むらやわたる57さい

千文字小説の未来について

超IQ研究所クラスター㉕

2019-07-21 09:33:09 | 小説
 前後にタグがついて時空をさまよっていたこの短編集にも失敗作はある。タイトルはバルコニー。

 昭和一三年一〇月未明。瀋陽にある六階建てマンションの六階バルコニーで、資産家の女性が、なに者かに首を斬りつけられて死ぬという事件が起きた。被害者の傷は鋭利な刃物じゃなくて、金属片のような物でえぐられるようにできている。その部屋はかぎがかかった密室だったため、公安(中国の警察)はバルコニーや屋上を入念に調べた。死んだ女性は中産階級積み立て拠出金でマンションを一〇軒経営していたが、業務的なことはすべて管理会社に委託していて、動機がありそうな人物はいない。現場のマンションは、小学校のグラウンドに面しているが事件当日学校は休みだった。凶器や事故の原因となる物は現場になくて、公安は死んだ女性が、バルコニーにいた理由がわからなかったので懸賞金をかけて、びらをつくって、目撃者を探す。小学生の娘(被害者幽霊を小学生に変換して対話する特殊能力がある)が「自ぶんの頭で考えなさい。自ぶんの頭で考えなさいっ」と同じことをなんども言っている。公安は死んだ女性がかいま見ていた未来を見た。未来の主役は、近親結婚が飽和して従順でおとなしくて宇宙人のように無表情な若者たちだ。知能が低くて、声にならない声でなんども説明する必要がある。犯罪に染まることなく、大人の食べ物に、手を出さない幸福感に満たされた子供たち。若い彼や彼女らは宇宙人のような声で「どうしてそうなるんですか。それはあなたの場合でしょう」と言う。確かに、役に立つ。競争に勝とうなんて思わないで、ただひたすらに、日々の状況描写に明け暮れて食品会社がつくった人生進行計画を読みほどく。そんな未来の子供たちをよく見ると、小型通信機を持っていて電子パネルに、表示されるパズルゲームに、夢中になっていた。そのゲームでは、放送局の、舞台裏のような雰囲気を間近に体感できて、不特定多数の人々と交流することができるようだ。死んだ女性がそれらの未来と、どうかかわるのかは不明だが、小学生の娘は同じことばばかり叫んでいた。数日後に「その時間帯に凧をあげてた男がいたよ」と言う目撃者が現れる。先物プログラムは死んだ女性が見ていた未来だ。次の日に凧をあげていた男が自首してきた。男があげていた凧は鳥の形をしていて、翼の補強金具がむき出しで、血がついている。公安は男を逮捕した。男は二つの凧を同時にあげて空中でぶつけて、遊んでいたという。死んだ女性はバルコニーで、その危険で古風な遊びをながめていて、飛んできた凧を受けとめようとして首に命中したらしい。