goo blog サービス終了のお知らせ 

美の五色 bino_gosiki ~ 美しい空間,モノ,コトをリスペクト

展覧会,美術,お寺,行事,遺産,観光スポット 美しい理由を背景,歴史,人間模様からブログします

アメリカ人コレクターの偉業が日本で観れる ~神戸市立博物館 ボストン美術館の至宝展

2017年10月31日 | 美術館・展覧会

神戸市立博物館名物、広いホールの記念撮影コーナー

 

 

神戸市立博物館で「ボストン美術館の至宝展 東西の名品、珠玉のコレクション」が始まった。東京都美術館から巡回してきたもので、神戸展終了後は名古屋ボストン美術館に会場を移す。

 

ボストン美術館所蔵品の展覧会は日本でもよく開催されているが、日本美術や印象派などジャンルを限定したものがほとんどだ。しかしこの展覧会は古今東西の幅広いジャンルの作品で構成されていることが大きな特徴で、古代エジプトから村上隆までというものすごいラインナップである。

 

ボストン美術館は、ニューヨークのメトロポリタン美術館と並んで国や自治体の援助を受けず、市民からの幅広い寄付でコレクションを積み重ねてきたことで知られる。1860年代に南北戦争を終えた後の新興国アメリカの経済成長は目覚ましく、アメリカン・ドリームを実現させた実業家たちは古今東西の美術品を買い集めた。そんな実業家たちが購入した美術品の寄贈を続けたことで、ボストン美術館は少しずつ大きくなっていったのである。

 

今回の展覧会はそうしたアメリカのコレクターが果たした役割を伝えることも主眼に置いている。ウェルドは、日本では知られていないがフェノロサとともに日本で収集旅行をしており、ボストン美術館では「フェノロサ=ウェルド・コレクション」と連名で呼んでいる。釈迦の周りで嘆く仙人たちの表情に実にユーモアがある英一蝶の「涅槃図」、喜多川歌麿の艶めかしい肉筆画「三味線を弾く美人図」が見応えがある。

 

英一蝶「涅槃図」、喜多川歌麿「三味線を弾く美人図」

 

 

 

スポルディング兄弟による浮世絵コレクションの質は世界最高峰と言われるが、ボストン美術館への寄贈の際に公開展示禁止を条件にしたため、展覧会では見ることができない。一方兄弟はフランス絵画の収集でも知られる。この展覧会の目玉作品の一つ、黄色と緑の色使いがとてもゴッホらしい秀作「ルーラン夫人」も兄弟の収集作だ。

 

ゴッホ「子守唄、ゆりかごを揺らす オーギュスティーヌ・ルーラン夫人」

 

 

 

他にも逸品は目白押しだ。古代エジプトの「ツタンカーメン王の頭部」は、確かにかの有名な黄金のマスクに似ている。酒井抱一の若い頃の肉筆浮世絵「花魁図」は着物の柄の描写がとても繊細で抱一らしい。展覧会の順路の最後は村上隆の「If the Double Helix Wakes Up…」が締める。ボストン美術館のコレクションが、日本美術や印象派以外にもいかに幅広く素晴らしいかが本当によくわかる。

 

神戸市立博物館は、この展覧会終了後に2年近くのリニューアル工事休館に入る。この館の目玉所蔵品であるザビエル像を中心とする常設展示が全面刷新される計画で、非常に楽しみだ。次の巡回先の名古屋ボストン美術館は、大変残念だが運営資金の目処が立たず来年2018年10月で閉館となる。フィナーレ展覧会第一弾がこの「ボストン美術館の至宝展」で、フィナーレ第二弾・最終の展覧会が、ボストン美術館所蔵作品の中から幸せをテーマに選りすぐった「ハピネス」となる。

 

偶然だろうが、両館の休館/閉館のフィナーレをこの展覧会が担うことになる。フィナーレにふさわしい質の高い作品を、本家ボストンでもまず実現しないだろう展示構成で鑑賞できる素晴らしい展覧会だ。

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

4年前に一世風靡したボストン美術館の日本美術展の図録、日本にあれば国宝が目白押し。

 

 

神戸市立博物館 ボストン美術館の至宝展

http://boston2017-18.jp/

会期:2017年10月28日(土)~2018年2月4日(日)

原則休館日:月曜

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

毎年秋に“悠久”を感じる奈良の風物詩 ~奈良国立博物館 正倉院展2017

2017年10月29日 | 美術館・展覧会

奈良博の秋の風物詩、正倉院展の特設テント

 

 

今年の秋も奈良に「正倉院展」がやってきた。終戦の翌年に行われた「正倉院御物特別拝観」を第1回と数え、2017年の今年は69回目を迎える。第1回は現代では考えられないほど交通や食糧事情が悪かった時代であったが、現代とほぼ変わりない会期で、現代とあまり変わりない15万人の観客を集めた。まさに敗戦に打ちひしがれた国民に希望を与えた展覧会だった。

 

多種多様な1200年前の美術品が揃う正倉院の宝物から選んだ出展品の今年の見どころは「2D美術」。すなわち平面で表現される、屏風・布・箱の装飾に名品が多いと感じた。

 

「羊木臈纈屛風(ひつじきろうけちのびょうぶ)」は、蝋を塗った布の部分だけを着色させないよう制作された屏風で、ペルシア的な意匠をベースに鹿にも見える羊が表現されている。遠く離れたシルクロードのロマンを感じさせるとても美しいデザインだ。

 

羊木臈纈屛風

 

 

「碧地金銀絵箱(へきじきんぎんえのはこ)」は、献物を入れる箱だ。神秘的な淡青色の下地に、金銀泥(きんぎんでい)で花鳥の文様が描かれている。1,200年前の職人の技術と、1,200年後の今に伝わる強運には脱帽する。

 

碧地金銀絵箱

 

 

「最勝王経帙(さいしょうおうきょうのちつ)」は、複数の経典や絵巻をまとめて包むための布で、大和国の国分寺に納める金光明最勝王経(こんこうみょうきょうさいしょうおうきょう)を包んだものと考えられている。幾何学的なデザインがいかにも天平を感じさせ、繊細に仏をあしらった織り込みは見事だ。

 

最勝王経帙

 

 

他にも、名品が揃っていることは言うまでもない。今年の目玉として読売新聞社によるチラシにも採用されている「緑瑠璃十二曲長坏(みどりるりのじゅうにきょくちょうはい)」は、遠いシルクロードの果てからやって来たと感じさせる緑色のガラス製の盃だ。明らかに中世以前の日本にありえないと感じさせる珍品で、口縁の屈曲のようなデザインが美しい。

 

緑瑠璃十二曲長坏

 

 

正倉院とは、奈良時代には東大寺以外のどの南都の大寺にもあった様々な貴重な品を収める蔵のことだ。東大寺のものだけが奇跡的に現代まで残っており、756(天平勝宝8)年の聖武天皇の四十九日の法要の際に、光明皇太后が聖武天皇遺愛品を東大寺の廬舎那仏(大仏)に奉献したのが始まりだ。献納品の目録は「国家珍宝帳」などが今に伝わっており、1,200年前の朝廷の姿を知る超一級の史料となっている。

,

756年は、イベリア半島に勢力を伸ばしたイスラム勢力がコルドバを都に後ウマイヤ朝を建国した年にあたる。以降700年間、イベリア半島ではイスラム教徒とキリスト教徒の抗争が続くが、一方でイスラム商人と中継するイタリア商人の繁栄が続くことになる。奈良時代は西洋でも日本でも、現代につながる国家や民族意識が成立した時代と言える。

 

