ヒゲジイのアル中よもやま話

断酒を始めて早7年目。このブログは回復プロセスの記録と脳のリハビリを兼ねて綴っています。やはり、まだチョット変ですかネ?

飲酒当時の不自由 断酒後の不自由(上)

2016-06-17 08:52:21 | 病状
 酒飲みの人なら酒絡みの失敗談の一つや二つは必ずあると思います。ましてや、アルコール依存症(アル中)にまでなった人なら、酒害体験は数えきれないぐらいあるでしょう。かくいう私もその口です。

 アルコール依存症の末期には、失神・転倒発作の繰り返しや、失禁に近い “ゆるゆる” 状態の頻発、頻繁なブラックアウトで記憶が断片化したこと、幻視・幻聴など、生死の瀬戸際まで追い込まれました。私はこれを身体的 “底着き体験” と呼んでいます。

 同時期に進行していたビタミンB1欠乏による運動障害(アルコール性小脳失調)にも悩まされました。起床時に布団から立ち上がれなくなったことや、着替えのときにボタン嵌めができなくなったこと、下りの傾斜や階段を普通に歩いて降りられなくなったことなど、まさしく日常生活そのものが障害され、後は介護を待つのみに近い状態でした。

 つい先日のことです。通院中の専門クリニックの教育プログラム・ミーティングで表題のテーマが取り上げられました。そのとき咄嗟に浮かんで来たのは、どういうわけか手の震え(振戦)で字が書けなかったことでした。生死の瀬戸際に立たされたときの体験とか、ビタミンB1欠乏症により日常生活そのものが立ち行かなくなった体験は、なぜか浮かんで来なかったのです。命に関わる体験を差し置いて、なぜ振戦だったのか? ここには深く刷り込まれるに至った道理(わけ)があったのです。

 アル中の代名詞でもある振戦に怯えていたのは現役のサラリーマン時代でした。手が震えて字が書けないぐらいで死にはしません。が、社会的には死んだも同然になり得ます。いや、正確に言うと、社会的に葬り去られるのです。そのことを恐れていました。

 40代後半の私には、住宅ローンの返済、崩壊した家族関係の立て直し、息子たちの結婚、住い近くに墓地を誂えること等々、まだゝゞ頑張らねばならない宿題を抱えていました。先立つものはお金です。文字通り現金なものばかりでした。

 当時、私は新薬の臨床開発を担当しており、チームリーダーを務めていました。患者の命に関わる仕事に、アル中患者が携わるなど許されるはずがありません。手の震えを見咎められ、アル中であることがバレでもしたら、即刻職を解かれ入院加療となるのが必至でした。そうなればボーナスもなくなります。ボーナスは年収の半分弱を占めていたので、そうなったら万事休すです。

 その頃はまだ、電子署名のハシリの時期でした。会社でもまだ採用しておらず、まだゝゞ直筆の署名が巾を利かせていました。議事録や教育研修参加時には、必ず署名が求められていました。当時も今も署名ができなければ、社会では一人前のまともな人間とは見做されません。当時の会社勤めのサラリーマンは殊に、署名ができないと欠陥人間の烙印を押されてしまい、産業廃棄物になるのがオチでした。職を解かれるどころか、会社にもいられなくなるのは確実で、再就職も絶望的と思えました。

 世の中から見放されるかも・・・、これ以上に恐怖心を煽るものはありません。経済活動に現役で従事していた当時、不自由に悩まされた酒害の筆頭は間違いなく “振戦” でした。

 「こんなままでは終われない。」まだゝゞ未練たらたらで、まともな神経を保っていました。休日は昼間だけでも酒から離れていなければと、掛け軸の表装講習会を受講したり、西国三十三ヵ所巡礼を始めたりしました。背に腹は代えられなかったので、振戦を隠し通すことに必死だったのです。野心と呼ぶほど毒々しくはありませんが、上昇志向がまだゝゞ健在だったのだと思います。

 それが、ひょんなことから後輩社員に振戦がバレたりしぃーの、50代になるや、担当していた新薬の申請取下げや、昇進・昇給の年齢制限導入(制度化)、“死の四重奏”と呼ばれる成人病の挙句の狭心症発症(後に再発)、実戦部隊から窓際族(教育担当)への異動などが次々にありぃーので、上昇志向の思惑通りには事が運びませんでした。その一方で、住宅ローンの繰り上げ返済で借金の帳消しができ、二男の挙式や、墓地の購入などの宿題を済ませ、定年退職まで何とか持ち堪えることができました。常識的に見たら、まずまずの結果です。

 ところがその都度、心の支えが一本また一本と消えて行く侘しさが感じられたのです。侘しさ即ち喪失感です。不自由という言葉を聞いて、このことが蘇って来ました。それで振戦を忘れがたい記憶として話したのだと思います。


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 余談ながら、ここで思い付いたことを一つ述べておきます。 重い荷に耐えるには気力を振り絞るしかありません。その気力を生み出すのは意欲です。重い宿題と思い込んでいたものが、実は「生きて行かねば・・・」という意欲を掻き立て、心の支えとなっていたのです。そう気付かされました。重い宿題が一つまた一つと減ったなら、普通はその都度身軽になって清々するはずです。それが一つ減るごとに気力が薄れていきました。味わったのは、達成感とは真逆の喪失感でした。

 アルコールが原因のビタミンB1欠乏症となると、何に対しても意欲が全く湧かなくなる精神状態になります。こんな精神状態でも、専門クリニックで断酒開始直後からほぼ5ヵ月間にわたりビタミンB1の点滴補充を受けた結果、見事に意欲が回復できた経験があります。極めて “精神的なもの” である意欲が、ビタミンB1を補充したことで回復したのです。それを思うと、長年の飲酒習慣と食に偏りのあったサラリーマン当時は、日常的にビタミンB1の補充が追いつかなかったのでしょうか。アルコールが “うつ” 症状を悪化させるのと根が同じ病理を想わずにいられません。



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