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ヒゲジイのアル中よもやま話

断酒を始めて早7年目。このブログは回復プロセスの記録と脳のリハビリを兼ねて綴っています。やはり、まだチョット変ですかネ?

自助会AA ― 認知行動療法 “言語化” の実践道場(中)

2016-08-19 07:09:42 | 自助会
 専門クリニックが勧める自助会の宣伝コピーではありませんが、ミーティングには見習うべき実用的ノウハウを学べる場という側面があります。今回はミーティングがもたらす実用的な御利益の話をします。

 実用的な話といえば、たとえば以下のような再飲酒(SLIP:Sobriety Loses Its Priority)に至った経緯(きっかけ)とその後の対処の仕方などは、お手本とすべき典型的な体験談だと思います。

 ● ミーティングから足が遠のいてつい気が緩み、無意識の内に
   SLIP していたこと
 ● SLIP しても、連続飲酒状態になるまで結構な期間(2週間~
   3ヵ月)がかかる場合もあること
 ● 何か変で(SLIP しそうで)危ういと察したら、その心境を
  (ミーティングなどで)思い切って声に出して吐露すべきこと

これらは体験者にしか分からない苦い思い出そのもので、心しておくべき貴重な戒めです。

 前回述べたように、自助会 Alcoholics Anonymous(AA )のルールの一つに “言いっぱなし 聞きっぱなし” があります。これはどんな発言があっても批評や批判は御法度という意味です。あるとき一風変わった私の発言に思わぬ助っ人が現れたことがありました。AAに定期的に出席し始めて8ヵ月目頃(断酒歴13ヵ月)のことです。

 そのときのテーマが “奇蹟” だったので、私は手を挙げ、思い切って私見を話してみました。“奇蹟” というテーマは、AAの言う “ハイヤーパワー(自分を越えた大きな力 / 神)” を念頭においたものであることは明らかでした。

「私は “奇蹟” など信じません。AAの『回復のプログラム』は科学的再現性に裏打ちされたものと考えています。『回復のプログラム』の12のステップを読んでみると、書いてあることはプロトコール(実験計画書)と、その通りに100% 実行した場合の結果の記述にしか見えないのです。AAは科学的だからこそ、再現性よく回復者を輩出してきたのだと考えています。」
臆せずこのように持論を展開したのですが、すると直後にあるベテランメンバーからこんな発言があったのです。
「回復の12のステップを(英文で)読んでみると、全部過去形で書いてあり、経験譚であることに気付いた。ならばAAを信じてみようという気になった。」
頼りない記憶ながら、こんな趣旨だったと思います。これには心の中で思わず喝采を叫んだものです。

 おそらくベテランメンバーの頭に、原文テキストに当った頃の記憶が蘇ったのです。せいぜい生意気な初心者の珍説と見做され、黙殺されるのが関の山と覚悟していましたが、私の話でその頃の記憶が刺激され、すかさず賛同してくれたのだと思います。「飲まない生き方を探し出すため、難解な原文テキストに当ってまで確かめているメンバーがいる」、こんな誠実な姿に触れることができ、心強さと頼もしさを覚えました。

 次はテーマが “感謝” だったときの話です。AA 参加歴1年5ヵ月(断酒歴1年10ヵ月)の頃だったと思います。話が自分に向けられでもしたら、不用意な言葉をすぐさま発してしまい、それがどうにもピント外れと思うことがよくありました。想起障害のせいにしていましたが、咄嗟のことだと的確な言葉が出て来ないのです。そんなときにあるベテランメンバーが語ってくれた言葉は渡りに船で願ってもないものでした。

「AAのミーティングに参加したお蔭で、一歩下がって聞く耳を持つことと、聞き流す忍耐を学んだ。言い放し、聞きっ放しが好い影響を与えてくれたのだと思う。これを実践したことでAAの言うhumility(謙遜)が体得できたと考えている。」
私は “一歩下がって” に飛びつきました。早速この言葉を鑑とし、“一息ついて” も付け加え “一歩下がって 一息ついて” を発言する際のモットーとしてみました。

