入口ゲートがワクワクさせる名古屋市美術館
名古屋の栄と大須観音の中間、都会のオアシス白川公園の中にある名古屋市美術館で、ランス美術館展が始まった。ランスは、パリの北東のシャンパンの一大産地で、ルイ14世など多くのフランス国王の戴冠式が行われ、ゴシック建築の傑作として世界遺産になっている大聖堂でも知られる歴史のある街だ。
ヨーロッパの地方都市には中心となる美術館がほぼ必ずあり、その地方にかかわりのある名士や画家が寄付を続けたことで数万点規模のコレクションがあることは珍しくない。ランス美術館もそんな欧州の地方美術館の代表的な存在で、17世紀から19世紀のフランス絵画が充実している。中でもバルビゾン派のコローのコレクションがよく知られる。
今回の展覧会の目玉となっている画家・フジタとも縁の深い街だ。ドイツによるパリ占領を逃れて日本に帰国していた際、多くの戦争画を手掛けたことで戦後に画壇から批判されたことに嫌気がさし、フランスに戻ったフジタはランスの街を愛した。この地に建立されたフジタ礼拝堂のフレスコ画とステンドグラスを手掛け、その礼拝堂の地下にはフジタ夫妻が埋葬されている。
フジタ夫人がランス市に寄付した2,000点以上の作品や資料の中から、今回の展覧会に30点ほどがやってくる。ランス時代に描いた聖母の絵は、構図は伝統的な宗教画だが、聖母の乳白色の肌の美しさはまさにフジタ・ワールドだ。まるで聖母子が1920年代の華やかなパリに現れたような驚きを観る者に与える。一方「猫」は、たくさんのネコが思い思いの躍動感のあるポーズで戯れているモチーフを描いたもので、彼が大好きだった猫を晩年の円熟したタッチで表現している。
コローの「川辺の木陰で読む女」は、美しく新鮮な光の中に何かをしている人物をおぼろげに描くことで、自然の神秘性を強調する彼らしい表現の秀作だ。一目でコローの作品とわかる。
印象派カミーユ・ピサロの「オペラ座通り、テアトル・フランセ広場」は彼の最晩年の作品で、彼独特の明るいタッチでパリの中心街の日常の喧騒を描いている。少し高いところから俯瞰した構図だが、多くの馬車や人が行き交う絵の下部の広場だけが実際よりもさらに高い位置から見たように描かれている。馬車や人をわかりやすく見せることで喧騒を目立たせるように感じられる。どこかアンバランスなのだが、なぜか見入ってしまう作品だ。
ご紹介した作品画像の一部は展覧会公式サイト「みどころ・作品紹介」にて
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ランスをはじめサン=ドニやパリ、シャルトルなどフランスのゴシック聖堂巡りの決定版
名古屋市美術館 ランス美術館展
http://www.chunichi.co.jp/event/reims/
会期:2017年10月7日(土)~12月3日(日)
原則休館日:月曜