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「合理的な選択」と「正しい選択」の違いは何か・・・
「不確実性下における選択の正しさとはいったい何か」
例えば、患者が手術前に執刀医から説明を受けたとする。
それによれば、手術を受けなければ5年生存する確率は50%、
受ければそれは90%に上がるが、難しい手術なので失敗して死亡する
確立もわずか1%ほどある、とのことである。
このとき、患者の決断はどういうものになるだろうか。
「合理的な選択」、たとえば期待値基準においては手術を選ぶだろう。
しかし、手術を受けてみたら、運悪く失敗して死んでしまったとする。
この場合、この選択は「正しい選択」だったのだろうか。
「選択は正しかったが、運が悪かった」で済ましていいのだろうか。
確かに、事前には「正しい選択」だったのかもしれない。
だが、事後的に見れば「正しい選択」ではなかったはずだ。
それは疑いない。実際死んでしまったのだから。
不確実性下の選択には、「事前」と「事後」における結論(正しさ)
のズレという難しい問題が存在している
事前と事後の亀裂の問題に対して、「頻度」を考えれば「正しい選択」だった、
と指摘する人が結構おられる。
実際100人の同病の患者がいれば、そのうち99人は手術に成功し、
さらにそのうちの89人ほどは5年生存を獲得する。この100人が手術を
受けなければ、5年後に生きている患者はわずか50人にすぎない。
だが、これは手術を「する側」の正しさなのである。
医者の選択の正しさを、5年後生存「人数」で測るならば、手術を説得するのが
正しい選択だといえるかもしれない。
しかし、患者側にとってはそうとはいえない。100人のうち89人が5年
生存しても、それが自分でないなら、そんなことには何の意味もない。
自分は一人しかおらず、今生きるか死ぬかの選択が迫られているのだから。
不確実性下の選択というのは、各自の生きている社会の構造と不可分なのである。