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信念を美しく造形した男がやって来た ~豊田市美術館 ジャコメッティ展

2017年10月22日 | 美術館・展覧会

京博・平成知新館を設計した谷口吉生によるエッジの効いた室内デザイン

 

 

豊田市美術館でジャコメッティ展が始まった。東京・国立新美術館からの巡回で国内開催はこれが最後となる。名古屋市内から1時間ほどの距離にあるが、愛知県美術館など名古屋市内の主要美術館と並んで企画展の会場になることが多い見応えのある美術館だ。

 

アルベルト・ジャコメッティ(Alberto Giacometti)は、スイス出身の20世紀を代表する彫刻家の一人で、極端に細長い人物の彫刻で知られる。日本では11年ぶりの回顧展で、全国の美術館の所蔵作品やジャコメッティのコレクションで世界的に著名なマーグ財団の所蔵作品が勢ぞろいする。

 

マーグ財団はヨーロッパ有数の画廊が設立した財団だ。画廊はジャコメッティの作品を多く購入し、ジャコメッティも素描や版画などの作品を財団に寄贈した。つまり両者は熱い友情で結ばれていたのだ。

 

今回の展覧会の目玉作品ともいえる「歩く男I」「大きな女性立像II」「大きな頭部」の3点は、当初ニューヨークのチェース・マンハッタン銀行の広場に設置するモニュメントとして制作された。しかし最終的に設置は実現せず、引き取ったマーグ財団美術館がわざわざ「ジャコメッティの庭」を造って展示しているものだ。

 

「歩く男I」は、高さはほぼ人間と同じだが足がとても長い。頭はとても小さく胴体はとても細いが、極端に体を構成する要素がそぎ落とされているからだろうか、逆に信念の強さがとても感じられる。ジャコメッティの特徴である極端に細長い人物像からおおむね共通して感じられる信念の強さだが、「歩く男I」は最もその強さを感じる。

 

 

マーグ財団美術館の中庭に立つジャコメッティ(歩く男Iも写っている)

 

 

 

「3人の男のグループI(3人の歩く男たちI)」は、背の高さは1mもなくコンパクトな作品だが、複数の人物が互いに違う方向に進むよう造形されている。3人は違う方を向いているのだが、3人が乗っかる台座の上の空間は3人がすれ違う一瞬を絶妙にとらえているようで、不思議にまとまりがある。日常の雑踏の中でそれぞれの道を進んでいこうとする信念の強さを、そのまとまりが、他の細長い人物像とは異なる角度で感じさせている。

 

「犬」も、ボディに肉付きはなくとても細長い。尻尾と頭を垂れて歩いており、とても疲れた老犬のように見える。ジャコメッティは「雨の通りを悲しい気持ちで歩いていた自分を犬のように思い制作した」と語っている。この犬も疲れてはいるが、一生懸命歩こうとしている。胴の長さは1mほどで、実際の犬に近い。この犬からもとてもリアルに信念の強さを感じる。

 

 

ご紹介した作品の画像は、展覧会公式サイト「ジャコメッティの歩んだ奇跡→作品紹介」にて

 

 

 

豊田市美術館は、政令指定都市ではない市区町村が運営する美術館としては有数の規模で、展示室は大きく、室内空間も21世紀モダニズムを感じさせるデザインでかっこいい。ココシュカや岸田劉生の自画像など所蔵作品も質が高いので、ジャコメッティ展と並行して開かれている常設展もぜひ見てほしい。わざわざ訪れる価値がある。

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

ジャコメッティの自叙伝、パリで親交がありモデルとなった作品が今回出展されている哲学者・矢内原伊作が一部を翻訳

 

 

豊田市美術館 ジャコメッティ展

http://www.tbs.co.jp/giacometti2017/

会期:2017年10月14日(土)~2017年12月24日(日)

原則休館日:月曜

※出品作品は、期間中展示替えされるものもあります。

 

 

 

 


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