだ。例の物があった。古代の壺だ。公安が僧侶に「これはどこで買いましたか」と聞いたら、「つくった者は死にました」と答える。公安が「誰が殺したんだ」と聞いたら、奥から大きさが七〇㎝ぐらいな、腹話術人形を持った男が小走りに近づいてきた。男は公安に三mぐらいまでくると、人形の口を動かしながら「よっちゃんは金貨で皇帝の壺を買いましたよ」と言う。少しすると人形の口から黒い煙が吹き出して、公安は煤のような物を全身にかけられる。男は「よっちゃんはうそつきを殺したんです」と言いながら人形をいじくって、人形の足と頭から刃物を突き出した。人形の背なかに二mぐらいなひもがついていて、男は刃物が突き出た人形をぐるぐる振りまわしながら「遠心力攻撃。遠心力攻撃っ」と叫ぶ。しかし公安が目もとの煤をぬぐって、すぐ飛び蹴りをすると、男は人形をほうり投げて逃げようとしたがずっこけるようにして転んで、顔を床にぶつけた。公安が男に「よっちゃんはどっちなんだ」と聞いたら、男は「おれが殺した」と言う。公安は男を逮捕した


超IQ研究所クラスター57

2019-08-22 10:01:33 | 小説
 昭和五年二月未明。香港の熱帯魚店で店主が、ピラニアの水槽に頭を押しつけられて溺死している事件が起きる。事件は白昼に起こり、死んだ店主は人身売買の容疑者だった。公安(中国の警察)が目撃者の、三〇代の女性店員に事情を聞くと、「イギリス人が『船から逃げ出すように指示しただろ』と言って怒ってたわ」と言う。人身売買は農村で「読み書きができない少女を、イギリス人が探してて、それらしき少女が行方不明」と言う情報が複数あって、公安が捜査していた。手口は水田や用水路にピラニアを泳がせて、興味を示した少女に、声をかけるという。公安が奥さんに事情を聞くと、「とりひきは全部主人がやってます」と言った。公安は別な熱帯魚店へ行く。公安が店主から事情を聞くと、「イギリス人から『イギリス留学の手つけ金を払えばいい』と持ちかけられたけどわけ前をもらえるほどの金額じゃなかったからことわった」と言う。イギリス人はピラニアの卸売り業者らしい。公安は港にある事務所へ行く。倉庫の外に、ピラニアのいけすがある。公安が倉庫に入ると、地面にじゅうたんが敷かれていて、一二~一五歳の少女が五人座っていた。公安が、長旅なのに手荷物がないことを不審に思いながら「どうして逃げないんだ」と声をかけたら、「殺し屋がいる」と叫ぶ。壁にランニングシャツを着た三〇代なイギリス人の男が立っていて公安にナイフを投げつけた。公安はよけたが左手の、指の間にあと四本持っている。公安がそばにあった直径七〇㎝ぐらいの丸テーブルを、楯にしたら顔と足へ交互に投げつけて、ナイフが四本テーブルに突き刺さった。男がマシンガンをつかんで公安に向けて発射する。倉庫のなかに、積まれていた水槽に命中してガラス片が飛び散った。公安がふせながらテーブルに刺さっていたナイフを投げつけると、銃口に突き刺さって男がマシンガンを落とす。公安が走って飛び蹴りを食らわすと、男は口から泡を吹いて足もとにあったうつぼの、水槽に頭を突っ込んで倒れる。事務所にいた中国人の男が両手を上げて出てきた。公安は二人を逮捕する。イギリス人の男は、熱帯魚店の店主を、殺したことを認めた。公安が中国人の男に、ピラニアのことを聞くと、「ピラニアは知能が高いんだ」と言う。男は新型華僑投資事業組合の支配人で、多くの企業に資金を供給している。人身売買によって華僑の新しい組合をつくるという構想は、経済界における台風の目だった。