1,200年という時間は“悠久”と表現するしかない。そんな“悠久”の時間を見せてくれる展覧会が、毎年開かれることは実に素晴らしい。

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

正倉院展の主催・奈良博と定番パートナー・読売新聞による正倉院の完全ガイド

 

 

奈良国立博物館 正倉院展2017

http://www.narahaku.go.jp/exhibition/2017toku/shosoin/2017shosoin_index.html

http://www.yomiuri.co.jp/shosoin/

会期:2017年10月28日(土)~11月13日(月)

会期中休館日:なし

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

奈良博に興福寺・東大寺と並ぶ美仏の殿堂あり ~奈良国立博物館 なら仏像館

2017年10月28日 | 美術館・展覧会

いかにも博物館らしい西側の旧正面玄関(入口は反対側)

 

 

近鉄奈良駅から奈良公園へ向かうメインルートである広い大通り・登大路(のぼりおおじ)を進み、興福寺を過ぎたところでくぐる地下道から出ると、右手にいかにも博物館らしい建物が見えてくる。1895(明治28)年に開館した奈良国立博物館の旧本館で、現在は常設展会場の「なら仏像館」として使用されている重要文化財だ。

 

なら仏像館には戦前まで、興福寺のような大寺であっても展示収蔵施設が十分でなかったこともあり、興福寺の阿修羅像など著名な仏像が多く展示収蔵されていた。戦後になって大寺が自前の収蔵施設を持つようになり、少しずつ元の居場所へお帰りになっていった。この戦前までの展示室の様子は、なら仏像館内でパネル展示されており、阿修羅像など誰でも知っているような著名な仏像が並ぶ圧巻の様子がわかる。

 

毎年秋の正倉院展は全国から必ず訪れるという方も少なくないが、正倉院展に代表される奈良博の企画展の会場はすべて「新館」と呼ばれる建物なので、「なら仏像館」を観られた方は、もしかしたら多くないかもしれない。しかし観られたことがない方には強くお勧めすする。国立博物館の中でも仏像の展示は秀逸、しかも常設展示であり、美しい仏像にいつでもお会いできる。

 

迫力があるのは大阪・金剛寺から寄託されている国宝「降三世明王(こうさんぜみょうおう)坐像」だ。座像だが高さは2mを超え、どうやってトラックに載せて運ぶのかと不思議になるくらいに大きい。濃紺の肌身と光背で赤く燃え盛る炎とのコントラストが美しく、きらりと光る玉眼の瞳が巨体を引き締めている。現在京博にある大日如来・不動明王と合わせ、金剛寺の金堂に安置されているものだが、金堂や仏像の修理のために奈良博・京博に寄託されている。来年2018年3月には修理が終わった元の居場所の金堂にお戻りになる。奈良博でお会いできるのはあと少しだ。

 

 

降三世明王坐像

 

 

 

重文・兜跋(とばつ)毘沙門天立像は、王城鎮護のために城門に安置される仏像で、平安京の羅城門に安置されていたとされる東寺蔵の国宝がよく知られている。奈良博所蔵の重文像は、平安時代後期に東寺の国宝像を模刻したものの一つと考えられている。西域の国に現れた守護神とされるため、中央アジア人のような面立ちが表現されており、他に並ぶ日本の仏像と比べて異彩を放っている。

 

兜跋毘沙門天立像

 

 

 

奈良博で「名品展」と呼ぶ常設展は、なら仏像館で行われる「珠玉の仏たち」と青銅器館で行われる「中国古代青銅器」の他に、正倉院展のような企画展が行われていない期間に限って、西新館で仏像以外の仏教美術を展示する「珠玉の仏教美術」がある。展示作品のリストは奈良博の公式サイトで公開されているので便利だ、事前に確認されたい。

 

奈良国立博物館 名品展

http://www.narahaku.go.jp/exhibition/usual.html

 

 

 

カフェやミュージアムショップが楽しめる奈良博の地下回廊、夜間開館もおすすめ

 

 

 

近くの興福寺もライトアップされ、夜も観光客が増えている

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

奈良博の果たした役割が大きい廃仏毀釈期の日本人の精神構造に切り込んだ古典的名著

 

 

奈良国立博物館 なら仏像館

http://www.narahaku.go.jp/guide/02.html

原則休館日:月曜

毎週金・土曜とお水取りなど周辺での大規模イベント開催時は夜間開館されます。

※展示作品は、順次展示替えされるものもあります。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

作品の質+建物のぬくもり+美しい森 ~ウッドワン美術館

2017年10月24日 | 美術館・展覧会

美術館公式サイトのトップページ、周辺の大自然との調和が美しい

 

 

ウッドワン美術館は、建材メーカーの株式会社ウッドワン(旧社名:住建産業)が所蔵する美術品を展示する美術館だ。広島市内や宮島からクルマで1時間以上はかかるが、近代日本絵画や世界の陶磁器のコレクションで名高い。わざわざ行く価値のある美術館としてご紹介したい。

 

美術館のある広島県廿日市市吉和(はつかいちし・よしわ)は豊かな森林に恵まれた地域で、株式会社ウッドワンにとって発祥の地であることから美術館を開いたようだ。付近には森の魅力を体験できるスポットが多く設けられており、ゆっくり滞在して多様なリゾートを味わえるようになっている。

 

建材メーカーによる美術館だけあって、建物自体が木の魅力を前面に押し出した造りになっている。壁や柱にはふんだんに木が使われており、展示室内もログハウスのように感じさせる。奥深い山の中にあるだけに、木に囲まれて美術鑑賞すると、木のぬくもりを感じて余計にほっとして落ち着ける。

 

 

美術館の壁の木目調も、緑豊かな周辺の景色に合う

 

館のコレクションとしては、何と言っても近代の日本人画家の作品が充実している。洋画では岸田劉生「麗子像」、黒田清輝「木かげ」、小出楢重「少女お梅の像」など、また日本画では上村松園「雪吹美人図」、速水御舟「晩秋の桜」など興味深い作品が多い。著名な近代日本人画家の作品はほぼもれなく所蔵しており、かつその質は高い。

 

またゴッホ「農婦」、ルノワール「婦人習作&花かごを持つ女」、伝周文「四季山水図(重文)」といった、近代日本人画家以外にもきらりと光る名品を所蔵しており、年4回の展覧会の際に他館所蔵作品で構成する企画展と組み合わせて順に展示されている。

 

 

ウッドワン美術館公式サイト「収蔵品紹介」

プルダウンメニューから画家と作品名を選択すれば閲覧できます。

 

 

 

年4回の展覧会は本館で行われるが、新館では常設展としてマイセン磁器、アール・ヌーヴォーのガラス作品、幕末・明治期の薩摩焼を鑑賞できる。マイセン磁器はシノワズリや古伊万里のデザインを模した作品が美しい。また館内のカフェではアンティークのカップでコーヒーを楽しめる。木のぬくもりに包まれながら美しいカップを手に取って味わうコーヒーは、ここでしか体験できない。

 

カフェ・マイセンの木のぬくもり

 

 

 

日本有数の「行きにくいがすごい美術館」は、作品の質、建物のぬくもり、森の美しさ、3つのバランスが取れており、3つのバランスは他では味わえない。2017/11/17~12/24の冬季展では国宝の彦根屏風とそっくりな逸品が公開される。どんな由来の作品なのか楽しみだ。

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

 

ウッドワン美術館

http://www.woodone-museum.jp/index.html

冬期休館(12月下旬~翌3月上旬)を除く、年4回の展覧会期中のみ開館

展覧会期中は常設展も鑑賞可能

原則休館日:月曜

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

信念を美しく造形した男がやって来た ~豊田市美術館 ジャコメッティ展

2017年10月22日 | 美術館・展覧会

京博・平成知新館を設計した谷口吉生によるエッジの効いた室内デザイン

 

