蔵書目録

明治・大正・昭和:音楽、演劇、舞踊、軍事、医学、教習、中共、文化大革命、目録:蓄音器、風琴、煙火、音譜、絵葉書

「東京行進曲」 帝国劇場 (1929.12)

2021年04月19日 | 人物 作家、歌人、画家他

 

 昭和四年十二月狂言
  繪本筋書
    丸の内 帝國劇場

  昭和四年十二月興行
   一日初日毎夕五時開演

     菊池寛原作
 第一 東京行進曲 三幕十九場
       山脇嚴舞臺裝置
       西條八十作詞 中山晋平作曲 「東京行進曲」演奏
           女子洋樂部員

     高田保編案
 第二 西遊記 三幕十八場
       鳥居言人舞臺裝置
           女子洋樂部員

 菊池寛原作
  東京行進曲 三幕十九場
       山脇嚴舞臺裝置
       西條八十作詞 中山晋平作曲 「東京行進曲」演奏
           女子洋樂部員
           杵屋寒玉社中

  第一幕 第一場 藤本家の庭園
 當家の令息良樹 よしき 、妹の早百合、なつ子及び良樹の友松並敏男は秋の日を浴びてテニスを遊ぶ内、ボールは高く外 そ れ金網を越して、崖下の長屋の方へ‥‥‥。
 球 ボール の行衞を尋ねて金網へ寄った敏男は計らずも直ぐ目の下の穢 きたな い家の中に、花を欺く計りの娘を見出して有頂天になります。
 羞かしさに頬を染めながらも熱心に球を投げ返す娘。何心なくフと覗き見した良樹の胸には、その娘の純眞さが深くゝ刻みつけられて了 しま ひました。
   おなじく 第二場 ホテル舞踏場の一部
 早百合の美しさ、讃美せぬ人とてなく、小説家島津稔、敏男の兄松並信男、安田健吉、などは彼女を廻る大の讃美者でした。
 最近獨逸から歸朝したピアニスト山野秀夫は、今宵始めて早百合を、島津達から紹介されました。
 生來の美貌と、天才的の藝術とで、今迄幾多の女性を惱まして來た山野秀夫は、如何なる女性でも雜作なく我が掌中に握り得ると深い自信を持って居りました。
 早百合を、物語中のお姫樣とし、飽迄も女性を神聖視する島津達と、反對に何れの女性をも娼婦視する山野とは、早百合の去った後、計らずも云ひ爭ひとなり、遂に山野は三ヶ月の内に早百合を必ず自分のものにして見せると誓ふに至り、成れば島津は筆を捨て、成らずは山野生涯ピアノの前に立たぬとさへ約して了ひました。
  同 第三場 崖下の家
 僅か九歳にして母を失ひ、それからは伯父の手許に引取られて今日に至り、印刷工女を勤めて伯父の家計を援けてゐた可憐な娘道代。伯父の失職から困窮は其の極に達しましたのを見兼ね、亡き母に深い緣故のある新橋から藝者となって出る決心をし、義理堅い伯父夫婦をヤット説き伏せて、漸くその交渉に行って貰ふ事になりました。
 同じ工女を働いてゐた澄江は、これも家計を助ける爲めに銀座のカフェーに女給 ウエイトレス を勤めることになり、仲良しの道代を訪ねて來ました。二人は互に境遇を語り合ひ、飽迄も身の神聖を守らうと、健気にも手をとり合って堅く誓ひます。
 あとへ訪れた新橋稻の家の女將。話はスラゝと運んで、道代はいよゝ新橋から左褄 ひだりづま をとることゝはなりました。 
 伯父一家を救ひ得た道代、感謝に滿ちた伯父夫婦、互ひによゝと泣き崩れるのみ。
  第一幕 第四場 銀座の夜
 大學に籍を置いて居ながら、遊んで歩いて計り居る松並敏男。今宵も惡友と、この銀座を歩いてゐます。
  同 第五場 壽福の座敷
 新橋の花柳界で飛ぶ鳥を落す勢ひのふーさんと呼ばれる實業家。先日來現れた折枝と云ふ美しい藝者を得やうと、女將にも云ひ含めて待ってゐますと、やがて折枝が參りました。この折枝こそ、崖下の娘道代の變る姿です。ふーさんは折枝にいろゝ好意を示し、大きなダイヤを與へて意に從はせやうとしますが、純眞な折枝は一向に從ふ氣色もみせません。ふーさんに抱き辣 すく められて、折枝は爭ふ機 はづ みに、最も大切にして居た亡き母が形見の指輪を抜け落したとも知らず、夢中で此處を逃げ去ります。
 あとに、これを拾ひ見たふーさんは倒れん計りの愕き、この指輪こそ甞て自分が愛した綾香と云ふ藝者に與へた物に相違ありませんでした。我が子を宿したと知り乍ら捨てた綾香ー折枝こそ正 まさ しくその綾香の子旣 すなは ち自分の娘だったのです。
 惡夢から醒めたふーさんは、女將を呼んで其れとなく事情を打明け、折枝の借金を濟ませ、淸浄な彼女の後見を賴みます。
  第二幕 第一場 カフェーイーグル
 澄江は此店に瑠璃子と名乗って人氣者になって居ります。
 會社の先輩達によって藤本良樹の入社歡迎會が築地の錦水で開かれ、その席で偶然折枝を見た良樹と其の親友佐久間雄吉、歸途二人は別々の氣もちを抱いて此店へ寄りました。初めて見た美しい折枝の淸浄さに佐久間は妻に迎へてもと迄思ひ込みました
 よもや崖下の娘が藝者となって我が眼の前に現れやうとは夢にも思はなかった良樹は「藝妓 げいしゃ なんか大嫌ひだ」と明言した手前今更自分の思ひを佐久間に打明ける事も出來なくなって悶々とするのみでした。
 佐久間は心の悦びを包も得ず、再び折枝を呼んで逢ってみたいと、良樹に別れて出て行って了ひました。
 良樹の邸 やしき 近くに住む瑠璃子は、かねて良樹を見知って居りました。偶々道代の話が出ます。良樹の心は急に明るくなって瑠璃子から種々 いろゝ 道代の事を詳しく聞き得ました
 良樹の歸った後、山野秀夫に伴はれた早百合となつ子が入って來ます。それを他のテーブルから見た島津や安田、松並等は、アッと膽 きも を冷しました。愈々山野の惡の誓ひが成就したのではないかと氣が氣ではありませんでしたが、早百合達は買物の途 みち 、つい其處で山野に出會った丈けの事と分って、一同はホッとします。