 ところが実際にやってみると、どうも上手くいかなかったので、今では “一息ついて 一歩下がって” と順番を逆にしています。この方が無理がなく、より実戦向きだと分かったのです。もちろん “聞き流す忍耐” にも新鮮な印象を受けたのですが、こちらは場数を踏むしかあるまいと半分聞き流していました。

 “かがみ” に関連してもう一つ。鏡は自分の身なりを正す身繕いに必須なものですが、“仲間(=AAのメンバー)は生きている鏡” と譬えたベテランメンバーがいました。“仲間” がテーマだったときの話です。

 かつては自分と異なる意見を目の前で語られでもしたら、自分への批判だと思い込み、つい身構えてしまうのが普通でした。ミーティングでも自分と正反対の考え方や生き様を聞かされる場合がときにあります。さすがに腹が立ち不愉快にもなるのですが、その場で反論することは御法度です。じっと聞いているしかありません。ところが6秒(?)も経つと、不思議なことにその感情が和らいできます。その内、自分の性格上の欠点や至らなさに思い当るようにもなるのです。

 もちろんミーティングでは、鑑として見習うべき話の方が圧倒的に多数派です。ときには聞いていて自分の考えの歪みに気づかされ、これは正さなければと反省しきりの話もあります。メンバーの語る生き様は、“他人の振り見て我が身を直せ” そのもので、良いにつけ悪いにつけ立派な鏡なのです。“仲間は生きている鏡” はまさに至言だと思いました。

 ミーティング前のメンバー同士の雑談も有益なヒントが得られる場です。何気なしに聞いていた折に、ふと小耳にはさんだ話から “空白の時間” を逸らす手がかりを学べたこともありました。手持無沙汰になると堪え切れなくなり、イライラが昂じてつい酒に手を伸ばしそうになるのが “空白の時間” です。この一過性の情動不安へどう対処すべきか暗示してくれました。

「(アルコール依存症者にとって)断酒を始めて間もない頃に共通する悩みは、時間とうまく折り合いがつけられないこと。単純だが原因はこれに尽きる。」
恐らく初心者だった私に聞こえるよう、偶然を装って話してくれたのだと思います。専門クリニックの休診日など何も日課がない日には、再飲酒の影に怯えビクビクしていた私です。これは福音でした。

 滔々と流れる時間には土台抗えません。うまい折り合いのつけ方とは、時計の示す時刻に沿って日々の生活リズムを自律的に刻むことと気づいたのです。一日々々の行動スケジュール(時間割り)を自分できちんと決め、1週間単位で時間割り通りに自律した日常生活を送るということです。

 毎日通院の効果がテキメンだったことからうすうす気づいていたのですが、これで腹を括ることができました。同時に生活環境全般にも思いが拡がり、秩序を保つ大切さにも気づきました。それで “秩序とリズム” を生活のモットーにしたのです。このことがあってからというもの、開始時刻よりも30分以上前にミーティング会場に行くようになったのは言うまでもありません。

 とかく偏った考えに陥りがちだった飲酒時代と縁を切り、飲まないで生きる新しい人生を続けるためとして、ミーティングを考え方の鍛錬の場と位置付けたメンバーがいました。「(ミーティングは)“新しい人生” の道場」、仲間の様々な考え方を稽古台に見立てた彼の心意気が見て取れました。また、「仲間の体験談は “経験した事実” であるところが貴い」と核心を衝いたメンバーがいました。ミーティングで語られる話は経験に裏打ちされた有用な情報であり、他では得難い貴重な教訓なのです。

 これらミーティングで得られた言葉は、記憶が覚束ないながら今でも心に残っています。体験した人でなければ語れない話が、息遣いまで見えるライブ(生)で聴けるのがミーティングです。その場にいた者にしか味わえない醍醐味なのです。


***********************************************************************************
 AAに参加したての頃は、肝腎のテーマの意味が今一つ分からず、頭の中がグルグル空回りしていたものです。しばらくすると、メンバーの言葉に触発されて頭がパッと閃くようになれました。埋もれていた記憶が蘇った瞬間でもありますし、角度を変えたモノの見方のお蔭でモヤモヤが晴れた “気づき” の瞬間でもありました。