 

豊田市美術館でジャコメッティ展が始まった。東京・国立新美術館からの巡回で国内開催はこれが最後となる。名古屋市内から1時間ほどの距離にあるが、愛知県美術館など名古屋市内の主要美術館と並んで企画展の会場になることが多い見応えのある美術館だ。

 

アルベルト・ジャコメッティ(Alberto Giacometti)は、スイス出身の20世紀を代表する彫刻家の一人で、極端に細長い人物の彫刻で知られる。日本では11年ぶりの回顧展で、全国の美術館の所蔵作品やジャコメッティのコレクションで世界的に著名なマーグ財団の所蔵作品が勢ぞろいする。

 

マーグ財団はヨーロッパ有数の画廊が設立した財団だ。画廊はジャコメッティの作品を多く購入し、ジャコメッティも素描や版画などの作品を財団に寄贈した。つまり両者は熱い友情で結ばれていたのだ。

 

今回の展覧会の目玉作品ともいえる「歩く男I」「大きな女性立像II」「大きな頭部」の3点は、当初ニューヨークのチェース・マンハッタン銀行の広場に設置するモニュメントとして制作された。しかし最終的に設置は実現せず、引き取ったマーグ財団美術館がわざわざ「ジャコメッティの庭」を造って展示しているものだ。

 

「歩く男I」は、高さはほぼ人間と同じだが足がとても長い。頭はとても小さく胴体はとても細いが、極端に体を構成する要素がそぎ落とされているからだろうか、逆に信念の強さがとても感じられる。ジャコメッティの特徴である極端に細長い人物像からおおむね共通して感じられる信念の強さだが、「歩く男I」は最もその強さを感じる。

 

 

マーグ財団美術館の中庭に立つジャコメッティ(歩く男Iも写っている)

 

 

 

「3人の男のグループI(3人の歩く男たちI)」は、背の高さは1mもなくコンパクトな作品だが、複数の人物が互いに違う方向に進むよう造形されている。3人は違う方を向いているのだが、3人が乗っかる台座の上の空間は3人がすれ違う一瞬を絶妙にとらえているようで、不思議にまとまりがある。日常の雑踏の中でそれぞれの道を進んでいこうとする信念の強さを、そのまとまりが、他の細長い人物像とは異なる角度で感じさせている。

 

「犬」も、ボディに肉付きはなくとても細長い。尻尾と頭を垂れて歩いており、とても疲れた老犬のように見える。ジャコメッティは「雨の通りを悲しい気持ちで歩いていた自分を犬のように思い制作した」と語っている。この犬も疲れてはいるが、一生懸命歩こうとしている。胴の長さは1mほどで、実際の犬に近い。この犬からもとてもリアルに信念の強さを感じる。

 

 

ご紹介した作品の画像は、展覧会公式サイト「ジャコメッティの歩んだ奇跡→作品紹介」にて

 

 

 

豊田市美術館は、政令指定都市ではない市区町村が運営する美術館としては有数の規模で、展示室は大きく、室内空間も21世紀モダニズムを感じさせるデザインでかっこいい。ココシュカや岸田劉生の自画像など所蔵作品も質が高いので、ジャコメッティ展と並行して開かれている常設展もぜひ見てほしい。わざわざ訪れる価値がある。

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

ジャコメッティの自叙伝、パリで親交がありモデルとなった作品が今回出展されている哲学者・矢内原伊作が一部を翻訳

 

 

豊田市美術館 ジャコメッティ展

http://www.tbs.co.jp/giacometti2017/

会期:2017年10月14日(土)~2017年12月24日(日)

原則休館日:月曜

※出品作品は、期間中展示替えされるものもあります。

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フランスの地方美術館にはやはり秀作が多い ~名古屋市美術館 ランス美術館展

2017年10月21日 | 美術館・展覧会

入口ゲートがワクワクさせる名古屋市美術館

 

 

名古屋の栄と大須観音の中間、都会のオアシス白川公園の中にある名古屋市美術館で、ランス美術館展が始まった。ランスは、パリの北東のシャンパンの一大産地で、ルイ14世など多くのフランス国王の戴冠式が行われ、ゴシック建築の傑作として世界遺産になっている大聖堂でも知られる歴史のある街だ。

 

ヨーロッパの地方都市には中心となる美術館がほぼ必ずあり、その地方にかかわりのある名士や画家が寄付を続けたことで数万点規模のコレクションがあることは珍しくない。ランス美術館もそんな欧州の地方美術館の代表的な存在で、17世紀から19世紀のフランス絵画が充実している。中でもバルビゾン派のコローのコレクションがよく知られる。

 

今回の展覧会の目玉となっている画家・フジタとも縁の深い街だ。ドイツによるパリ占領を逃れて日本に帰国していた際、多くの戦争画を手掛けたことで戦後に画壇から批判されたことに嫌気がさし、フランスに戻ったフジタはランスの街を愛した。この地に建立されたフジタ礼拝堂のフレスコ画とステンドグラスを手掛け、その礼拝堂の地下にはフジタ夫妻が埋葬されている。

 

フジタ夫人がランス市に寄付した2,000点以上の作品や資料の中から、今回の展覧会に30点ほどがやってくる。ランス時代に描いた聖母の絵は、構図は伝統的な宗教画だが、聖母の乳白色の肌の美しさはまさにフジタ・ワールドだ。まるで聖母子が1920年代の華やかなパリに現れたような驚きを観る者に与える。一方「猫」は、たくさんのネコが思い思いの躍動感のあるポーズで戯れているモチーフを描いたもので、彼が大好きだった猫を晩年の円熟したタッチで表現している。

 

コローの「川辺の木陰で読む女」は、美しく新鮮な光の中に何かをしている人物をおぼろげに描くことで、自然の神秘性を強調する彼らしい表現の秀作だ。一目でコローの作品とわかる。

 

印象派カミーユ・ピサロの「オペラ座通り、テアトル・フランセ広場」は彼の最晩年の作品で、彼独特の明るいタッチでパリの中心街の日常の喧騒を描いている。少し高いところから俯瞰した構図だが、多くの馬車や人が行き交う絵の下部の広場だけが実際よりもさらに高い位置から見たように描かれている。馬車や人をわかりやすく見せることで喧騒を目立たせるように感じられる。どこかアンバランスなのだが、なぜか見入ってしまう作品だ。

 

 

ご紹介した作品画像の一部は展覧会公式サイト「みどころ・作品紹介」にて

 

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

ランスをはじめサン=ドニやパリ、シャルトルなどフランスのゴシック聖堂巡りの決定版

 

 

名古屋市美術館 ランス美術館展

http://www.chunichi.co.jp/event/reims/

会期:2017年10月7日(土)~12月3日(日)

原則休館日:月曜

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

江戸絵画に愛嬌を求めるならこの男 ~愛知県美術館 長沢芦雪展

2017年10月19日 | 美術館・展覧会

とても目立つ柱のトラ(ネコにあらず)

 

 

愛知県美術館で開館25周年記念の長沢芦雪展が始まった。開館20周年記念の際は円山応挙展を行っており、節目の展覧会に2回連続で取り上げるほど、この館の円山一門への思い入れが強いというのは私の考え過ぎだろうか。

 

芦雪の展覧会は、2000年の千葉市美術館と和歌山県立博物館、2011年のMIHO MUSEUM以来で、東京・京都ではまだない。今回の展覧会は名古屋開催のみで、芦雪の代表作が幅広く集められたとても貴重な機会になる。しかも、1か月半ほどの会期中、展示替えはほとんどない。

