蔵書目録

明治・大正・昭和:音楽、演劇、舞踊、軍事、医学、教習、中共、文化大革命、目録:蓄音器、風琴、煙火、音譜、絵葉書

コメディー 「薔薇の答」 帝国劇場 (1920.9)

2020年05月27日 | 帝国劇場 総合、和、洋

    

  大正九年九月狂言  女優劇

     文學博士佐々木信綱〔佐佐木信綱〕閲
     竹柏會同人平山晋吉作 (婦人畫報所載)
 第一 時代劇 西行と靜 三幕 
     アンナ・スラヴィーナ
     太郎冠者       合作
 第二 コメディー 薔薇の答 二幕
     邦村完二作
 第三 史劇 明暗錄 一幕

 第二

   佛國巴里大通カフェー
    アメリキャンの店頭

 一 米國將校          介十郎
 一 紳士ニコラ         門之助
 一 佛國將校          彌左衞門
 一 帽子屋の女         かね子
 一 近眼紳士          彌好
 一 パンヤ           柳藏
 一 職人            大和平 
 一 ジプシーの爺        三津之助
 一 同    娘        延子
 一 同    娘        小春
 一 青年紳士リシャール     紅笑
 一 往來の女シャロット     薫
 一 同   マルグリト     日出子
 一 紳士ルヰ          田三郎
 一 伜ピエール         玉三郎
 一 夕刊賣ピエール       律子
 一 紳士フィリップ フーシェ  勘彌       
 一 同夫人エレーヌ       菊江
 一 紳士            三吉
 一 老年紳士アンドレーピカール 錦吾
   (一名ベゞちやん)
 一 往來の女アデール      嘉久子
 一 同   テレーズ      ふく子
 一 同   イルマ       美禰子
 一 群衆の女 甲        勝代
 一 同    ジュリエット   房子 
 一 同    ベルト      かね子
 一 巡査            彌五郎

  〔以下の配役初一二字は欠損、推測部分は青字〕

 一 來の女アニー       壽美代
 一  ジエルメーヌ       花枝
 一 中            錦絲
 一 頼漢           彌助
 一  生            佳根松
 一 草拾ひ          守彌
 一 ーイ乙          松藏
 一 ーイ甲          守藏
 一 働者甲          喜藏
 一  告屋           喜の字
 一  ウァーヴ         玉次
 一  ラハリヤ         喜美藏
 一 賣娘           豊子
 一 來の女マド
    レーヌ          きん子
 一  ジャンヌ         照子
 一  の女           貞子
 一 來の女
    エリーズ         千代子
 一  マリー          明子
 一  リフロー         久子
 一  イザベル         松江
 一  ジョルジ
     エット         光代
 一  グレマ
    ンテイヌ         文子      
 一               竹子                 
 一  子供           君子
    
     帝國劇場管絃樂部員   

 管絃樂部員 指揮者 樂長 永井健子

 部員        横山國太郎
 同         山崎榮次郎 
 同         萩田十八三
 同         横須賀薫三
 同         吉田盛孝
 同         村上彦三  
 同         小松三樹三
 同         内藤彦太郎
 同         紣川藤喜知
 同         渡邊金治 
 同         加藤順  
 同         大野忠三
 同         篠原慶心
 同         大木精一
 同         高島齋次郎

    アンナ、スラヴイーナ 
    太郎冠者       合作
 第二 コメディー 薔薇の答  いらへ 二幕

 『序 プゝローグ 、佛國巴里 パリ― 、カフェー、アメリキャンの店頭』カフェーの内にて演奏する輕快なる音樂にて幕開けば、店頭の人道に並べたる卓子 テーブル には、幾組かの男女相對 むか ひて腰を下し、ボーイの運ぶ美酒佳肴 かかう に舌皷 したつゞみ を打ち、樂しげに打語らひ、美しき衣 きぬ を着たる人々洛繹 らくき として絶間なく徂徠し、都 すべ て世界の不夜城、花の都巴里夜景の一部を表はす、上手より巴里の名物、婦人帽子屋 モデイスト 、帽子箱を抱へ、褄 つま を取り、急ぎ足に出來る後 うしろ より、近眼の紳士、件 くだん の帽子屋の兩足の曲線美に引付けらるゝ如き態度にて、引添 ひきそ いて出來り、途中より引返 ひつかへ す帽子屋に突當り、思はず反身 そりみ になりて倒るゝ途端、後より來る人々に突當り一同将棋倒しとなりて打倒れる可笑味 をかしみ あり、勇ましき軍樂に連れ、佛國軍隊通過れば、一同ハンケチを打振り、歡呼の聲を上げて打騒ぐ處へ、富豪の子息ピエール駈來 かけきた りて見物し元來し道へ引歸さんとして、同じく軍隊に心を奪はれて路傍に立ちし夕刊賣 うり に突當り、持ちし玩具 おもちゃ を取落し、倒るゝ拍子に膝頭を擦剥 すりむ けば、夕刊賣は慌てて介抱し連 しきり に詑 わび を謂 い ひ居る處へ、ピエールの父フヰリップ夫人エレーヌと出來り、一圖 づ に夕刊賣が倅 せがれ の玩具に眼をくれし者と思ひ、少年を捉へて激しく打擲 ちょうちゃく し、遂には警官にも引渡さんとする時、少年の母なる往來の女アデール道樂紳士と共に出來り、此體 このてい を見て走寄りて我子を庇ひ、件の紳士の、身も心も捧げて、振捨てられし昔の戀人なるに驚き、詑 わび の印 しるし にとフヰリップ、フーシェが差出す、小切手を寸斷して叩き突くれば、フーシェは尚謂はんとして、ピエール連れ去られ、跡 あと にアデールは恥し気に我子ピエールに身の懺悔をなし、先程の紳士ピエールの誠の父にして、其子ピエールとは腹異 はらちが ひの兄弟なる事を明 あか し、親子の薄倖を嘆き不良少年アンドレー、ピカールが往來の女に取巻かれて出來るを見て、舊交を温 あたゝ むる振して其仲間に加はり、泣き顔を笑 わらひ に隠し、遂に嗜みし事なき強烈なる酒を呷 あふ れば、孝心深きピエールは始終母の身を案ずる事宜しく、幕ばアデールが憂 うれひ を紛らす悲痛なる歌にて閉ず。