「自助会AA ― 認知行動療法 “言語化” の実践道場」(下)に続きます。



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自助会AA ― 認知行動療法 “言語化” の実践道場(上)

2016-08-05 07:55:33 | 自助会
 「回復期を維持するには自助会に参加するしかありません。励みとなる生きたお手本が身近にいて、悩みを分かち合え安心感も与えてもらえるからです。」私が通うアルコール専門クリニックでしきりに繰り返される言葉です。確かに、自助会に参加し続ける意義の一端を語った言葉だと思います。

 参加歴がまだ2年半に満たない私ですが、Alcoholics Anonymous(AA )のミーティングはアルコールで害された脳のリハビリの場なのだと思えて仕方ありません。第一に挙げられるべき存在意義は、脳を回復に向かわせる機会を提供する恰好の場であること、つまり認知行動療法のひとつ “言語化” を実践する道場であることなのではないでしょうか?

 アル中の人ばかりが集まる会合と聞いたら、さぞかし奇妙な雰囲気じゃないかと想像されるかもしれませんが、その実像は極めて真面目で静かな雰囲気の中で行われています。むしろ厳かと表現した方がいいのかもしれません。参加者の服装も常識的な大人しい身なりが多く、どこにでもいる普通の人と変わりません。中には遊び人だった頃と変わらない奇抜な身なりの人もいますが、至ってまれです。概ね穏やかな顔つきの人々が揃っています。

 AAは縛りの緩い自由な共同体(の集合)です。厳密な意味でいうと組織化された団体ではありません。その実態は、アルコール依存症と宣告された個々人が、自らの意志で各々任意に集う会合です。その会合の場をミーティングと呼んでいます。メンバー(AAでは “仲間” と呼びます)になるには、いずれかのオープンミーティングに出席し、入会したいと告げさえすれば済みます。オープンミーティングなら、会場がどこであろうと誰でも参加でき、予約などの手続きは何も要りません。

 AAのミーティングでは、出席者が守るべきルールがあります。

 ● 本名ではなくニックネームを名乗ること
 ● “言いっぱなし 聞きっぱなし” に徹すること
 ● 話題をアルコール絡みの問題に限るよう心掛けること
 ● 秘密保持に努め、撮影・録音・メモの類は御法度であること
 ● 会の運営費を賄うため少額でも献金すること
                      以上の5つだけです。

 ホームグループが全国に無数点在し、ミーティングを主催・運営しています。ホームグループに所属するのも、所属しないでいるのもメンバーの自由です。メンバーは、所属グループに関わりなくどこのミーティングでも自由に出席することができます。

 メンバーは、年齢も性別も職歴も断酒歴も様々です。出席者を見ていると、20歳代の人もいれば80歳代の人もいますし、3割ぐらいは女性です。断酒を始めて間もない初心者の人もいれば、10~20年と長い断酒歴のベテランの人や、当然これらの中間の断酒歴の人、中にはまだ断酒し切れていない人もいます。皆いつ暴走するか分からないアルコール依存症を背負い、死と背中合わせのままに酒を断って生きていこうとしている、メンバーの共通項はこの一点だけです。

 ミーティングは、当日の司会者によるハンドブックの序文朗読、志願者による『回復のプログラム』の短い章の朗読、再び司会者によるテーマの設定と導入的な自らの体験談、メンバーの体験談の順に進められます。司会者によっては自らの体験談の方が先で、テーマの宣言が後のことも結構あります。ミーティングごとに司会者が交代し、テーマもその都度変わるのが原則ですが、偶然同じテーマが連続することも間々あります。

 テーマとして繰り返し採用されるものに次のようなものがあります。
 “今日一日”、“自分(or今)を大切に”、“アルコールに無力”、“底着き(体験)”、“心の落ち着き”、“ありのままを ありのままに受け入れる”、“転機”、“感謝”、“第一のことは第一に” ・・・など、一見禅問答と見まがうかもしれません。AAではミーティングの都度テーマを設定していますが、X△断酒会など他の自助会ではテーマなしでやっているそうです。AAが他の自助会と大きく異なる点の一つです。