 

愛知県美術館は全国の主要美術館の中でも展示室がかなり大きい方で、見せる側も見る側も余裕を持った展示演出を楽しむことができる。そうした利点を生かすべく今回の展覧会の目玉となっているのが、芦雪の最も有名な代表作がある南紀・串本の無量寺の襖絵空間の再現だ。

 

寺の本堂の中心にある本尊に向かって左に「虎図襖」、右に「龍図襖」を実物大で配し、それぞれの襖の裏、すなわち隣の部屋にも「薔薇に鶏・猫図」「唐子遊図」を配している。高さ的にも、立って観る場合の眼の高さが、座敷に座って観る場合の眼の高さと同じになるよう計算されている。襖絵の裾には畳が置かれ、絵と鑑賞者を隔てるガラスもない。よく見えるよう光をあてることができない本物の本堂よりも、はるかに見やすく鑑賞できる。

 

3つの部屋の襖絵空間は、京都の有力寺院の襖絵空間とはかなり趣が異なる。京都の有力寺院は訪問者が武家・公家・町衆といった上流階級であり、モチーフや表現に気さくさはなく、凛としているものが多い。一方無量寺は、地方にあって訪問者に中国思想や茶道にうるさい上流階級は少なかったと想像できる。芦雪はそうした観る者の違いにも配慮したのだろう。モチーフや表現がとても気さくで、堅苦しい教養の有無とは無関係に誰でも見入ってしまうよう表現されている。みなさんはどのようにお感じになるか、ぜひゆっくり時間をかけて見ていただきたい。

 

「虎図襖」は、芦雪の作品で最も著名であり、日本画で描かれた虎の中でも最大サイズでもある。襖3面をすべて使って描かれているので大きさも想像できよう。一方この虎の表情は実に愛嬌がある。とても「もふもふ」していて、私の場合、虎というよりも巨大な猫に見えて仕方がない。

 

若冲コレクションで今やすっかり日本で知られるようになったジョー・プライス氏も、この「虎図襖」を「世界一の絵」と呼ぶほどお気に入りだそうだ。今回の展覧会では、順路の最後を氏所蔵の「白象黒牛図屏風」が締める。巨大な黒牛と白象を左右に屏風に収まり切れないほどに描いた大作で、若冲が白象や様々な動物をモザイク状に描いた「鳥獣花木図屏風」と並び称される氏所蔵の傑作だ。白象の背中には黒い鳥、這いつくばる黒牛の腹には白い子犬がとても小さく描かれており、なぜこんなに小さいワンポイントを描いたのか、様々な説を考えていると楽しくなる。

 

他にも「猿」「子犬」「子供」といった芦雪らしいモチーフを、芦雪らしい大胆な構図で表現した力作が目白押しで、とても見応えがある。芦雪の死後に描かれた肖像画も千葉市美術館から出展されており、人柄をしのぶよい機会となる。

 

ご紹介した作品画像は展覧会公式サイト「みどころ」でご覧になれます

 

 

芦雪が無量寺を訪れた1786年の数年後、江戸では喜多川歌麿のフルカラーの美人画が大ブームとなる。遊女ばかりにとどまらず、茶屋(=カフェ)の看板娘が今でいう「読者モデル」となり、男は素顔を一目見に、女はファッションを真似しようと、茶屋に大挙おしかけたという。

 

フランスのように流派として画壇の覇権を争ったわけではなく、需要に応じて自然発生的に様々な画風が育っていったのが江戸時代だ。実に多様で奥深い時代だった。

 

 

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

2017年7月、ビジュアル解説が丁寧な新潮社「とんぼの本」シリーズに芦雪が登場

 

 

愛知県美術館 長沢芦雪展

http://www-art.aac.pref.aichi.jp/exhibition/index.html

http://www.chunichi.co.jp/event/rosetsu/

会期:2017年10月6日(金)~11月19日(日)

原則休館日:月曜

※出品作品は、期間中展示替えされるものもあります。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

幽玄な曜変天目の宇宙が待っている ~京都国立博物館 国宝展Ⅱ期

2017年10月17日 | 美術館・展覧会

京博があるエリアは「大仏」と深い縁がある。

 

 

京都国立博物館「国宝展」のⅡ期目がスタートした。展示作品がすべて国宝という圧巻のスケールを4期に分けて展示する2017年の日本国内開催美術展の横綱だ。ご都合がつく限り、京都まで4回お出かけになる価値はあると思う。

 

そんなビッグイベントであるがゆえにⅠ期目から週末を中心に混雑が目立つので、以下の4点をぜひ事前に知っておいてほしい。

 

1)可能な限り分散訪問を

週末の午前中は1時間ほどの待ち時間が発生しているようだ。平日午後や金・土曜の夜間開館(入場19:30まで)が比較的すいている。

 

2)京博公式Twitterで混雑状況を事前にチェック

リアルタイムに発信しているので、訪問予定の曜日と時間帯の混雑の予想が付きやすい。

京都国立博物館 @kyohaku_gallery

 

3)入場券は事前購入

公式サイトやコンビニで購入できる。チケット売り場と入館の両方での行列を避けるためだ。

 

4)手荷物は駅やホテルで預ける

宿泊先ホテルやJR京都駅や京阪三条駅、阪急河原町駅などで預けられたい。博物館内のコインロッカーはキャパが小さい。

 

 

 

事前に展示替えスケジュールの確認を、公式サイトでPDFをダウンロードできる。

 

 

3Fの「考古」展示室は会期中の展示作品の入れ替えが比較的少ない。「仮面の女神」は八ヶ岳山麓で出土した縄文土器で、逆三角形の頭部と胴体部分の渦上の紋様が幾何学的な印象を与え、神秘的な縄文土偶の中でもことさら強いメッセージを発しているように感じさせる。全期展示なので会期中はいつでも会える。

 

仮面の女神

 

 

2Fの「六道と地獄」展示室では「餓鬼草紙」がⅡ期のみ展示で注目される。現存する東博本・京博本のいずれも出展されており、生前に強欲だった人の生まれ変わりとされる飢えに苦しむ鬼(=餓鬼)の姿を赤裸々に描いている。後白河法皇が建立した蓮華王院(三十三間堂)にあったものと考えられ、平安末期に上流階級の間で流行した輪廻転生(=六道)思想がどのようにイメージされていたかを知ることができる。輪廻転生の思想が現代人にも連綿と受け継がれていることがわかる。

 

餓鬼草紙

 

 

「中国絵画」展示室の「秋景・冬景山水図」は、北宋最高の書画家として知られる皇帝・徽宗(きそう)の筆と伝えられ、風の音を画中に閉じ込めた名作と言われる。余白がとても大きく、中国的な雄大さと奥深さを感じさせる。室町将軍家が所蔵した「東山御物」の一つで、江戸時代初期に徳川家康のブレーンだった金地院崇伝(こんちいんすうでん)の所蔵となった。

 

秋景・冬景山水図

 

 

国宝展Ⅱ期の目玉は「曜変天目」だろう。国内に三椀ある国宝のうち、京都・大徳寺の塔頭・龍光院(りょうこういん)の所蔵作だ。私は静嘉堂文庫・藤田美術館蔵の曜変も観たことがあるが、この龍光院蔵が最も地味に見えた。陽変の特徴である宇宙の星雲のような神秘的な青の輝きが最も弱いのだが、逆に奥深い幽玄さを感じる。作品は展示室の中央にあり、360度見ることができる。混雑しているであろうが、ぜひ一周して観てほしい。器に現れる宇宙が見る角度によって異なり、実に神秘的だ。龍光院からは他に鎌倉・建長寺を開いた蘭溪道隆真筆の「金剛経」と竺仙梵僊筆「墨蹟(諸山疏)」も出展されている。龍光院は観光目的の公開をしない寺院であり、鑑賞できる機会はきわめて少ない。

