今回も自助会Alcoholics Anonymous(AA)の『回復のプログラム』“12のステップ” を取り上げ、“言語化” との関係をテーマとしてみます。長年アルコールで傷んだ脳と精神をどのように回復させるか、つまり脳のリハビリの手順と方法についてです。改めて私の実践例を振り返り、対照してみようと思います。結論から先に言うと、飲まない生活は勿論のこと、いかにして平常心で生きて行けるかが『回復のプログラム』の達成目標だと考えています。
“12のステップ” の全体から見て、ステップ1~4は最も解釈に手こずるところで、プロセス上最も微妙な段階に当ります。そこで、ここを重点的に述べてみようと思います。まず、ステップ1~4をお復習いしてみます。ここは次のように記されています。
***********************************************************************************
ステップ1:私たちはアルコールに対し無力であり、思い通りに生きていけなくなっていた
ことを認めた
ステップ2:自分を越えた大きな力が、私たちを健康な心に戻してくれると信じるように
なった
ステップ3:私たちの意志と生き方を、自分なりに理解した神の配慮にゆだねる決心をした
ステップ4:恐れずに、徹底して、自分自身の棚卸しを行い、それを表に作った
***********************************************************************************
しばらく前までこの部分は、どうやったらアルコールの残渣(毒)が早く抜けてくれるのか、その手順を記している部分と考えていました。つまり、“ガマンの断酒” の早期脱出法だと思っていたのです。改めて私が実践して来た経験に照らしてみると、どうもこの考えには無理があると思えて来ました。ステップ1の「生きていけなくなっていた」、ステップ2の「自分を越えた大きな力・・・信じるようになった」、ステップ3の「神の配慮にゆだねる決心」これらの言葉を吟味してみた結論です。
私の場合、心境に変化が訪れた時期は “憑きモノが落ちた” 体験(以下、“憑きモノ体験” とします)の後というのが現実でした。「自分なりに理解した神」を自然治癒力に置き換えてみると、まさに “憑きモノ体験” 後の心境にピッタリでした。
ステップ1の「生きていけなくなっていた」は、原語では「どうにもならなくなっていた」という意味で、過去の過去を表す過去完了形で書かれています。その時制を採った目的は、直前まで続いていた最悪の状態から脱した際に、その以前を振り返ってみた経験を表現するためと考えられます。
私の場合も「どうにもならなくなっていた」は、“憑きモノ体験” 後にそれまでを振り返ってみて初めて気づいたことでした。渦中にあったときは、正直それどころではなかったのです。ステップ2の「自分を越えた大きな力・・・信じるようになった」は、“憑きモノ体験” が神秘的であったことに符合します。ステップ3の「神の配慮にゆだねる決心」は、自然治癒力を実感した後の当然の帰結でした。
どうやらAAの『回復のプログラム』のスタートの時期:ステップ1~3は、脳に残っていたアルコールの残渣(毒)が抜け切った心境になれた時のことを意味しているようなのです。たとえアルコールが抜けたといっても、依然としてその後遺症は残ったままです。しかも、後遺症の中には最強とも言える手強い相手がいます。AAの『回復のプログラム』はその最強の障害をターゲットとしているように思えるのです。
アルコールの後遺症とは、遅発性の離脱症状 ― 急性離脱後症候群(Post Acute Withdrawal Syndrome:PAWS)のことです。主に記憶障害、情動障害、想起障害、思考プロセス障害、認知障害などがからなっています。特に “認知のゆがみ” と呼ばれる認知障害は、性格に “ゆがみ” をもたらす元凶と言ってもいいくらいの手強い障害です。
アルコール依存症になった人には、この “認知のゆがみ” が全員にみられますし、断酒中のAAのメンバーのほとんどは、アルコールの虜となった誘因が性格の “ゆがみ” にあったと認めています。このように考えるに至り、私はこの “認知のゆがみ” を矯正するプログラムがAAの『回復のプログラム』なのだと結論付けました。
ステップ4は、本格的な “言語化” 療法の開始段階と考えています。“言語化” とは、自分の悩みや苦しみの大元は何なのか、その正体を言葉で暴くことと考えています。単に、自分の思いを言葉に託して記述すればいいというわけではありません。実践する際は二つのことが必要です。ひとつは、読み手・聞き手を想定して外向けの論理で表現すること。二つ目は、自分の本音に正直であることです。私がブログに投稿を始めてから丸2年経ちましたが、まだ正体の尻尾ぐらいしか掴めていません。正体の全貌を言葉で暴くには、少なくとも数年単位かかるものと覚悟しています。