 司会者が体験談を語り終えると愈々メンバーの語る番となり、司会者の指名により順に発言していきます。司会者の話やその後のメンバーの話に触発され、各人がテーマに沿って過去に体験したエピソードや現在抱えている悩み、近頃思うところなどを語るのです。たとえテーマに沿わないことであっても発言したいことがあれば、いつでも挙手して発言することもできます。その間、他のメンバーは黙想し続け、ひたすら聞き役に回るだけです。黙って聴いていると、頭の中をさまざまな記憶が去来します。

 語られる体験はアルコール絡みの酒害体験がほとんどです。メンバーが歩んできた背景は様々ですが、同じアルコール依存症者として経験してきたことは驚くほど似通っています。それぞれが苦しんできた酒害体験と、それに至った心理には共通するところが多いのです。たとえ詳しい説明が省かれた話でも、結構理解し合えるのはこのためです。

 テーマがその場の共通の土俵というのも大いに意味があると考えています。テーマが決められていることで、話題はテーマに沿ったものという前提で聴くことができます。聴き手にとって、これほど聞きやすい環境はありません。

 テーマが告げられてから語り始めるまでの間、発言者に筋の展開を吟味するなど心の余裕はほとんどありません。この心理的ゆとりのなさも、思わぬ舞台効果を発揮します。ある意味シナリオのない一人舞台で、つい本音を吐露してしまうことになるのです。

 初心者なら殊に、咄嗟に思い当たったエピソードを起点に話し始めるのですが、自分でも思わぬ方向に話が飛んで、その本音の展開に話していてビックリすることがあります。ふと口走った言葉が、できれば隠しておきたかった本音と気付きハッとすることもあります。口から出た途端、肩の荷が下りたと実感されるものですから、それ以後隠し立てしても無駄と思うようになれるのです。そんなわけで、話の筋立ては別にしても、生々しく語られた言葉は正直で誠実なものと考えざるを得なくなります。

 誠実に語られた話というのは、たとえ筋が飛んでいたにしても、チクチク記憶を刺激するものです。去来する自分の記憶と呼応し、共感できることが多いばかりか、「なるほど そう考えるのか?!」とかつての自分の至らなさを思い知らされることがあるのです。

 もちろん共感できる話ばかりではありません。腹立たしさを覚え、とても不愉快になる場合も時にはあります。自分の欠点と共通する嫌な性格が見えてしまい、ついそれに反発しているからだと、今ではそう考えるようにしています。腹立たしさを感じる時も、心が安らぐ時も、すべての要素は自分の内にある、こう思えるようになるまでそう時間はかかりませんでした。


 次回はミーティングの持つ実用的な御利益の話をします。(中)に続きます。



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自助会AAは科学的?―回復への12のステップ―

2015-08-21 20:09:18 | 自助会
 私は文科系の学部卒で、本格的な自然科学の教育を受けた経験がありません。私の言う本格的な自然科学の教育とは、本格的な科学的実験の実習を受けたことがないという意味においてです。

 科学的実験は次のように実施されるものと理解しています。仮説に基づいて実験計画を立て、計画書通りに実験を実行して、その結果を総括報告書にまとめる。これが実験の全体像で、立案から総括報告書までの記録すべてを文書で残していることが必須条件です。公表された論文は厖大な記録文書の主要な一部分でしかありません。

 記録文書に残された記録通りに、第三者が実験方法をなぞって実施すれば、全く同じ結果が得られる、これが実験の再現性です。科学的とは、すべての記録を残し、それらの記録によって再現性を担保すること。このように臨床開発業務を通じて教わりました。言い換えると、再現性こそが実証的自然科学の要なのだと知らされました。

 「実験の失敗が偶然の新発見につながった」ノーベル賞受賞者からよく聞く言葉です。どのような点で失敗したのか、そのすべてが記録に残っているからこそ失敗を再現でき、新発見はその延長線上に見つかったものなのだろうと思います。同様に記録と再現性の観点からみると、理研のSTAP細胞事件の問題点は明らかです。報道によれば、すべてを記録しているはずの実験ノートが貧弱で杜撰だったといいます。これは科学的にみて致命傷であり、とても科学者の仕事とは思えません。STAP細胞を再現できなかったのは、むしろ当然の帰結と言えるでしょう。野心に駆られた末のお粗末な犯罪とも噂される所以です。