 

1F「絵巻物」展示室の「絵因果経(上品蓮台寺本)」は、仏教を開いた釈迦の伝記のような経典で、中国で描かれた原本を奈良時代に写したものだ。日本最古の絵巻と言われており、奈良時代の絵画としても1200年以上前の作品だ。中国にはほとんど現存しないことから、その生命力に驚きを隠せない。とても古いものだが発色は非常に美しい。絵はとてもシンプルで、コミカルな印象さえ受ける。同じ展示室にある他の日本の絵巻と比べると、中国との文化の違いを感じて興味深い。

 

絵因果経 上品蓮台寺

 

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

日本にある天目茶碗の流転と美しさを茶道文化の伝道師「淡交社」が解説

 

 

京都国立博物館 開館120周年記念 特別展覧会 国宝

http://www.kyohaku.go.jp/jp/special/index.html

http://kyoto-kokuhou2017.jp/#

会期:Ⅱ期2017年10月17日(火)~10月29日(日)

   Ⅲ期2017年10月31日(火)~11月12日(日)

   Ⅳ期2017年11月14日(火)~11月26日(日)

原則休館日:月曜

※展示作品には展示期間により異なります。事前にご確認ください。

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大正モダニズム空間を今に伝える ~白鶴美術館

2017年10月12日 | 美術館・展覧会

大正モダンの「鶴」の紋様が実に綺麗

 

 

白鶴美術館は、日本有数の酒どころである灘の地で江戸時代から続く酒造メーカー「白鶴酒造」の七代目当主が1934(昭和9)年に開設した美術館だ。同じ灘の地の「菊正宗酒造」は本家筋で、共に嘉納財閥として古くから知られており、講道館柔道の創始者・嘉納治五郎も一族の一人だ。

 

美術館は住吉山手にあり、神戸や大阪の街並みを見下ろす絶景が広がる。阪神間は主に大正時代に高級住宅地として開発が進み、関東大震災後に谷崎潤一郎が東京から移住してきたように、名だたる文化人や財界人がこぞって邸宅を持った。そのため阪神間は現在でも、朝日新聞・村山一族による香雪美術館ほか、日本有数の実業家系美術館の集積地であり、白鶴美術館はその代表格である。

 

 

 

七代目は中国美術を愛した、中国風の意匠がとても美しい

 

 

美術館の本館は築100年近い大正~昭和の阪神間モダニズムの生き証人だ。展示室へ続く渡り廊下からは、積み重ねてきた時間の長さと上質な静けさを同時に感じながら展示室へ向かう。天井と鴨居の間の欄間(らんま)や廊下に置かれた長椅子の意匠がとても気品のある中国テイストで今見てもとても美しい。

 

 

欄間と長椅子

 

 

高い天井と開放感のある窓に囲まれた展示室の雰囲気は戦前とほとんど変わっていないだろう、そう思わせる重厚感がある。格子天井の洗練された天井画も部屋の空気を凛と引き締めている。阪神大震災で趣のあるシャンデアリアは落下倒壊したと聞くが、建物は健在だったようだ。まさに邸宅の気品を今に伝えている。維持管理の努力の賜物だ。

 

開催中の秋季展では、重文・金襴手獅子牡丹唐草文八角大壺(きんらんでししぼたんからくさもんはっかくだいこ)に不思議なオーラを感じる。八角形の面それぞれに赤い大きなベタ色が置かれており、壺の裾には獅子が描かれている。赤ベタだけを見るとさほど気品を感じないのだが、裾の繊細な獅子の絵から見て全体を見渡すとなぜか引き締まって見える。

 

金襴手獅子牡丹唐草文八角大壺

 

期間限定展示(9/20~10/21)の伝周文「四季山水図屏風」も見応えがある。室町時代の水墨画の大家だが、真筆が一点も確認されていないミステリアスな画僧だ。

 

この美術館の目玉作品でもある狩野元信筆「四季花鳥図屏風」は、展覧会期中は常に複製で見ることができる。この複製画もさながらリアルに作られており、充分に見応えがある。 

 

 

四季花鳥図屏風

 

七代目当主嘉納治兵衛は奈良で育ち、若い頃から古美術に親しんでいたようだ。当時の実業家コレクターには蒐集品の公開を嫌う人が多かったが、七代目治兵衛は財団に所有を移して末永く公開保存されることを望んだ先進的な考えの持ち主だった。財団に移したことでコレクター没後に蒐集品が散逸することを回避し、終戦直後の財産税対策で売りに出されることも免れた。

 

実業家系の美術館で、戦前の建物が今も現役で使われていることは珍しい。建物と作品の双方から創始者の美術品への愛情を感じる素晴らしい空間を体験できる。

 

今では建物からは直接見えないが、入口手前の住吉川沿いに流れる道路からは阪神間の海と街と山を見渡す絶景が広がる。帰り道に堪能されることをお忘れなく。 

 

 

 

 

黄色矢印が高さ日本一のビル「あべのハルカス」、借景は生駒山

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

全国の名門一族を紹介、多くの実業家系美術館のルーツを知ることができる

 

 

白鶴美術館 「2017年秋季展 ―寿福の造形・明時代作品を中心に―」(本館)

http://www.hakutsuru-museum.org/exhibition/2017autumn/main.shtml

会期:2017年9月20日(水)~12月10日(日)

原則休館日:月曜日

※日本画を中心に展示期間が限られている作品があります。

※毎年3-6月の春季展・9-12月の秋季展中のみ開館

※「新館」は、日本では珍しい絨毯のミュージアム。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「行きにくいがすごい」ウッドワン美術館作品でお勉強 ~京都文化博物館「絵画の愉しみ、画家のたくらみ」展

2017年10月10日 | 美術館・展覧会

れいこがお出迎え。

 

 

京都文化博物館で、近代日本画家のコレクションでは定評のある広島県のウッドワン美術館コレクションによる「絵画の愉しみ、画家のたくらみ」展が始まった。

 

ウッドワン美術館は、建材メーカーのウッドワンが所蔵する美術品を公開しており、幕末明治の薩摩焼・マイセン磁器・アールヌーヴォーのガラス作品のコレクションでも名高い。今回の展覧会は、幅広い近代日本画家のコレクションを活かし、同じ主題やモチーフの絵を見比べることによって、画家の個性や作品に込めた思いを愉しめるよう構成されている。「見比べる」という提案がとても面白い。

 

ウッドワン美術館の目玉作品である岸田劉生の「(毛糸肩掛せる)麗子」も来ている。重要文化財の東京国立博物館蔵「麗子(微笑)」よりも1年早い作品で、笑ってはいないが無垢のない幼子の眼が一点を見つめている構図がすがすがしい。東博「麗子」の、幼子というよりも仏像に見えるような悟りを開いた微笑の表情とは対照的で、我が子の成長への思いを絵に込めた岸田劉生が偲ばれる。

 

おかっぱの「れいこ」は会場のところどころでキャラクターとなって様々な案内を行っている。なお名前が「れいこ」の方は、チケット売り場で身分証明書を見せれば子供料金に割引になる。粋な計らいだ。

 

東京国立博物館蔵「麗子(微笑)」

 

ウッドワン美術館公式サイト「収蔵品紹介」

プルダウンメニューから画家と作品名を選択し所蔵作品を閲覧できます。

 

 

