高安ミツ子
見上げる空から
私を包むように
数えきれない雪が
雪が舞い降りてきます
私は日常を越えて
雪景色の奥へと染みこんでいきました
ハイヒールの若やいだ靴音が遠くから蘇り
忙しい時間を両手に抱えて走りまわり
何を追いかけているのか見えなかった日々が
しおりを入れたページのように開きます
ゆっくりと街角を曲がり
見上げた夕焼けの美しさが
私の生きてきた証におもえて
涙がとめどもなくあふれた日も想いだされます
今日の雪は私の人生とまじりあい
私の心をさすってくれているのでしょうか
雪は天からのことづけを伝えるように
懐かしく安らかに舞い
果てのない空へ私を吸い込んでいきます
ヒヨドリが椿の蜜を吸っています
雪に縁どられた椿が赤く咲いて
何処かで行き交ったような恋情が
胸にせまってくる景色です
ひたひたと押し寄せる私の寂寥に
雪は私に舞い下りています
それでも心に積もる雪の美しさを
私はまだ優しく文字に書けるでしょうか
雪は静かに降り積もっています