愛詩tel by shig

プロカメラマン、詩人、小説家
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風がささやく 4

2009年04月18日 20時46分05秒 | 

風がささやく 4

   谷田茂

「パワーが要る?どういう意味?」

「君に会ってからずっと、表情に翳りが見える。

事情があっての一人旅なんだろ?僕でよければ聞くよ」

「・・・そうね。卜部さんになら話してみたい気がする。愚痴でもいい?」

「もちろん」

「端的にいうと、何もかもが空しいの」

「仏教の考えによれば、空しさを知ることは一つの悟りだと思うけど」

「そんないいもんじゃないわ。わたし、子供の頃から勉強がよく出来た。神童とか呼ばれたこともある。

大阪大学に在学中に公認会計士の資格を取ったわ」

「すごいじゃない」

「でも、そこまでが私の黄金時代。卒業して大手の会計事務所に入ったとき、すべてが崩れた。

賢い娘だとちやほやされていた時代は終わり。

やる気はあったのよ。『みてろ』なんて。

ところが、会計事務所では私は劣等生。

同期も含めて周りは皆とても賢く、仕事ぶりもすごい。あっという間に自信喪失。

で、『バーン!!』

私の心の中で何かが壊れちゃった。

やってきたのは不安と不眠。1か月休んだ。

クリニックでくれた薬で眠れるようになって復帰したけど、同じこと。結局会社辞めたわ。

そんなとき、クライアントの一人が優しくしてくれて親しくなったの。

で、3ヶ月後に結婚。

私には仕事は向いてなくて、家庭でのんびりするのが幸せと信じた。

でもね、それは最初だけ。すぐに嫌になった。

私は家政婦じゃない。有能な人間なんだ。ここにいちゃいけないって。

結局、半年で離婚。彼には悪いとは思ったけど、限界だった。

ワンルーム借りて、税理士事務所で働いてた。でも、やっぱり仕事、つまらないのよね。

先週、退職願を提出したばかり。まだ席はあるけど、有給消化中。

で、今ここにいる。

私はね、きっといつも探しているんだわ。真の幸せを」

「君の気持ち、よく分かるよ。真の幸せか。ひょっとすると、この旅でそれが見付かるかもしれないね。

夕食の用意が出来たようだ。食べよう」

僕らはバルコニーテラスでバーベキューを楽しんだ。

翌朝6時半。僕らはアストラのシートにおさまっていた。

走りだして10分で、ファーム富田のパーキングに到着した。

そして、「彩りの丘」と呼ばれる場所まで歩いた。

開いて間もないラベンダーは濃く鮮やかで、他の花たちとのストライプ模様が美しかった。

僕が撮り終わるや、瞳は言った。

「なんて・・・まるで絵ハガキの中に舞い込んだみたい」

Lavender

5につづく

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