28歳で早世した伝説の洋画家、青木繁の「漁夫晩帰」は秀作だ。一日の仕事を終えて帰る漁師たちの一瞬の疲れた表情が大画面いっぱいに描かれている。ロマン主義画家と言われるように、タッチにはとても迫力がある。彼の代表作、ブリヂストン美術館蔵「海の幸」と見比べるよう展示されている。

 

ブリヂストン美術館「海の幸」

 

 

会場の最後には、ウッドワン美術館が持つ古典作品の逸品である重要文化財・伝周文「四季山水図」が六曲一双(六つ折の屏風が左右ペア)サイズで強烈な存在感を示している。周文(しゅうぶん)は相国寺の画僧で室町時代を代表する画家、雪舟の師としても知られる。彼の作品は真筆として一点も認定されていないにもかかわらず、伝(でん)周文=周文の作品と昔から言われている作品が、国宝にも2点指定されている。中国で仙人がいる霊峰の四季の移ろいを表現した圧巻の作品、空間の使い方がとても見事なので少し離れて見ることもおすすめする。

 

※四季山水図の展示は10/3~11/5まで、11/7以降は横山大観「霊峰不二」に入替予定

 

 

 

森に囲まれたリゾート地にウッドワン美術館はある

 

ウッドワン美術館には、近代の日本画家のコレクションはもとより、きらりと光る逸品も多い。2017/11/17~12/24には国宝の彦根屏風とそっくりな逸品が公開される。江戸時代初期の風俗画ファンには見逃せないだろう。日本でもトップクラスの「行きにくいがすごい美術館」だ。

 

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

ウッドワン美術館所蔵の近代日本人画家のコレクション図録

 

 

京都文化博物館「ウッドワン美術館コレクション 絵画の愉しみ、画家のたくらみ -日本近代絵画との出会い-」

http://www.bunpaku.or.jp/exhi_special_post/woodone/

会期:2017年10月3日(火)~12月3日(日)

原則休館日:月曜

※会期中に一点展示品の入れ替えがあります。

 

ウッドワン美術館

http://www.woodone-museum.jp/index.html

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

世界一有名なGreat Waveを極める ~あべのハルカス美術館「北斎」展

2017年10月08日 | 美術館・展覧会

Great Waveが鑑賞者を出迎える

 

 

2017年秋のトップクラスの展覧会は東京巡回がなく関西限定が多い。そんな超目玉の一つ、あべのハルカス美術館で「北斎 -富士を超えて-」が始まった。

 

この展覧会は、ロンドンと大阪の2か所のみ開催、大英博物館から巡回されてきたものだ。葛飾北斎は日本の画家としては世界では最も有名だ。代表作の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」は「The Great Wave」として世界で最も有名な絵画作品の一つである。グローバルでは、雪舟でも狩野派でも琳派でも歌麿でもなく、北斎なのだ。

 

展覧会のサブ・タイトルはイギリス展では「beyond the great wave(大波を超えて)」だが、日本展では「富士を超えて」になっている。日欧の関心の違いを見事にとらえたコピーの使い分けだ。

 

出品作は、大英博物館だけでなく世界中の一級の美術館やコレクションから集められている。メトロポリタン美術館、ボストン美術館、ギメ東洋美術館、V&A美術館、氏家コレクション、太田記念美術館、東博、小布施に残る逸品たち、世界中からこれだけの協力を得られる展覧会は稀有だ。これだけ世界の逸品が揃って鑑賞できる機会はまずないだろう。

 

展覧の構成は、欧米人が好む画家や作品の「背景や思い」を軸に従来の展覧会と差別化しようとしていることが目を引く。日本で一般的な、シンプルな画家の時系列的な順の展示構成ではない。

 

「芥子」は、北斎画ではあまり目にしたことがない。植物だけをモチーフにしている。動きがない植物を、満開に向かって生き生きと躍動している瞬間をとらえている。背景の水色と花びらのピンクの対比がとても美しい。

 

「芥子」大英博物館

 

 

北斎晩年の最高傑作として「濤図」が会場にお披露目している。小布施の祭屋台の天井絵として描かれたもので、タイトルのように波だけがモチーフだ。渦巻のように中心に向かう波のしぶきの先端を、開いた手が何かをつかもうとしているように描いた、北斎ならではの表現だ。北斎当人がどのような思いで描いたのかは今となっては知るべくもないが、「神奈川沖浪裏」のGreat Waveをさらに極めた彼の集大成のように見える。「濤図」はこの展覧会の最大の目玉だと私は思う。

 

上町祭屋台天井絵「濤図」

 

 

あべのハルカスは、東京駅近くに三菱地所が建設予定のビルができるまでは、東京スカイツリーのような塔を除くビルでは高さ300mで日本一だ。展望台からは天気が良ければ大阪や神戸の街並みはもちろん、明石海峡大橋までも一望できる。展望台のカフェではここしかない優雅な時間を過ごせる。

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

浮世絵研究の第一人者・ハルカス美術館長が名画を切る

北斎の富嶽三十六景も切られる

 

 

あべのハルカス美術館 「大英博物館 国際共同プロジェクト 北斎 -富士を超えて-」展

http://hokusai2017.com/

会期:前期 2017年10月6日(金)~10月29日(日)

   後期 11月1日(水)~11月19日(日)

原則休館日:月曜

※出品作品は、期間中に展示替えされる場合があります。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本一「行きにくいがすごい美術館」の集大成 ~MIHO MUSEUM「桃源郷はここ」展

2017年10月07日 | 美術館・展覧会

トンネルを抜けると美の殿堂がある

 

 

MIHO MUSEUMは滋賀県の山の中にある。京都駅からJRで15分の石山駅で路線バスに乗り換え50分揺られる。クルマでも高速を使って京都市内からは1時間以上かかる。大阪からだと京都からに加えてさらに30分以上かかる。正直とても行きにくいのだが、展示作品の質には目を見張るものがある。なので何度も訪れる。行きにくいがすごい美術館として東京で例えると、MOA美術館が近いだろうが、こちらは熱海駅からバスで10分もかからない。

 

そんなMIHO MUSEUMで、開館20周年記念特別展「桃源郷はここ -I.M.ペイとMIHO MUSEUMの軌跡」が始まった。MIHO MUSEUMが持つ日本とアジア・オリエントの逸品が勢ぞろいする。I.M.ペイとはこの美術館の設計者で、ルーブル美術館のガラスのピラミッドの設計者としても世界的に著名だ。館の敷地・建物全体が桃源郷を思わせるように実にスリリングにできている。

 

レセプション棟でチケットを買うと、美術館棟までは歩いて7-8分ほどの距離がある。無料の電動カートによる送迎もあるが、歩くのがおすすめだ。四季おりおりの木々や花の色が美しい沿道を進み、天井の高いトンネルを抜けると、美しい美術館棟と、桃源郷のような山並みの絶景が目に飛び込んでくる。トンネルが絶妙に来訪者のワクワク感を高める演出をしている。美術館棟の中身もその期待にしっかり応えてくれる。

 

美術館棟に入って左手の南館は、中国・インド・西アジア・エジプトとギリシャ・ローマの常設展示エリアだ。エジプトの顔が鳥の「隼頭神(じゅんとうしん)像」は、とても珍しく銀で作られており、絶妙の神秘的な輝きを発している。「仏立像」は2.5mあり、ガンダーラ仏としては世界最大級の大きさだ。目鼻立ちが非常にはっきりしており、包容力と威厳を併せ持つ奥行きのある表情になっている。

 

隼頭神像

仏立像

 

 

普段は企画展会場として使われる美術館棟に入って右手の北館は、今回は日本美術の会場になっている。会期の前半は主に開館以降20年間に集めたコレクションを主に展示している。