自分の思いを書くことは、自分を相手に対話することです。頭の中だけで、独り言の堂々巡りをするのとはまったく違います。書いている時は、必ず読み返しながら書き進めます。「これは本当か? ウッソだろう? 誤魔化していないか? カッコつけるな! 何かズレていないか?」絶えず問い続け、本音と合致するまで書き直すのが普通です。私は、自分の本音との正直な対話こそ “言語化” の鍵と考えています。
言いっぱなし・聞きっぱなしの場で自分の本音を正直に語ることも、私は立派な “言語化” と考えています。AAのミーティングでは、言いっぱなし・聞きっぱなしが唯一のルールです。質問、批判、反対意見の類は禁じられています。このことが、AAのミーティングは “言語化” の実践道場だと、私が考えている所以です。
話をステップ4に戻します。ステップ4では叙述による内省が不可欠です。が、アルコールの残渣(毒)が抜け切らない状態では、正直言って冷静な内省は難しいと思います。断酒を継続するのに精一杯で、内省するだけの冷静さや心のゆとりはないはずです。だからと言って何もしないでいいと言うわけにはいきません。
こんな時期には病状の記録を残すことをお勧めしています。忘れない内に、断酒後に気付いた変化を日付と共に記録しておくことです。慣れてきたら、飲酒時代の酒害体験にまで記録の対象を拡げればいいのです。そして、周辺状況の客観的な史実と共に、それらを正確な個人年表に整理することをお勧めします。これらの作業は “言語化” の立派なウォーミングアップとなります。
過去の酒害体験を思い起こすと、どうしても罪責感に囚われ、自己卑下や呵責に苛まれることになりがちです。ロクでもないことばかりして来たという、強い思い込みがそうさせるのです。その思い込みを正してくれるのが客観的な個人年表です。客観的な時代背景や、その時々の社会状況(社内事情etc)を見れば、必ずしも個人の責任ばかりでなかったことを明らかにしてくれます。あやふやな記憶による思い違いが、偏った思い込みと重なって罪責感に繋がっていることもあります。私はこの個人年表のお蔭で、意外に逞しく、しっかり生きて来たものだと、自分の生き方に誇りを持てるようになりました。人生の “棚卸し” には個人史年表の作成が欠かせません。
継続断酒3ヵ月頃から、私は断酒後に気づいた病状の変化と飲酒時代の酒害体験を記録し始めました。それから少し遅れ、AV動画の内容についても文章化し始めました。もうどうにもならない性的妄想に駆られ、AV動画の虜となってしまったからです。その原因はPAWSの情動障害だったと思います。ヤケクソで始めたAV動画の文章化は最終的に20本以上になりました。AAのミーティングに週2回出席するようになったのは、ちょうどその頃のことです。今振り返ってみると、これらは “言語化” 療法のウォーミングアップになったと考えています。自分史『アルコール依存症へ辿った道筋』を書き始めたことが、本格的な “言語化” 療法の始まりに当たります。
断酒を続けていさえすれば、必ずアルコールの囚われから抜けられたと実感する時が来ます。そうなったら、もう迷いはなくなります。ただひたすら自省の思いを書いて、“言語化” に励むことです。それと並行してAAのミーティングに出席することです。AAのミーティングは “言語化” 療法の一端を担っています。数々の “気づき” が得られ、その数だけカタルシスに浸れることになるでしょう。
ステップ 4 以降に求められていることは明解です。内省を続け、それを文章に綴ることが求められているだけと考えています。つまり、“言語化” の実践です。その実践こそが平常心に近づく道だと説いている、これが『回復のプログラム』の私の解釈です。“言語化” は再現性が確認されている認知行動療法の一つです。私が『回復の科学』とエラそうに謳ったのは、再現性ある “言語化” が科学的方法と確信しているからに他なりません。
以下にAAの『回復のプログラム』“12のステップ” を臨床試験計画書(プロトコール)の体裁になぞってみました。是非ご参照ください。
アルコールが抜け切るまでの断酒継続には
「断酒継続の科学」(2016.12.02投稿)を
“言語化” については
「回復へ ― アル中の前頭葉を醒まさせる」(2015.6.5投稿)
「自助会AA ― 認知行動療法 “言語化” の実践道場(下)」(2016.8.26投稿)