超IQ研究所クラスター56

2019-08-21 10:12:24 | 小説
 昭和五年三月未明。北京にある大学の教室で、歴史学の教授が、骸骨の頭が結びつけられたロープで巻かれて、死んでいる事件が起きた。骸骨の頭は全部で三〇個あって、目玉の部ぶんでロープに結ばれていて、死亡原因は首に、かかったロープによる窒息死だ。足にロープは巻かれてなくて、床に油が塗られていた。教授は、なに者かに襲撃されて気絶した状態で、ロープで強く巻かれて意識をとり戻して立ち上がったあとに転倒して、ロープが首に強くかかって窒息死したと考えられる。公安(中国の警察)はどんな試験問題が出るか考えながらたばこを吸った。骸骨は手に一〇個ずつあって、頭を巻いている骸骨が下になると、首が絞まるしかけだ。公安が大学の責任者に事情を聞くと、死んだ教授は骸骨をいじくりながらの講義が有名で、骸骨は研究室に置かれていた物だという。研究室には三〇代の女性研究員がいて「原人が骨をどうやって、人間に擬態させるかがテーマで擬態を、理解できれば点数をあげるしかけよ」と言った。公安が「貝殻の貨幣を使うんだろ」と言ったら、女性研究員は「それはやらないわ。原人が人間に、従順となるように生活動作が、人間に類似していく進化過程を学習させるのよ」と言う。公安は「そうすると読み書きが、ままならない人間が永遠な若さの幻を見るだろうな」と思った。 公安が骸骨を研究室へ運ぶと、棚に思想改造集団のちらしがある。住所が近所の、中華料理店の二階だ。公安はそこへ行く。廊下に、現場の床に塗られていた機械油と、出前のどんぶりがある。公安が部屋に入ると、以前会った背広を着た三〇代の男と、作業服を着た二〇代の男がいた。背広を着た男が「われわれは、歴史は思想をねじ曲げることがないという信念のもとに、思想改造活動を行ってる」と言う。公安は作業服の男をよく見たが、武器は持ってなさそうだ。背広の男が「人類と猿人の違いは、記録と著作による文明行動だ」と言う。そのとき、入り口に中華料理店の店員が現れて「代金を頂きにまいりました」と叫ぶ。作業服の男が応対に出て走って逃げ出す。公安が追いかける。男は階段を下りて道路に出て、馬を奪おうとして、馬を引いていた中年の男とつかみ合いになった。男は中年の男に、手綱を首に、巻かれそうになっている。公安が中年の男を制止して「なぜ殺したんだ」と聞いたら、男は「歴史をねじ曲げてたから殺した」と言う。公安は男を逮捕する。男は去年まで大学の研究員だった。


超IQ研究所クラスター55

2019-08-20 10:22:55 | 小説
 昭和五年二月未明。長春で穀物ブローカーの男が、小売店の倉庫で、調味料のびんで頭を殴られて死ぬという事件が起きた。死体を発見した小売店の奥さんは「昼食を食べてたときは生きてましたよ。倉庫にある穀物と調味料はあの、男の物です」と言う。公安(中国の警察)が穀物ブローカー仲間から事情を聞くと、「豊作のときは生産者が高値で先物を買うから、もうけが出るけど、今年は不作の品目が多くてもうかってない」と言った。先物が売れないと現物を引きとって、倉庫の保管料と手数料を引いた値段で、小売店に少しずつ売るしかないという。公安が「豊作のときは、小売店の倉庫に、誰の物があるんだ」と聞いたら、「とり引き単位を間違えたやつの物で、びっしりの場合がある」と答えた。公安は不作の、場合のことを聞こうとして胸が苦しくなる。男が見かねたように「とり引きはすべて電話注文だからときどき間違えるやつがいるんだ」と言う。公安が死んだ男を調べると男は四〇代で独身。貸倉庫を経営していて小売店よりも保管料が安いようだ。貸倉庫には三〇代の従業員が二人いた。公安が倉庫の従業員に事情を聞くと、「相場が高くなれば、高値で売ることもできるがまずありません」と言う。公安が「どのぐらい安く買いとるんだ」と聞いたら、「収穫時の、四ぶんの一ぐらい。不作のときは、二ぶんの一くらいだけど」と答える。公安が「生産者はどうして収穫時に売り切らないんだ」と聞いたら、「買い注文を出さないと安くなるからですよ。小売店には前年の在庫で対応できますから」と言う。公安が「生産者は倉庫を持ってないのか」と聞いたら、「生産者が倉庫を持ってると、直売して相場が下落するんですよ」と答える。もうひとりの従業員がバケツを持ってきて、穀物が積まれたパレットの前に塩をまき始めた。公安が「なにをやってるんだ」とさっきの従業員に聞いたら、「今日は相場が高くなってるからおまじないですよ」と答える。公安が、社長が死んだことをもういちど説明すると、「えっ。本当に死んだんですか。一日勝負で相場に、参加する人にもうけられると、『死ぬ』と言うんですよ。そういえば『倉庫作業を手つだうから、保管料を安くしてくれ』と言いにきた小作人の男がいましたけど」と言う。公安がその男から事情を聞くと、「ためた金で買った穀物が、『小売店に売れる』と言ってたが自ぶんの在庫ばかり売ってたから殺したよ」と言った。公安は男を逮捕する。


超IQ研究所クラスター54

2019-08-19 10:29:40 | 小説
 昭和五年一月未明。香港の録音装置を開発する研究所で所長が、高電圧ケーブルを口に押し込まれて感電死している事件が起きた。所長は五〇代で研究所に四〇代の男性研究主任と、三〇代の女性研究班長と、二〇代の研究員が一〇人いる。死体は午前八時一五分に女性班長が研究室で発見した。通報があったのは午前九時三〇分だ。所長は録音用の紙テープに、樹脂を張るときに使う高電圧装置のケーブルで、死んでいる。研究所では紙テープを、使った録音装置をつくって放送局に売っていたという。公安が「どうしてすぐ通報しなかったんだ」と女性班長に聞いたら、「寝てるように見えました」と答える。公安が「録音装置は、なん人でつくるんだ」と聞いたら、「私と、主任と所長の三人でつくります」と答えた。作業机が一〇台あって所長の死体に、まったく関心がなさそうに、研究員が机に向かって待機している。公安が主任から事情を聞くと、主任が「政治家の声を、録音するための金箔を、張った録音テープをつくってるんだ」と言う。主任が時計を見ながら「一〇時ちょうど。開始」と叫ぶ。研究員一〇人が一斉に机の下から道具を出して、作業を始めた。電気ごてで金箔を溶かして石のような物に貼りつけている。公安が様子を見ていると、研究員たちがつくっていた物はイギリスの金貨だった。公安が主任に「なぜイギリスの金貨をつくってるんだ」と聞いたら、「イギリス政府に依頼されて、特別につくってる」と言う。公安は金箔の仕入れ先を聞いてそこへ行く。小さな店に金箔を張った屏風がびっしりと並んでいた。公安が店主から事情を聞くと、「未来の、日本の金貨なら以前つくってたよ。六〇年ぐらい先の年号を入れてそれっぽくだ」と言って業務用の使用済み封筒をさし出す。金箔の仕入れ先は、ビルの一室だった。公安がそこへ行くと、ドアが開いている。なかの様子を見ると、背広を着たイギリス人が立っていて、中国人の男が、外国の金貨を溶かして、金箔をつくっていた。イギリス人が「『傷がある鋳型を修正するように』と言いに行ってどうして殺す必要があるんだ」と言う。中国人の男が「『自ぶんで探せ』と言ってたが『自ぶんでつくれ』に聞こえた」と答える。公安が姿を現すと、中国人の男が、金ぴかの拳銃をとり出した。公安が近くにあったハンマーを投げつけると、男の口に「すぽっ」と入ってひっくり返る。公安は中国人の男を逮捕した。



超IQ研究所クラスター53

2019-08-18 10:27:39 | 小説
 昭和四年一一月未明。北京にあるチャイナドレスの販売店で、店主がなに者かに刃物で首を斬られて、死ぬという事件が起きた。その店は、女性の剣術使いが衣装を調達していることで有名だ。店は三〇代と四〇代の女性従業員がいて、死体は店へ最初にきた四〇代の従業員が発見した。店主と奥さんは五〇代で、奥さんは天津の闘技場へ出張に行っているという。公安が「ドレスをなん着も使うの」と四〇代の女性従業員に聞いたら、「試合で使う剣を販売してるわ。うちで委託生産してて、ぼろぼろになった剣もうちで買いとってる」と言う。三〇代の女性従業員が「刃が欠けるとひっかかって危ないのよ」と口をはさむ。公安は天津の闘技場へ行く。観客が二階席までびっしり埋まって三千人ぐらい。チャイナドレスを着た二刀流の女性剣術使いが、刃渡りが一m近くある剣を持った男と対戦している。公安は一階席の最前列で立って見ていた。女性剣術使いが水平に剣を振る。「がちん。がちんっ」と二回金属音が響いて、男がふらつく。女性剣術使いが「やあー」と叫びながら男に斬りかかる。男が剣を横にかまえて、二本の剣をぶつけると女性剣術使いが鮮やかに宙返りした。女性剣術使いが着地して片手を上げて、ポーズをする。男が間合いを詰めてきて、こんどは女性剣術使いが二本の剣を交互に、男の剣にぶつけて「がきーん。がきーんっ」と金属音が響く。女性剣術使いが踊るように回転しながら剣をぶつけると、拍手が巻き起こる。公安は最前列で奥さんを見つけた。公安が事情を聞くと、奥さんが「ちょっと待って」と言う。女性剣術使いがあおむけに倒れた。男が頭へ剣を振り下ろす。女性剣術使いが二本の剣で受けとめて、男の股間にキックした。女性剣術使いが剣を強く押し返すと、男はしりもちをついてあおむけに倒れる。女性剣術使いが男の、両耳付近のリングに、二本の剣を突き刺した。観客が拍手する。公安が奥さんに事情を説明すると、「八百長を持ちかけてきた男に殺されたのよ」と言う。かけの倍率が、女性剣術使いが一.二倍ぐらいで、男が三倍以上。女性剣術使いは剣が折れでもしないと、負けることがない。公安が「その男は会場にいるか」と聞いたら、奥さんは「あいつよ」と言う。剣の業者みたいだ。公安が近づくと男は剣のホルダーを投げつけて逃げようとしたけど、 公安が受けとめて剣を引き抜いて男の首に向けると、男は殺したことを認めた。公安は男を逮捕する。


超IQ研究所クラスター52

2019-08-17 09:59:24 | 小説
 昭和四年一二月未明。上海で人形を販売する店の店主が、陶器の人形で殴られて、死んでいる事件が起きた。凶器の人形は、高さ五〇㎝ほどの女性剣士像で重さが五㎏ぐらいある。人形屋には二〇代の女性店員が二人いて「午前九時に店を開けたら社長が死んでた」と言う。奥さんは現在行方不明。店は女性剣士の人形を専門に販売していて、遠方からマニアが買いにくることもあるという。公安(中国の警察)が、人形が置いてあった棚を調べていると、女性店員二人がなにかの作業をしている。大きさが二〇㎝ほどの、陶器の人形に砂を詰めているようだ。砂が入っている缶に、物理化学研究所のシールが貼られていて「ウラン」と書いてある。陶器の原料みたいだけどなにかがおかしい。そのとき店に電話がかかってきて、電話に出た店員が「社長が死んだ」と言う。電話は奥さんからで「いま香港よ。ウランちゃんを早く送って」と言って切れたそうだ。送り先は香港の思想改造集団だという。公安が「香港に行く」と言ったら、「これを届けて」とウランが入った陶器の人形を、詰めたトランクと地図を渡された。公安が香港に着いて、地図のビルに行くと、思想改造集団の事務所がある。公安は店員のふりをして「商品を届けにきましたが」と言いながら、事務所に入ると男が二人いた。公安がトランクを机の上に置くと、二人は人形をトランクから出して机の上に並べ始める。公安が「なにに使うんですか」と聞いたら、背広を着た三〇代の男が「気密性を検証して火薬にする」と言う。公安は、なにかおかしいと思ったが脳裏に、空中を浮遊している竜の姿が浮かんだ。竜の寿命は人間と同じぐらいだが、一〇〇年が一年だという。竜は人間に卵を産みつけて人間の思考で成長するらしい。公安が背広の男に「昨日店にきましたね」と聞いたら、作業服を着た四〇代の男が「大きいのを注文してできてなかったから殺した」と言う。男はズボンのポケットに手を入れた。男が拳銃をとり出した瞬間に、公安が手をチョップして、拳銃をはじき飛ばす。作業服の男が人形をつかんで公安に殴りかかる。公安がトランクで受けとめると、人形に入っていたウランが飛び散った。背広を着た男が「われわれは思想改造を目的とした集団で、その男は関係ない」と言う。作業服の男が拳銃を拾い上げようとして、足をすべらせてよろけた瞬間に、公安がトランクで男を殴りつけると、男は後ろに倒れて頭を打った。公安は男を逮捕する。


超IQ研究所クラスター51

2019-08-16 10:05:24 | 小説
 人口減少社会が進むと、人間の価値が高まるから自由に天変地異を叫べなくなる。タイトルは修道士。

 昭和四年九月未明。洛陽の寺院で修道士が首を斬られて、死んでいる事件が起きた。寺院は修道士が五〇人ほどいて、死んだ修道士は門番をしていたようだ。公安(中国の警察)が目撃者の老人から事情を聞くと、「魔神集団の者が、門番の首をはねた」と言う。公安が目撃者に「あなたは修道士なんですか」と聞いたら、「私は近所の農民です」と答える。公安の脳裏に「犯人である確率五〇%」という字幕が点滅して浮かぶ。公安が「魔神集団の住所はどこだ」と聞いたら、「あの、山のふもとです」と五㎞ほど離れた山を指さした。公安がそこに行くと、なかで黒装束の修道士二〇人がなぎなたを振りまわしている。公安が門番の男に「責任者に会わせて」と、言うとなかに案内してくれた。寺院のなかは仏像が並んでいて、死者の魂を納める寺院みたいだ。黒装束の老人が出てきた。公安が「なんのために稽古をしてるんだ」と聞いたら、老人は「未来の、日本の読み書きがままならない人々に、われわれが父であることをわからないようにするためだ。紙幣でこと足りる高額貨幣に、金製の工芸品を使うことによっていろいろな問題が発生する。工芸品は動かすときに作者の許可が必要。『これ私のだから』と、言っても『違う』と言われる。それに紙幣の、インクずれのような手変わりは作者にしかわからない」と言う。公安は脳裏に浮かんだ「犯人である確率〇%」の文字を見て、軽く一礼して寺院を出た。遠くから五〇人ほどの、寺院の修道士たちが小走りに近づいてくる。公安が門の前に立っているとうじゃうじゃ集まってきた。ひとりが「てめえも魔神集団の仲間だな」と言いながら殴りかかってくる。公安がハイキックを顔面にヒットさせた。一斉に殴りかかってくる。公安がハイキックとまわし蹴りを機械でできた人形のように、人数ぶん顔面にヒットさせて全員倒れた。倒れている男に目撃者のことを聞くと、「うちの総長だ」と言う。公安は事件の寺院に行く。寺院の広場に白い胴衣を着て、剣を持った目撃者の男が立っていた。公安が「おまえが犯人か」と、聞くと剣を振りかざして向かってくる。公安は剣を振り下ろした瞬間にふせて、男の両足を払い飛ばす。倒れた男がかぼそい声で「私は力のない年寄りです・・」と言う。公安が顔を近づけると、男が右手の人さし指となか指で、公安の目を突いてくる。公安が左手で受けとめて右手を男の首にかけると、男は「おれが殺した」と言う。公安は男を逮捕した。


超IQ研究所クラスター㊿

2019-08-15 10:00:29 | 小説
 昭和五年一二月未明。北京の数学研究所で所長が、斧で頭をわられて死亡している事件が起きた。死体は午前八時三〇分に研究所の、四〇代の男性研究主任が発見している。犯人は主任のようだが人間を、超越した理由がありそうなので公安(中国の警察)は変則的に捜査を始めた。公安は主任から事情を聞く。そこは円周率の計算をやっている研究所で、五〇代の男と女が計算していた。ストーブの反対側にある壁一面に、計算用の紙が積まれている。三〇年前から計算していて一日に七万けたのかけ算と、足し算を三回ずつやるという。公安が「検算はどうしてるんだ」と聞いたら主任は中央の直径五mほどな、金属製の円盤を指さして「実測値にもとづいた級数を使用して計算してる」と言った。円盤は三〇年前からあるらしくてかなり錆びている。検算はしてないらしい。計算している男と女は男が前日の計算用紙を見ながらかけ算して声で女につたえて、女が足し算して用紙に記録していた。主任が「計算が終わった用紙を売っています」と言う。公安が買い手の台帳を見せてもらうと、千人ほどいて毎年新しい計算用紙を買っている。公安が「計算してる二人と話をしたい」と言ったら、主任が「停止」と叫ぶ。計算していた男女は、三〇年前は大学生だったという。公安が所長のことを聞くと、「三〇年前は所長も同じ大学の研修生でした」と答える。研究所の建物は、所長の家を改築していた。公安が「主任はいつからきてるの」と聞いたら、女が「六万けたを超えてからです」と答える。公安が「一年で千けただと一〇年前ぐらいか」と聞いたら、女が「以前は一日に四回計算してましたからそれよりあとです」と言う。公安の脳裏に、たそがれた女の小じわをとり消したような、つやつやな肌の、大学生の表情が浮かんだ。公安はすべてのたそがれが、円周率の計算で片づけられるような気がした。公安は研究所を出て、最近計算用紙を買った喫茶店に行く。店主は「うちは理工系の学生が多いから毎年買ってるよ」と言う。公安はもう一軒の酒屋に行く。酒屋は「数字が並んだ計算用紙を見てると、気ぶんが爽快になる」と言う。一分間に数字を三〇〇ほど書き込む作業はでたらめでいいわけだ。公安は研究所に戻って主任から事情を聞く。公安が「数字が不正確なことで所長と口論になってただろ」と聞いたら、主任は壁に頭を軽くぶつけながら「『やめたい』と言ったから殺した」と白状する。公安は主任を逮捕した。


超IQ研究所クラスター㊾

2019-08-14 10:28:06 | 小説
 昭和四年九月未明。吉林の、水力発電所の建設現場で現場監督が、むちで打たれて死ぬという事件が起きる。凶器のむちは、死体の横に置いてあった。現場監督は他に四人いてそれぞれ自ぶんのむちを持っている。死体は昼食後にトイレのそばで炊事係が発見した。食堂は労働者を約二〇〇人収容できる宿舎のなかにあって、少し離れた場所に現場監督の事務所がある。トイレはその中間だ。公安(中国の警察)が年長な現場監督からむちのことを聞くと、「あいつだけ特殊なむちを使ってた」と言う。公安が「むちはいつも持ち歩いてるのか」と聞いたら、「食事のときは事務所に置いてる」と答えた。公安が「なぜ金属片を入れてたんだ」と聞いたら、「鉄骨を打つと響きがいい」と言う。公安が「鉄骨が入ってるのか」と聞いたら、「鉄骨は現場に置いてあるだけで、型わくにコンクリートを流し込むだけ」と答える。建設現場は宝石を、並べたお盆を陳列したショーケースのように輝いていた。公安が顔に竜の入れ墨を入れている労働者から、死んだ現場監督のことを聞くと、「地面をむちで打ってるだけだ」と言う。むちで打たれた人間はいないようだ。公安の脳裏に、労働者の誰かが倒れている現場監督を、ふだんの動作をまねするようにむちで打っている光景が浮かぶ。死因は首からの出血死だ。むちは水平方向に振ると、自ぶんに当たる恐れがある。公安が年長の現場監督に「昼休みは、なにをやってた」と聞いたら、「あいつは休憩しないで資材をいじくってたよ」と言う。公安が「むちは」と聞いたら、「にぎる部ぶんを汚さないように、近くに置いてるよ」と言った。公安が他の現場監督から事情を聞くと、「炊き出しの女が、菓子を仕入れて売ってるんだが、労働者が甘い物を食べ始めると、歯どめが効かなくなるんだよ」と言う。公安が「甘い物をどうやって売ってるんだ」と聞いたら、「声にならない声で『歯の神経が引っ込むよ』と言ってる。少しでいいと思うんだけどな」と答えた。公安はもういちど現場を調べる。甲羅の大きさが、二〇㎝ぐらいの亀がいた。甲羅に五㎝ほどの直角三角形なひっかき傷がある。夕方犯人が自首してきた。男は下流の村からきている労働者で首すじを搔きながら「あの男が亀をつかまえようとしてたから殺したよ」と言う。公安は男を逮捕する。そこの村では、亀が最高の神で「神のしるしを甲羅につけた」と言う。