 

持国天(じこくてん)立像は、鎌倉リアリズム独特の躍動感あふれたポーズが見事だ。興福寺に伝来したもので、四天王の他の三体は奈良国立博物館にある。一体しかないのに、とても存在感がある。憤怒の表情のダイナミックさや踏みつけた邪鬼の肉体美が美しい。

 

持国天立像

 

 

室町時代以来、中国から伝わった唐物(からもの)の最高峰として武将たちが最も欲しがった耀変天目(ようへんてんもく)がここにある。加賀藩前田家伝来のもので、国宝の三椀(静嘉堂文庫美術館・藤田美術館・大徳寺龍光院)に次ぐ名椀として知られる。光の当て方によって宇宙の星雲のように色とりどりの神秘的な輝きを見せる「耀変」がよくわかる。国宝三椀のように内部の斑点が互いに混じり合ったように見えるのに対し、ここの椀は斑点が独立しているのが特徴だ。重要文化財。

 

耀変天目

 

 

伊藤若冲の「象と鯨図屏風」は、昨今の若冲ブームでとても有名になった作品だが、愛くるしい象の表情はやはり“記憶に残る”。江戸幕府に献上するため長崎から江戸へ向かう象が、天皇にも披露するために京都に立ち寄っていたため、その際に若冲が本物の象を見て描いたのではと考えられている。鯨の黒と象の白の対比も意味深だ。「涅槃を意味している」という説があるようだが、自分なりに考えると面白い。

 

象と鯨図屏風

 

 

会期後半は20年前の開館時点でのコレクションを主に展示する。行きにくいが、前半・後半の2回、わざわざ訪れる価値は充分ある。2017年5月にはルイ・ヴィトンがファッションショーの会場に使っている。この館のセンスのよさは海外でもよく知られている。「行きにくいがすごい美術館」の日本一だ。

 

 

 

美術館棟のエントランスホールはとても雄大で明るく、

桃源郷に来たことを来訪者に感じさせる。

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

フランス人の視点はとても興味深い、もちろんMIHOも紹介されている

 

 

MIHO MUSEUM 「桃源郷はここ」展

http://www.miho.or.jp/exhibition/20th/

会期:前半(1,2期)2017年9月16日(土)~10月29日(日)

   後半(3,4期)2017年10月31日(火)~12月17日(日)

原則休館日:月曜

※展示作品には展示期間が限られているものがあります。事前にご確認ください。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2017展覧会の横綱が京都で始まる ~京都国立博物館 国宝展Ⅰ期

2017年10月05日 | 美術館・展覧会

 

国宝展。始まりはまだ静かな東山七条の入口

 

 

2017年の日本国内開催美術展の横綱、「京都国立博物館 開館120周年記念 特別展覧会 国宝」が始まった。2017年時点での美術工芸品(建築物は含まず)の国宝858件の1/4にあたる約200件が終結するという膨大な規模の展覧会だ。約2か月の会期を4期に分け、長期展示に耐えない作品を工夫して入れ替えながら、圧巻の演出を見せてくれる。

 

会場が東京ではなく京都だからであろうか、明治までは京都にあった逸品が「京都に里帰りすることになる」という大義名分が、門外不出の作品を京都に集めた原動力になったことは想像に値する。日本絵画の代表作として誰でも一度は見たことがある東京・根津美術館蔵の尾形光琳「燕子花(かきつばた)図屏風」は西本願寺、東京国立博物館蔵の雪舟「秋冬山水図」は曼殊院に、それぞれ伝来したものだ。

 

作品はジャンルと時代に応じた展示室をあてがわれている。順路の最初に観るのは3Fの書跡、Ⅰ期では日本の古典の代表作「古今和歌集」や「土佐日記」が美しい仮名文字で綴られているのを鑑賞できる。流れるような文字で正直ほとんど読めず、意味も分からない。しかし全くゆがみのない真っ直ぐな縦書きの文字で行間は完璧に揃っており、手書きでここまで綺麗にかける現代人はまずいないと思わせる。文字による記録というよりデザインの絶品と言える。

 

2Fの順路の最初は仏画、Ⅰ期では薬師寺「吉祥天像」が鑑賞者を出迎える。聖武天皇妃の光明皇后がモデルと言われ、ふくよかで包容力のある天平美人の傑作だ。

 

吉祥天像

 

 

続いてⅠ期の最大の目玉、The Sesshu Roomだ。室町時代に活躍した雪舟は、日本の芸術家では最多の6点の国宝を生み出し、安土桃山時代以降の狩野派を中心に権力者が贔屓にした絵師に与えた影響ははかりしれない。Ⅰ期ではその6点すべてが同じ部屋に揃う。中でも個人蔵「山水図」はほとんど公に鑑賞できる機会がない。雪舟の絶筆とされ、深みのある松の表現が円熟を感じさせる。部屋の入口にある案内ボードにも「雪舟に酔いしれる」とコピーが綴られている。近い将来、6点揃って鑑賞できる機会はまずないだろう。

 

隣室は近世絵画、Ⅰ期では狩野秀頼「高雄楓観(たかおかんおう)図屏風」を見てほしい。織田信長が天下布武の道を駆け上った永禄年間の作品と考えられ、永らくの戦乱から解放されつつあった京都の人々が紅葉の名所・高雄の秋のひと時を描いたものだ。近世の街の営みを描いた風俗画の最初期の作品であり、洛中洛外図や彦根屏風と並んで、人々の様子の描写がとてもリアルで美しい。

 

高雄楓観図屏風

 

 

中国絵画のⅠ期では、李迪「紅白芙蓉(ふよう)図」が目を引く。朝から夕方までの間に紅色に染め花を落とす芙蓉の花を、絶妙のはかなさで表現している。日本的な茶の湯の美意識にも合う。

 

紅白芙蓉図

 

 

1Fに下りると陶磁に続いて絵巻物、日本の絵巻物の最高峰の一つ「信貴山縁起絵巻」と並んで、Ⅰ期では「粉河寺(こかわでら)縁起絵巻」が見応えがある。豊臣秀吉の根来寺焼き討ちの際に近くにあっため罹災したと考えられ、全巻にわたって甚だしい焼損が見られる。それがかえって歴史の重みと作品の強運を感じさせる。焼け残った合間だけはとても保存状態がよく、千手観音に帰依する民衆の姿がリアルに確認できる。

 

粉河寺縁起絵巻

 

 

最後の部屋では、歴史的に中国と日本の間の貿易で栄えてきた琉球に伝わる中国皇帝から下賜された国王の正装が日本にはない色遣いでとても魅力的だ。王冠に整然と並べられた色とりどりの玉のデザインには、やさしさと温かみを感じる。中国的だが東南アジア的にも見える美しさがある。琉球国王の尚家が残した逸品が展覧会を引き締めている。

 

琉球国王尚家関係資料(龍瑞雲嶮山文様繻珍唐衣裳

琉球国王尚家関係資料(玉冠

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

編集は京博が全面協力、前展示リスト付きで訪問前の予習の決定版

 

 

京都国立博物館 開館120周年記念 特別展覧会 国宝

http://www.kyohaku.go.jp/jp/special/index.html

http://kyoto-kokuhou2017.jp/#

会期:Ⅰ期2017年10月3日(火)~10月15日(日)

   Ⅱ期2017年10月17日(火)~10月29日(日)

   Ⅲ期2017年10月31日(火)~11月12日(日)

   Ⅳ期2017年11月14日(火)~11月26日(日)

原則休館日:月曜

※展示作品には展示期間により異なります。事前にご確認ください。

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロシアで大切に受け継がれてきた絵画が日本でプレゼン ~兵庫県立美術館 大エルミタージュ美術館展

