トンネルを抜けると美の殿堂がある
MIHO MUSEUMは滋賀県の山の中にある。京都駅からJRで15分の石山駅で路線バスに乗り換え50分揺られる。クルマでも高速を使って京都市内からは1時間以上かかる。大阪からだと京都からに加えてさらに30分以上かかる。正直とても行きにくいのだが、展示作品の質には目を見張るものがある。なので何度も訪れる。行きにくいがすごい美術館として東京で例えると、MOA美術館が近いだろうが、こちらは熱海駅からバスで10分もかからない。
そんなMIHO MUSEUMで、開館20周年記念特別展「桃源郷はここ -I.M.ペイとMIHO MUSEUMの軌跡」が始まった。MIHO MUSEUMが持つ日本とアジア・オリエントの逸品が勢ぞろいする。I.M.ペイとはこの美術館の設計者で、ルーブル美術館のガラスのピラミッドの設計者としても世界的に著名だ。館の敷地・建物全体が桃源郷を思わせるように実にスリリングにできている。
レセプション棟でチケットを買うと、美術館棟までは歩いて7-8分ほどの距離がある。無料の電動カートによる送迎もあるが、歩くのがおすすめだ。四季おりおりの木々や花の色が美しい沿道を進み、天井の高いトンネルを抜けると、美しい美術館棟と、桃源郷のような山並みの絶景が目に飛び込んでくる。トンネルが絶妙に来訪者のワクワク感を高める演出をしている。美術館棟の中身もその期待にしっかり応えてくれる。
美術館棟に入って左手の南館は、中国・インド・西アジア・エジプトとギリシャ・ローマの常設展示エリアだ。エジプトの顔が鳥の「隼頭神(じゅんとうしん)像」は、とても珍しく銀で作られており、絶妙の神秘的な輝きを発している。「仏立像」は2.5mあり、ガンダーラ仏としては世界最大級の大きさだ。目鼻立ちが非常にはっきりしており、包容力と威厳を併せ持つ奥行きのある表情になっている。
普段は企画展会場として使われる美術館棟に入って右手の北館は、今回は日本美術の会場になっている。会期の前半は主に開館以降20年間に集めたコレクションを主に展示している。
持国天(じこくてん)立像は、鎌倉リアリズム独特の躍動感あふれたポーズが見事だ。興福寺に伝来したもので、四天王の他の三体は奈良国立博物館にある。一体しかないのに、とても存在感がある。憤怒の表情のダイナミックさや踏みつけた邪鬼の肉体美が美しい。
室町時代以来、中国から伝わった唐物(からもの)の最高峰として武将たちが最も欲しがった耀変天目(ようへんてんもく)がここにある。加賀藩前田家伝来のもので、国宝の三椀(静嘉堂文庫美術館・藤田美術館・大徳寺龍光院)に次ぐ名椀として知られる。光の当て方によって宇宙の星雲のように色とりどりの神秘的な輝きを見せる「耀変」がよくわかる。国宝三椀のように内部の斑点が互いに混じり合ったように見えるのに対し、ここの椀は斑点が独立しているのが特徴だ。重要文化財。
伊藤若冲の「象と鯨図屏風」は、昨今の若冲ブームでとても有名になった作品だが、愛くるしい象の表情はやはり“記憶に残る”。江戸幕府に献上するため長崎から江戸へ向かう象が、天皇にも披露するために京都に立ち寄っていたため、その際に若冲が本物の象を見て描いたのではと考えられている。鯨の黒と象の白の対比も意味深だ。「涅槃を意味している」という説があるようだが、自分なりに考えると面白い。
会期後半は20年前の開館時点でのコレクションを主に展示する。行きにくいが、前半・後半の2回、わざわざ訪れる価値は充分ある。2017年5月にはルイ・ヴィトンがファッションショーの会場に使っている。この館のセンスのよさは海外でもよく知られている。「行きにくいがすごい美術館」の日本一だ。
美術館棟のエントランスホールはとても雄大で明るく、
桃源郷に来たことを来訪者に感じさせる。
日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。
「ここにしかない」名作に会いに行こう。
フランス人の視点はとても興味深い、もちろんMIHOも紹介されている
MIHO MUSEUM 「桃源郷はここ」展
http://www.miho.or.jp/exhibition/20th/
会期:前半(1,2期)2017年9月16日(土)~10月29日(日)
後半(3,4期)2017年10月31日(火)~12月17日(日)
原則休館日:月曜
※展示作品には展示期間が限られているものがあります。事前にご確認ください。