  同 第二場 上野地下鐵の入口
 公衆電話を掛ける人々。女も男も戀の囁きー「わたしは地下鐵、貴方はバスで」と淺草での忍び逢ひを約してゐます。
 イーグルの瑠璃子を誘って巧みに斷られた例の敏男。今度は他のカフェーに電話をかけて、次の候補者を誘ってゐます。
  第二幕 第三場 藤本家の招宴
 良樹は會社の先輩達を招いて晩餐を共にしました。早百合は今宵の招待客の内、佐久間の男性的な強さに心を牽かれてゆくのを感じました。今迄彼女に接する男の總てが追從だらけで嫌いでしたが、佐久間の飾り氣無い、かへって自分を邪慳に取扱ふ如き態度が、不思議にも早百合の心を強く捉へてゆくのでした。
  同 第四場 木挽町邊の或る街路
  胸に深く刻みつけられた崖下の娘ー新橋の折枝を何うして思ひ諦められませう。良樹は親友佐久間を、おそろしい競争相手として、あれから幾度か、密かに料亭の門を潜るのでした。
  同 第五場 銀水の座敷
 良樹が心を盡しての贈り物の簪ーー。
 それを、また心から悦んで早速髪に挿す折枝ーー。良樹は折枝の美しい姿を眺めてつくゞ幸福を感じるのでした。
  同 第六場 春川の座敷
 眞面目な心を以て折枝を戀ひ慕ふ佐久間は、彼女の姿を見る迄は全く氣も落ちつきません。漸く折枝が入って來ますと、佐久間は嬉々として迎へます。先日約束した帶止めの贈り物、折枝の喜ぶ姿を見つめる内、ふと目についた簪?それは慥 たしか に今日、自分が此の帶止めを買った折一緒に居た友人の良樹が妹の爲めにと云って購 か った品に相違ありませんでした。晴天の霹靂!親友に裏切られうとは‥‥‥。佐久間は非常な愕きと腹立たしさで、席を蹴って立上りました。
  同 第七場 丸ビルの廊下
 互ひに蒼さめて立つ佐久間と良樹。
 佐久間の詰問も尤もでしたが、良樹は佐久間より以前から彼女を戀してゐたのだと知れてはモウ良樹をせめる事も出來ません
 折枝を慕ふ親友同志。二人は止むなく、何 どち 方かゞ彼女を得る迄、當分の絶交をしやうと誓ひます。
  第三幕 第一場 藤本家の居間
 良樹は心の中を父に訴へて、折枝との結婚を願ひ出ました。父は折枝と聞いて卒倒しさうに驚きます。良樹の父は、彼の有名なふーさんだったからです。有らう事か、現在の息 むすこ が、知らずして肉親の妹を戀し結婚せうとは‥‥‥父は良心を鞭うたれて苦悶の叫びをあげます。
 理由を云はず、その結婚を拒絶する父。しかし戀に熱する良樹が、いつかな承知する筈もなく、父の許諾 ゆるし がなければ家を出 い でても折枝と一緒になると云ひ張ります。
 流石の父も今は詮方なく、深く心に密 ひそ めて居た折枝の事を、總て良樹の前に告白し己れの不品行が、我が子を苦しめた事を謝罪します。
 全く意外な父の言 ことば 。良樹は、ガーンと何物かに衝 つ かれたやうに立ち上がりました。が漸く我れに返った良樹、戀にくらむ妄執も今は全く拭ひ去られ、戀人折枝に代る妹道代の兄弟愛!
 良樹は、可憐な妹道代を我が家へ引取ることを、父に力説します。
  第三幕 第二場 早百合の電話
 その後、早百合は佐久間を思ふ念罷 や まず折々佐久間に電話をかけ、手紙を出して居りました。佐久間も早百合の怜悧で、しかも明るい性質に不識々々 しらずゝゞ 牽かれてゆくのを何うする事も出來ませんでした。
  同 第三場 丸ビルの角
 良樹の歸途を追って來た佐久間は和解を申し込みます。佐久間は絶交以來、折枝に再三結婚を迫りましたが、義理に挾まった折枝からこれを拒絶されたのでした。
 良樹も、彼女が自分の妹と分った今日どうにか佐久間との緣談を纏めてやりたいと思ひましたが、未だこの秘密を口にする時期に至らず、心苦しくも默って和解の握手を致します。
  同 第四場 新宿の夜
 敏男は、カフェー、シャノアールのペチ子を連れ出して遊び廻ってゐます。と一方からピアニストの山野、他の一方から毛皮のコートに深く身を包んだ早百合とが出てパッタリ出合った樣子。敏男は苦手の早百合に見られては大變と一散に逃げ出します。
 山野は、此處で早百合に逢へたのを幸ひ頻りに早百合の心を動かさうと努めますが早百合は一向にその言 ことば を受け入れるらしくも見えません。
 約束の六時。佐久間が其處へやって來ましたので、早百合はその腕に抱 いだ かれて彼方へと‥‥‥。甘き囁きを交 かは しながら‥‥‥。
  同 第五場 イーグルの一部
  佐久間と良樹。
  「僕の妹を貰って呉れないか」と云ふ良樹「是非貰ひたいと思って居た折だ」と非常に喜んで返事する佐久間。
  良樹のつもりでは折枝を、佐久間の望みでは早百合を、だったのです。良樹の希望は足元か覆へされたのでした。勿論、佐久間が早百合を愛するこ事など全然知らなかったので、斯うした返事を聞かうとは思ひも及ばなかった良樹は「さうかー」と云った切り、今更妹道代の話を持出すことも出來なくなりました。
  同じ妹早百合の幸福の爲めにも‥‥‥
   同 第六場 藤本家
  道代を我が家へ引取る日。良樹は今日初めて早百合、なつ子に、道代の存在を知らせました。父の不品行から、亡き母の悲慘な生涯を知る早百合は、此の未知の妹は卽ち母の敵 かたき だとて、甚だ心よく思ひません。
  やがて道代が到着しました。丁度、來合せてゐた早百合の婚約者佐久間は、良樹から妹として道代を紹介されます。何等事情を知らなかった佐久間の驚愕‥‥‥。
  憎悪の眼で道代を見てゐた早百合も、云ひ知れぬ肉親の愛に牽かれ、遂には道代と手を取り合って語り合へる樣になりました。
  近く社用を帶びて英國へ赴く筈の良樹は父の許しを乞ふて、不遇なりし妹道代を同行、彼地で新しく敎育をし直して、將來の幸福を計ってやることになります。
   同 第七場 東京行進曲獨唱
   少女の唄ふ‥‥‥『東京行進曲』