「底着きは2度ある ― 再び“精神的底着き”について」(2016.9.16投稿)も合わせてご参照ください。
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“12のステップ” の全体から見て、ステップ1~4は最も解釈に手こずるところで、プロセス上最も微妙な段階に当ります。そこで、ここを重点的に述べてみようと思います。まず、ステップ1~4をお復習いしてみます。ここは次のように記されています。
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ステップ1:私たちはアルコールに対し無力であり、思い通りに生きていけなくなっていた
ことを認めた
ステップ2:自分を越えた大きな力が、私たちを健康な心に戻してくれると信じるように
なった
ステップ3:私たちの意志と生き方を、自分なりに理解した神の配慮にゆだねる決心をした
ステップ4:恐れずに、徹底して、自分自身の棚卸しを行い、それを表に作った
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しばらく前までこの部分は、どうやったらアルコールの残渣(毒)が早く抜けてくれるのか、その手順を記している部分と考えていました。つまり、“ガマンの断酒” の早期脱出法だと思っていたのです。改めて私が実践して来た経験に照らしてみると、どうもこの考えには無理があると思えて来ました。ステップ1の「生きていけなくなっていた」、ステップ2の「自分を越えた大きな力・・・信じるようになった」、ステップ3の「神の配慮にゆだねる決心」これらの言葉を吟味してみた結論です。
私の場合、心境に変化が訪れた時期は “憑きモノが落ちた” 体験(以下、“憑きモノ体験” とします)の後というのが現実でした。「自分なりに理解した神」を自然治癒力に置き換えてみると、まさに “憑きモノ体験” 後の心境にピッタリでした。
ステップ1の「生きていけなくなっていた」は、原語では「どうにもならなくなっていた」という意味で、過去の過去を表す過去完了形で書かれています。その時制を採った目的は、直前まで続いていた最悪の状態から脱した際に、その以前を振り返ってみた経験を表現するためと考えられます。
私の場合も「どうにもならなくなっていた」は、“憑きモノ体験” 後にそれまでを振り返ってみて初めて気づいたことでした。渦中にあったときは、正直それどころではなかったのです。ステップ2の「自分を越えた大きな力・・・信じるようになった」は、“憑きモノ体験” が神秘的であったことに符合します。ステップ3の「神の配慮にゆだねる決心」は、自然治癒力を実感した後の当然の帰結でした。
どうやらAAの『回復のプログラム』のスタートの時期:ステップ1~3は、脳に残っていたアルコールの残渣(毒)が抜け切った心境になれた時のことを意味しているようなのです。たとえアルコールが抜けたといっても、依然としてその後遺症は残ったままです。しかも、後遺症の中には最強とも言える手強い相手がいます。AAの『回復のプログラム』はその最強の障害をターゲットとしているように思えるのです。
アルコールの後遺症とは、遅発性の離脱症状 ― 急性離脱後症候群(Post Acute Withdrawal Syndrome:PAWS)のことです。主に記憶障害、情動障害、想起障害、思考プロセス障害、認知障害などがからなっています。特に “認知のゆがみ” と呼ばれる認知障害は、性格に “ゆがみ” をもたらす元凶と言ってもいいくらいの手強い障害です。
アルコール依存症になった人には、この “認知のゆがみ” が全員にみられますし、断酒中のAAのメンバーのほとんどは、アルコールの虜となった誘因が性格の “ゆがみ” にあったと認めています。このように考えるに至り、私はこの “認知のゆがみ” を矯正するプログラムがAAの『回復のプログラム』なのだと結論付けました。
ステップ4は、本格的な “言語化” 療法の開始段階と考えています。“言語化” とは、自分の悩みや苦しみの大元は何なのか、その正体を言葉で暴くことと考えています。単に、自分の思いを言葉に託して記述すればいいというわけではありません。実践する際は二つのことが必要です。ひとつは、読み手・聞き手を想定して外向けの論理で表現すること。二つ目は、自分の本音に正直であることです。私がブログに投稿を始めてから丸2年経ちましたが、まだ正体の尻尾ぐらいしか掴めていません。正体の全貌を言葉で暴くには、少なくとも数年単位かかるものと覚悟しています。
