むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所クラスター⑪

2019-07-07 10:28:22 | 小説
 約八年前までは人工知能がそこらじゅうに落ちていた。そして人工知能に感化された阿呆な女が叫んだら、地震になって原発事故が起きる。電力各社は電気代を奪い合う愚かしい人々へ人工知能の供給をやめた。タイトルは賭博場。

 昭和一六年八月未明。西安の国営賭博場で、旗をかかげる高さ一〇mほどの、鉄製ポールの先端で、雑用係の男が、死んでいる事件が起きた。公安(中国の警察)が現場に駆けつけると、ポールの先端に、男がうつぶせの姿勢で突き刺さっている。シャツがめくれて、背なかから突き抜けたポールの先端が見えていて風で左右にゆれていた。公安は死体のイラストを描いて「しかし現場に梯子や足場は、ない」と書き込む。公安が賭博場の店員に事情を聞くと、「旗を新しくつけたのかと思った」と言う。しかし死体は、旗というよりは方位磁石のようにバランスよく突き刺さっている。公安は一昨日から「知能が低くて若さを体感する現象の考察」という論文を書いていた。知能が低くて読み書きもできなくて、若者と同レベルの知能を有している彼や彼女らが、発する地層のずれについてである。公安は知能を向上させる場所として、賭博場は最適だと考えたが、現状は違うらしい。モーターを使った最新のスロットマシンはあるが、台をど突くと勝手にコインが出てくる。トランプゲームのテーブルはあるが、ディーラーが練習不足で客に負けていた。トランプは強いディーラーを相手にして、いかにして勝つか頭を使わないと意味がない。公安は知能が、低い彼や彼女らが地層のずれから、合成するなにかの後遺症を、解毒する労苦を、スロットマシンをど突いている若者に託した。読み書きが、ままならない彼や彼女らが若さを体感してなんになるというのだろう。きっと時空の切れ目を、飛びまわる魚の内臓を羽毛にして、人間の鎖骨をくちばしにしたグロテスクな鳥たちが、人間のことばでもしゃべるに違いない。公安がさっきの店員に、梯子があるか聞くと、「短い梯子しかないよ」と言う。公安が「魚は食べるのか」と聞いたら、「ここは内陸だから手に入らない」と答える。公安が近所の工務店に行って事情を聞くと、店主は「長い梯子を賭博場の人に貸したけど、道にほうり投げてたから回収した」と言う。公安が梯子を借りて、死体をポールから外すと、おなかにからすの巣と、道楽の苦行を結晶化したような卵があった。雑用係はからすの巣を外すために、梯子でポールに登って、強風で梯子が飛ばされてポールに突き刺さり、とおりかかった工務店の店主が梯子を回収したようだ。からすの、神の怒りに、ふれたのだろう。