国宝展。始まりはまだ静かな東山七条の入口
2017年の日本国内開催美術展の横綱、「京都国立博物館 開館120周年記念 特別展覧会 国宝」が始まった。2017年時点での美術工芸品(建築物は含まず)の国宝858件の1/4にあたる約200件が終結するという膨大な規模の展覧会だ。約2か月の会期を4期に分け、長期展示に耐えない作品を工夫して入れ替えながら、圧巻の演出を見せてくれる。
会場が東京ではなく京都だからであろうか、明治までは京都にあった逸品が「京都に里帰りすることになる」という大義名分が、門外不出の作品を京都に集めた原動力になったことは想像に値する。日本絵画の代表作として誰でも一度は見たことがある東京・根津美術館蔵の尾形光琳「燕子花(かきつばた)図屏風」は西本願寺、東京国立博物館蔵の雪舟「秋冬山水図」は曼殊院に、それぞれ伝来したものだ。
作品はジャンルと時代に応じた展示室をあてがわれている。順路の最初に観るのは3Fの書跡、Ⅰ期では日本の古典の代表作「古今和歌集」や「土佐日記」が美しい仮名文字で綴られているのを鑑賞できる。流れるような文字で正直ほとんど読めず、意味も分からない。しかし全くゆがみのない真っ直ぐな縦書きの文字で行間は完璧に揃っており、手書きでここまで綺麗にかける現代人はまずいないと思わせる。文字による記録というよりデザインの絶品と言える。
2Fの順路の最初は仏画、Ⅰ期では薬師寺「吉祥天像」が鑑賞者を出迎える。聖武天皇妃の光明皇后がモデルと言われ、ふくよかで包容力のある天平美人の傑作だ。
続いてⅠ期の最大の目玉、The Sesshu Roomだ。室町時代に活躍した雪舟は、日本の芸術家では最多の6点の国宝を生み出し、安土桃山時代以降の狩野派を中心に権力者が贔屓にした絵師に与えた影響ははかりしれない。Ⅰ期ではその6点すべてが同じ部屋に揃う。中でも個人蔵「山水図」はほとんど公に鑑賞できる機会がない。雪舟の絶筆とされ、深みのある松の表現が円熟を感じさせる。部屋の入口にある案内ボードにも「雪舟に酔いしれる」とコピーが綴られている。近い将来、6点揃って鑑賞できる機会はまずないだろう。
隣室は近世絵画、Ⅰ期では狩野秀頼「高雄楓観(たかおかんおう)図屏風」を見てほしい。織田信長が天下布武の道を駆け上った永禄年間の作品と考えられ、永らくの戦乱から解放されつつあった京都の人々が紅葉の名所・高雄の秋のひと時を描いたものだ。近世の街の営みを描いた風俗画の最初期の作品であり、洛中洛外図や彦根屏風と並んで、人々の様子の描写がとてもリアルで美しい。
中国絵画のⅠ期では、李迪「紅白芙蓉(ふよう)図」が目を引く。朝から夕方までの間に紅色に染め花を落とす芙蓉の花を、絶妙のはかなさで表現している。日本的な茶の湯の美意識にも合う。
1Fに下りると陶磁に続いて絵巻物、日本の絵巻物の最高峰の一つ「信貴山縁起絵巻」と並んで、Ⅰ期では「粉河寺(こかわでら)縁起絵巻」が見応えがある。豊臣秀吉の根来寺焼き討ちの際に近くにあっため罹災したと考えられ、全巻にわたって甚だしい焼損が見られる。それがかえって歴史の重みと作品の強運を感じさせる。焼け残った合間だけはとても保存状態がよく、千手観音に帰依する民衆の姿がリアルに確認できる。
最後の部屋では、歴史的に中国と日本の間の貿易で栄えてきた琉球に伝わる中国皇帝から下賜された国王の正装が日本にはない色遣いでとても魅力的だ。王冠に整然と並べられた色とりどりの玉のデザインには、やさしさと温かみを感じる。中国的だが東南アジア的にも見える美しさがある。琉球国王の尚家が残した逸品が展覧会を引き締めている。
日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。
「ここにしかない」名作に会いに行こう。
編集は京博が全面協力、前展示リスト付きで訪問前の予習の決定版
京都国立博物館 開館120周年記念 特別展覧会 国宝
http://www.kyohaku.go.jp/jp/special/index.html
会期:Ⅰ期2017年10月3日(火)~10月15日(日)
Ⅱ期2017年10月17日(火)~10月29日(日)
Ⅲ期2017年10月31日(火)~11月12日(日)
Ⅳ期2017年11月14日(火)~11月26日(日)
原則休館日:月曜
※展示作品には展示期間により異なります。事前にご確認ください。