蔵書目録

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「歌劇 マダム、バタフライ」 帝国劇場 (1914.1)

2020年06月27日 | 帝国劇場 総合、和、洋

     

 大正三年一月狂言

     井手蕉雨脚色
 第一 史劇  小櫻縅 二幕 三場 
     ダビツトベラスコ著作
     ジアコモ、プチニー作曲
     高折關一改訂
 第二 歌劇  マダム、バタフライ 一場
     右田寅彦脚色
 第三 お夏淸十郎 壽連理の松 一幕
     太郎冠者新作
 第四 悲喜劇 かねに恨 一幕 三場

  他では眞似の出來ない
 歌劇 オペラ 『蝶子夫人 バツターフライ』上場
  高折夫人すみ子談

 新しい試みの多い中でも。この歌劇 オペラ ばかりは、他で眞似が出來ません、率先して試みますと同時に、玩賞の趣味を促しました當劇場の貢献は、偉大なもので厶 ござ います、今までに幾囘も試みられまして、種々に工夫されて上場毎に好評を博し來つて居ます處へ、這囘 こんど 私が加入しまして、マダム・オブ・バツターフライを演じますことは、最も光榮ある事と存じます、此は伊太利のプチニーが名曲と致しまして、夙に歐洲の劇壇を震撼せしめましたものゝ最後の一節で厶います、筋は蝶子夫人 バツターフライ といふ美人が心變りした夫とは知らずに、孤閨を寂しく守りつゝも、歸來の日を樂しみ、歸來の暁を想像して居ましたが、それも今は仇なれ、夫は遠く出て行きたるまゝ、復還り來ないので、悶絶悲哀の淵に沈淪するといふ、閨怨春愁の情景を寫したもので厶いまして、艶麗の裡に悲哀を帯びた風情と、樂しみを豫期した想像とを併せ有して、夫を待ち詫びる愁ひと、歸來の日を豫想しての樂しみとを表して、幾變化せねばなりませんが、當劇場の電気應用の舞臺面といひ、平素専用のレート化粧の榮 はえ といひ、思ふまゝに勤めることの出來ますのは、何から何までが完備して調和を得て居るからの事で厶います、これでこそ、帝劇の樂屋にはレートの香気 にほひ が漲り氤氳 いんうん して居る譯で厶いまして、家庭用としましては申すまでもなく、舞臺上の扮粧 ふんそう も、レート白粉とレート化粧料のお化粧を致しますと、申分のない美しい心のまゝな容姿が粧 つく られるので、レートが帝劇專用の化粧料といはれる理由も事實も、全く歌劇 オペラ が帝劇の獨擅 どくせん で、他に眞似られないやうにレート化粧の美は、他々の品では眞似られないレートの獨占といふ特色があるからで、帝劇對他の劇場 しばゐ 、レート對他の化粧品といふ比較は實に面白いと存じます。

 第二 

 長崎市蝶子夫人佗住居
 櫻花の庭園

 一 マダム、バタフライ マダム、スミ子
 一 女中鈴子      かね子
 一 花見の娘      マダム、スミ子
 一 同         大和田園子
 一 同         中山歌子
 一 同         澤美千代
 一 同         湯川照子
 一 同         多勢
 一 車夫        羽多藏
  帝国劇場附屬管絃樂部員

     ダビツトベラスコ作
     ジアコモ、プチニー作曲
     高折關一改訂
  第二 歌劇 マダム、バタフライ  一場

 本歌劇は伊太利プチニーが名曲として、夙に歐洲に喧傳せらるゝものゝの一節にして、幕開くと茲は日本長崎市蝶子夫人 マダムバタフライ 佗住居の一室の體、蝶子夫人は女中鈴木と共に夫の歸国を待佗び、夫の身の上恙なかれかしと、伊弉諾 いざなぎ 、伊弉册尊 いざなみのみこと 、猿田彦尊 さるたひこのみこと に祈願する事あり、幾らか心は安まれど、所持金も今や殆ど遣ひ果し、昔の榮耀は唯夢とのみ残る心細さに、女中鈴木は『旦那様に一日も早く歸つて戴かなきや、この先私達はどうなる事か解りません』と打悄 うちしお るれど蝶子夫人は深く心に信ずる所あるものゝ如く、蝶子『けれど旦那様はお歸りになるんだよ………若し旦那様が二度と歸らぬ御心なら、何で那麼 あんな に金庫迄据ゑ付けて、細ゝ こまごま と所帯向の事をお世話下さるものかね』と、夫の心變りせるも知らで、女中が疑ひの言葉を打消し、必ず歸ると謂ひ、又其折の事を我心に描き、悲喜交々到つて遂に卒倒す、女中は泣くゝ夫人を抱き起し、海の見ゆる縁側の柱に倚らしむ、長き春の日も漸く暮れ、晩霞蒼然として湾内を罩 こ むれば、市街にも、港内の遠近 をちこち に碇泊せる船にも、ポツリゝと火點 とも され始む、下婢は子供を寝かし付けつゝ、昼の勞 つか れに何時しか眠に入る、此時遙に欵乃 ふなうた の聞ゆるあり、余韻嫋々 でう々 として春怨孤閨の情いとゞ身に沁むされど蝶子夫人は冷たき大理石の如く、少しも動かず、月は血の気なき雙頬 そうけん を照らして、神々しき美しさを示す、此模樣宜しく幽 かすか なる且寂しきオーケストラ音樂に連れ、ダークチエーヂにて
     其二 高折夫妻 西洋土産 櫻々とちよきんな
となり舞臺は平舞臺櫻花咲競へる庭の遠見、茲へ花見の娘人力車に乗り出來り車上にて『櫻さくら彌生の空は見渡す限り云々』と唄ふ、此處へ又左右より振袖姿の娘四人出來り、合唱にて『ちよんきな』節を唄ひ賑かなる音樂を冠 かぶ せて幕 



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