自分の思いを書くことは、自分を相手に対話することです。頭の中だけで、独り言の堂々巡りをするのとはまったく違います。書いている時は、必ず読み返しながら書き進めます。「これは本当か? ウッソだろう? 誤魔化していないか? カッコつけるな! 何かズレていないか?」絶えず問い続け、本音と合致するまで書き直すのが普通です。私は、自分の本音との正直な対話こそ “言語化” の鍵と考えています。
言いっぱなし・聞きっぱなしの場で自分の本音を正直に語ることも、私は立派な “言語化” と考えています。AAのミーティングでは、言いっぱなし・聞きっぱなしが唯一のルールです。質問、批判、反対意見の類は禁じられています。このことが、AAのミーティングは “言語化” の実践道場だと、私が考えている所以です。
話をステップ4に戻します。ステップ4では叙述による内省が不可欠です。が、アルコールの残渣(毒)が抜け切らない状態では、正直言って冷静な内省は難しいと思います。断酒を継続するのに精一杯で、内省するだけの冷静さや心のゆとりはないはずです。だからと言って何もしないでいいと言うわけにはいきません。
こんな時期には病状の記録を残すことをお勧めしています。忘れない内に、断酒後に気付いた変化を日付と共に記録しておくことです。慣れてきたら、飲酒時代の酒害体験にまで記録の対象を拡げればいいのです。そして、周辺状況の客観的な史実と共に、それらを正確な個人年表に整理することをお勧めします。これらの作業は “言語化” の立派なウォーミングアップとなります。
過去の酒害体験を思い起こすと、どうしても罪責感に囚われ、自己卑下や呵責に苛まれることになりがちです。ロクでもないことばかりして来たという、強い思い込みがそうさせるのです。その思い込みを正してくれるのが客観的な個人年表です。客観的な時代背景や、その時々の社会状況(社内事情etc)を見れば、必ずしも個人の責任ばかりでなかったことを明らかにしてくれます。あやふやな記憶による思い違いが、偏った思い込みと重なって罪責感に繋がっていることもあります。私はこの個人年表のお蔭で、意外に逞しく、しっかり生きて来たものだと、自分の生き方に誇りを持てるようになりました。人生の “棚卸し” には個人史年表の作成が欠かせません。
継続断酒3ヵ月頃から、私は断酒後に気づいた病状の変化と飲酒時代の酒害体験を記録し始めました。それから少し遅れ、AV動画の内容についても文章化し始めました。もうどうにもならない性的妄想に駆られ、AV動画の虜となってしまったからです。その原因はPAWSの情動障害だったと思います。ヤケクソで始めたAV動画の文章化は最終的に20本以上になりました。AAのミーティングに週2回出席するようになったのは、ちょうどその頃のことです。今振り返ってみると、これらは “言語化” 療法のウォーミングアップになったと考えています。自分史『アルコール依存症へ辿った道筋』を書き始めたことが、本格的な “言語化” 療法の始まりに当たります。
断酒を続けていさえすれば、必ずアルコールの囚われから抜けられたと実感する時が来ます。そうなったら、もう迷いはなくなります。ただひたすら自省の思いを書いて、“言語化” に励むことです。それと並行してAAのミーティングに出席することです。AAのミーティングは “言語化” 療法の一端を担っています。数々の “気づき” が得られ、その数だけカタルシスに浸れることになるでしょう。
ステップ 4 以降に求められていることは明解です。内省を続け、それを文章に綴ることが求められているだけと考えています。つまり、“言語化” の実践です。その実践こそが平常心に近づく道だと説いている、これが『回復のプログラム』の私の解釈です。“言語化” は再現性が確認されている認知行動療法の一つです。私が『回復の科学』とエラそうに謳ったのは、再現性ある “言語化” が科学的方法と確信しているからに他なりません。
以下にAAの『回復のプログラム』“12のステップ” を臨床試験計画書(プロトコール)の体裁になぞってみました。是非ご参照ください。
自助会AAは科学的?―回復への12のステップ―臨床試験で方法と手順が書かれた計画書のことをプロトコール(protocol)と呼びます。また、試験実施後に全記録を成果として残したものを総括報告書と言いま......
アルコールが抜け切るまでの断酒継続には
「断酒継続の科学」(2016.12.02投稿)を
“言語化” については
「回復へ ― アル中の前頭葉を醒まさせる」(2015.6.5投稿)
「自助会AA ― 認知行動療法 “言語化” の実践道場(下)」(2016.8.26投稿)
「底着きは2度ある ― 再び“精神的底着き”について」(2016.9.16投稿)も合わせてご参照ください。
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