 御観劇の栞
   一十二月の卷ー 

  『東京行進曲』の上演

 『東京行進曲』の名を口にしない人は今日ないと云って好い位の人氣、大東京を背景として描き出される近代戀愛に於ける葛藤の種々相を多種多樣に取り扱った菊池寛氏が最近の力作でございます。同氏の御好意に依って爰 ここ に劇化上演することのが出來ましたのは寔 まこと に萬人の期待されるところと存じます。尚、西條八十氏の作詞、中山晋平氏作曲に成る『東京行進曲』もまた兩氏の御好意に依って第三幕第七場で舞臺に獨唱されることゝなりました。

   『東京行進曲』の歌詞
           作詞 西條八十氏
           作曲 中山晋平氏
     〔省略〕

 女子洋樂部

 第一ヴァイオリン    場崎千代野 
            江口絹枝
            七原梅子
            馬越久子
 第二ヴァイオリン    福谷カヅヨ
            山口直子
 ヴィオラ        篠島富貴
            加藤常磐
 ヴィオロンセロ     中島すゞ子
            門馬榮
            大塚千枝
 コントラバス      土田峰子
 フリュート       桑原りさ
 ピッコロ・フリュート   高田オトエ
 オーボー       山田きく
 クラリネット      八鍬文子
 トロンペット      岡本光子
 トロンボーン      柏倉ひで
            吉川八重子
 打樂器        鎌田トモ子
            和田トク子
      〇
 音樂指揮       山崎榮次郎
            篠原慶心

   當興行御觀劇料(税共)
 ◇一、二階席(白券)  御一名 金三圓五十錢
 ◇同    (靑券)  御一名 金三圓
 ◇三階席       御一名 金七十錢
             外一切御不要

昭和四年十二月一日發行

 なお、上の右の写真は、「ビクターハーモニカ樂譜No.12」で、昭和四年五月三日發行 昭和四年六月十五日 第十三版發行、装幀は齋藤佳三である。



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