  第一幕 

     巴里ホテル
      ベルヴューの一室

 一 新婚旅行の紳士
    ピエール、フーシェ  勘彌
 一 同    夫人ニナ   律子
 一 ホテル支配人
      ドルナン     柳藏
 一 同  事務員      彌好
 一 同  門番
      グユスターヴ   守藏
 一 使小僧ルシャン     小春
 一 女中マリー       ふく子 
 一 探偵          三吉
 一 巡査          喜藏
 一 同           玉次
 一 大賊ピエール
      フーシェ
     (一名幻)     勘彌
    帝國劇場管絃樂部員

 『第一幕、(序より十一年後)巴里ホテル、ベルビュヴーの一室』靜かなる音樂にて幕開くと、舞臺は暗黒にして、怪しき光現はれ、此處彼處 かしこ を照らしたる後、突然消滅し、人を案内する聲と共に、舞臺明るくなると、茲は旅館ベルヴューの客間となり、女中マリーを先に、新婚旅行のピエール、フーシェ夫妻、ホテルの事務員、荷物を持たる門番、使 つかひ 小僧ルシャン等入來り、夫婦は五月蠅 うるさ く附纏う下人等を退けたる後、女中マリーより、此頃巴里に幻 まぼろし と云ふ綽名の大賊 たいぞく 往行し、銀行又富豪を荒し廻り夫 それ が爲に今夜も、此ホテル出口は盡 ことごと く探偵の見張り居る事を聽き気味悪く思ひ乍らも、兎に角オペラ見物に出掛けんと、夫 おっと ピエールは新聞廣告を見る可く階下へ下 お り行き、夫人ニナは夫の着衣 きもの を出し、戸棚に掛けんとする時、戸は内より開かれて夫ピエールに寸分違 たが はぬ賊幻本名ピエール立居たれば、ニナは夫と思ひ近寄らんとするに、幻はそれは人違ひにて、自らお尋者 たづねもの の幻なる事を告げ、驚き逃げんとするニナを留 とど めて、探偵の眼を逃 のが るる可く、主人の着衣 きもの を貸さん事を求め、聽かずば命 いのち にも及ばんとする気配に、ニナも已むなく承諾し、幻が禮代りに置き行かんとする彼の着衣を受くるを拒み、盗賊 どろぼ よお禮を貰ふ樣な者にないと、激しく彼を罵れば、幻は辯解的になり、彼が如き泥棒を造りしは、冷酷なる社會の罪なりと、彼の母が富豪の若紳士に処處の操を破られ、素気なく棄てられたる後、其子の教育の爲に、往來の女と迄身を墮 おと し、一人前の人間とはなしたるも、冷酷なる社會は、彼が身許 みもと を云爲 うんい して、門戸を閉ぢ、落魄 らくはく に落魄を重ねたる極、世を呪ひ、人を詛 のろ ひ、復讐の手段として盗賊となりたれば、母は悲しみて水死したりと、幻と世に恐怖さるゝに至りし輕路を語れば、ニナは幻の我が夫と父を同じうする義兄のピエールなる事を知り、驚きは軈 やが て同情となり、瓜二つなる夫が幻と誤られ、警官に拘引され行きたる間に、一旦隠したる幻を箱戸棚より出し、幻を兄と呼び、同情の籠りたる言葉を以て人の世に疎 うと まれし時、何故に神樣の戸をば叩かざりしと、今迄耳に聽きし事なき温言を以て理を説けば、幻は聲を上げて慟哭し、正路に立歸りて、直樣自首す可き事を誓ひ、其證據には部下等に話して、彼が自首を無事に承知したる時は、白き薔薇、事の露現を恐れて、彼が命を取る場合には、赤き薔薇を送らんと約束して出行きしが、間もなく使小僧の持参せし薔薇の色の白なるを見て、ニナは気も狂はんばかり打喜び、嫌疑の晴れて放免せられし夫を、寝床へ休ませ、明日亡き父の墓を詣てゝ、件の花を供へんと謂ひ、天を仰いで神に感謝の祈祷を捧ぐ、幕。



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