2017年10月03日 | 美術館・展覧会

赤い絨毯が似合う展覧会

 

 

兵庫県立美術館で「大エルミタージュ美術館展」が始まった。2017年3月の東京・森アーツセンターギャラリー、7月の愛知県美術館から巡回してきたもので、絵画だけでも17,000点を所蔵する世界最大級のコレクションの中から選りすぐった85点で展覧会が構成されている。さすがにコレクションの幅は広く、バロック・ロココ時代を中心に西洋絵画のオールドマスターを国別に体系立ててわかりやすく楽しめるようになっている。

 

入口では、エルミタージュ美術館の創設者とも言える女帝エカテリーナ2世の1762年の戴冠式の衣装の肖像画が出迎えてくれる。この絵だけ11/2まで平日限定で営利目的を除いた写真撮影OKだ。最近は期間限定や平日のみ写真撮影OKの展覧会も増えている。

 

美術館での作品の写真撮影は、著作権だけでなく鑑賞環境維持も大きな壁となる。多くのスマホはシャッターを押した時に自動で音が出る、オート撮影モードだと無意識にフラッシュがたかれてしまうことがある、のが厄介だ。鑑賞者自身がマナーを考え、よりよい方向に進むことを願ってやまない。

 

イタリアの部屋では、カナレットの写真のようなベネチアの風景画が目を楽しませてくれる。また日本での知名度はあまり高くないが、18世紀のローマで新古典主義の先駆けとなる画風で売れっ子だったポンペオ・ジローラモ・バトーニの「聖家族」も美しい。聖母マリアの肌は白く輝き、どこまでも理想的な母と子の様子に仕立てている。

 

ポンペオ・ジローラモ・バトーニ「聖家族」

 

 

オランダの部屋では、17世紀のバブル絶頂期のオランダ絵画の代表であるハルスの肖像画やレンブラントの独特の光と影の絵が揃っている。市民の生活の様子を描くのが上手なピーテル・デ・ホーホの「女主人とバケツを持つ女中」は構図が面白い。女中が女主人に買ってきた魚を見せているのだが、どのような意味を込めたのだろうか。背景のオランダの街並みものどかで美しい。

 

私が最も長時間いたのはスペインの部屋だ。まずスルバランの「聖母マリアの少女時代」に見とれた。彼の絵は、聖人を理想化せずに普通の人のように描くのだが、厳格な静粛さが特徴的だ。とても神秘的に光と影を駆使するので、同じく光と影が特徴的なカラバッジョやジョルジュ・ラトゥールとは異なる、中世のような絶対的な宗教感を醸し出している。聖母マリアもどこにでもいるような普通の少女のように描かれているが、その目はとても素朴でけがれがない。

 

スルバラン「聖母マリアの少女時代」

 

 

同じ部屋には、セビリアでスルバランから人気を奪ったムリーリョの愛くるしい天使やマリアの絵もある。ムリーリョ独特の“プヨプヨの毛の羊”も見ることができる。ムリーリョの絵にも強い宗教観を感じるが、両者の表現の違いを見比べてほしい。

 

ティツィアーノ、クラナハ、ヴァン・ダイク、シャルダン、フラゴナールといった各時代・各国の主要画家の特徴的な作品も揃っている。西洋絵画のオールドマスターを俯瞰するには最適の展覧会だ。

 

エカテリーナ2世は、ポーランド分割を行うとともにトルコとの戦争に勝ってウクライナを獲得するなどロシアの領土を広げた皇帝として知られる。伊勢の船頭でアリューシャン列島に漂着し、サンクト・ペテルブルクまでやってきた大黒屋光太夫に帰国を許可したのも彼女で、光太夫はラクスマンに伴われて根室に向かい1793年に帰国を果たした。日本とも不思議な縁で結ばれている皇帝だ。

 

 

巨大なカエルが出迎えてくれる

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

 

 

「怖い絵」の著者・中野京子によるエカテリーナ2世ほかロマノフ王朝の物語、オールカラーで読みやすい。

 

 

 

兵庫県立美術館

大エルミタージュ美術館展 ~オールドマスター 西洋絵画の巨匠たち

http://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/t_1710/index.html

会期:2017年10月3日(火)~2018年1月14日(日)

原則休館日:月曜日

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イセと安宅、気品あふれる中国陶磁が大阪に勢ぞろい ~東洋陶磁美術館「イセコレクション展」

2017年09月23日 | 美術館・展覧会

日本での開催は東洋陶磁だけ

 

大阪・中之島の東洋陶磁美術館で「イセコレクション-世界を魅了した中国陶磁」が始まった。

 

イセコレクションは、日本やアメリカ合衆国で鶏卵製造のトップ企業「イセ食品」のオーナー経営者・伊勢彦信氏が、19世紀のフランス絵画、琳派、陶磁器など幅広く集めたもので、世界的にもよく知られている。

 

この展覧会は数ある氏のコレクションの中から中国陶磁にスポットをあて、フランスと日本を巡回して行われる。フランス会場はパリのギメ東洋美術館、日本人には知名度は高くないが、ルーブル美術館の東洋美術部門の分館の役割を持ち、日本を含めたアジア美術の美術館としては世界的に著名だ。

 

ギメ美術館では「日本人の美意識によって選び抜かれた中国陶磁」と紹介されており、イセコレクションが確かな目で愛情を注いで収集した「唐物」の逸品が勢ぞろいした。フランス展終了後の日本展は東京では行われず、大阪だけの開催だ。

 

会場となる大阪市立東洋陶磁美術館は安宅コレクションが母体となっており、世界トップクラスの中国・韓国陶磁器のコレクションを誇る。館による中国陶磁への愛情が日本展の会場として選ばれたのであろう。イセコレクション展と同時に平常展も見ることができるため、遠方からでもわざわざ足を運ぶ価値がある。

 

 

東洋陶磁美術館のある大阪・中之島は、水辺の都市空間が美しい

 

 

展覧会チラシに採用されている「粉彩花樹文瓶(ふんさいかじゅもんへい)」は、清朝最盛期の雍正帝の治世の景徳鎮窯の作品。細く引き締まった瓶の頭部が実にスタイリッシュで、かすかにグレーがかった地肌の白色が、描かれた紅白の花を引き立たせている。

 

他にも名品が多い。一時期安宅コレクションだった重文「飛青磁瓶(とびせいじへい)」は、静かで落ち着いた青磁の地肌に鉄分の斑点が散るデザイン。東洋陶磁美術館が誇る国宝「飛青磁花生(はないけ)」に引けを取らない気品のある存在感を示している。黄色が特徴的な「黄釉輪花盤(おうゆうりんかばん)」も実に上品だ。中国皇帝の象徴的な色である黄色を清楚で落ち着いた色合いに焼き上げている。

 

イセコレクション展期間中の平常展では、東洋陶磁美術館が誇る二つの至宝「油滴天目茶碗」「飛青磁花生」のどちらか片方だけが展示される。ほぼ開催時期が重なる京都国立博物館の「国宝展」に入れ替わり貸し出されるためである。

 

ハルカス美術館の「北斎展」も大阪だけの開催、2017年の秋は関西でしか見られない展覧会が目白押しだ。

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

中国の名品はなぜ日本で残され、中国には残っていないのか? 中国の研究者による日中比較文化論は奥深い(小学館)

 

 

大阪市立東洋陶磁美術館 国際巡回企画展「イセコレクション‐世界を魅了した中国陶磁」

http://www.moco.or.jp/exhibition/current/?e=428

会期:2017年9月23日(土)~12月3日(日)

原則休館日:月曜

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする