むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所クラスター⑳

2019-07-16 10:19:47 | 小説
 昭和一二年一〇月未明。吉林で薪を、積んだ荷車を引いていたと思われる男が、積み荷の上で焼死している事件が起きる。薪は長さが三〇㎝ぐらいで、厚さは五~一五㎝くらいで簡単に火がつく物じゃない。公安(中国の警察)が近所の酒屋で事情を聞くと、「煙が立ち込める前に、『ばーん』という音がした」と言う。燃え残った薪が積まれている荷車を動かすと、黒い石があった。隕石だ。恐らく木星の、近くの小さな小惑星が軌道を外れて、地球に落下したのだろう。公安には宇宙論があった。夜空にきらめく遠くの恒星は、過去の太陽だ。空中を浮遊するように、宇宙空間を移動する太陽系の、過去の太陽が、現在の位置に、向かってくるときに明るく光り、遠ざかるときに小さく光って横方向の、光の帯は消失する。問題は太陽系が宇宙空間を浮遊する軌道と速度だ。つまり同じ軌道を高速で、一日ぐらいで移動している可能性がある。というよりは、そこは一日で考えた方がわかりやすい。公安は最初に空中をただよう煙の、粒子の軌道を表した立体レールと、それを転がる小さな、太陽系を考えた。夜空の、星のかずだけ曲がりくねった立体レールだ。推進力をどうするか考えていると、立体レールの全体像を球形にして、凹凸のある傾斜を転がせばいいことに気づく。次は一日かけて傾斜を、下まで転がった太陽系をスタート地点へ戻す方法だ。そこで太陽の裏側に、住んでいる宇宙人の力が必要になる。宇宙人が巨大な巨人をあやつって傾斜の終点で、太陽系が転がるレールでできた球体を、つまんでスタート地点に戻す。このスタート地点に、戻すときに、時間がとまったような状態になるので公安は、事件のときに、犯人の手番で時間がとまらないように、いつも宇宙人に確認している。公安が宇宙人に「巨大な巨人はいつもなにをやってるんだ」と聞いたら、宇宙人は「傾斜の、凹凸の清掃をやってるよ」と答えた。宇宙の外側にもちりやほこりがあるらしい。公安が宇宙人に「太陽の裏側は、暑くないのか」と聞いたら、宇宙人は「表側から太陽光発電の電源を引っ張って、暖房を入れてる」と言った。宇宙人は人間と同じようなからだのつくりで特殊な能力によって巨大な巨人を、あやつれるのだろう。公安は傾斜の形を想像しながら、宇宙人との交信を終わらせた。今日の事件は燃えている隕石が薪を直撃して、その衝撃で、引いていた男が荷台にはじき飛ばされて頭を打って気絶してそのまま焼死したみたいだ。