 臨床試験で方法と手順が書かれた計画書のことをプロトコール(protocol)と呼びます。また、試験実施後に全記録を成果として残したものを総括報告書と言います。初めてAlcoholics Anonymous(AA)の回復プログラム “12のステップ” を読んだとき、これは総括報告書中のプロトコール部分ではないかと思いました。つまり、プロトコールにある規定通りに100%すべて完璧に実施した場合の記述の仕方だったのです。結果の記述ですから、書かれている手順と方法は過去形の時制となりますし、事実過去形で書かれているのです。

 自分史などで私自身の酒害体験の叙述を続けていくにつれ、AAのミーティングで “12のステップ” を読む度に、やはりプロトコール部分だという感を一層深くしました。最初、“12のステップ” をさして意識しないまま叙述し始めたのですが、しばらくして私が実行した手順と、その結果として体験したことが “12のステップ” にほぼそのまま書かれていることに気付いたからです。特に、ステップ5の解説に書かれている「長年溜まりに溜まったものが弾けて消え、平穏となって心の落ち着きが分かったとき、『神』を身近に感じた」という心境は、私が体験した “憑き物が落ちた” ときの神秘的感覚に近かったのです。私が叙述を通じて得られた “憑き物が落ちた” 体験のことを、精神医学では言語化による効用と呼ぶそうです。AAではこれを “霊的な目覚めspiritual awakening” とも表現しています。その他にも叙述作業の過程で共有できた体験がいくつもありました。「同様の方法を辿って、同様の結果を得た」、これを再現性と言わずに何と言うのでしょう。しかも、AAには膨大な数のアルコール依存症者を回復に導いた実績もあるのです。いよいよ私は回復プログラムの “12のステップ” が科学的なプロトコールであると確信するに至りました。

 ただし、AAでは “心の落ち着き(serenity)” を体得するという肝腎要の部分を “霊的な目覚め” としており、そこでは “自分なりに理解した『神』” という表現で『神』の概念を打ち出しています。『神』による奇蹟として、宗教色を出した方が得策だと判断したのだろうと理解しました。

 私は新薬の臨床開発責任者として治験プロトコールを何10本も立案した経験があります。そこで、回復プログラム “12のステップ” にプロトコール風の体裁を採らせてみることにしました。“12のステップ” の原文の時制は過去形ですが、プロトコールらしく現在形に改めました。自分史を叙述した体験も加味し、実際には同時進行で起こりうることを想定して現実的な手順となるように改め、具体的な留意点も加えてみました。“12のステップ” の中では、ステップ4と5が特に重要だと思います。アルコール依存症の方には、被験者として “12のステップ” の再現性確認に是非挑んでいただきたいものです。科学的な用語としては不適当なものもあるとは思いますが、切にお許し下さい。


 ***********************************************************************
        AAの回復プログラム・12のステップを実践する試験計画書

  1. 目的
   断酒を決意したアルコール依存症者を対象に、Alcoholics Anonymous(AA)の回復の
   プログラム「12のステップ」のうちステップ4~10を(順に)実行してもらい、酒害体
   験を叙述(言語化)することによって“心の落ち着き”を体得してもらうことを目的と
   する。
  2. 対象
   アルコール依存症者
  2.1 選択基準
   ○もはやアルコールには抗えない、断酒しかないと観念している人
    (つまり、ステップ1~3を満たす人)
   ○“底着き体験”を経験したと固く信じている人
   ○年齢、性別は不問とする。
   [参考]
    ステップ1:私たちはアルコールに対し無力であり、思い通りに生きていけなくなっ
     ていたことを認めた(人)。
     “We admitted we ware powerless over alcohol―that our lives had become
      unmanageable.”
    ステップ2:自分を越えた大きな力が、私たちを健康な心に戻してくれると信じる
     ようになった(人)。
     “Came to believe that a power greater than ourselves could restore us to sanity.”
    ステップ3:私たちの意志と生き方を、自分なりに理解した神の配慮にゆだねる決心
     をした(人)。
     “Made a decision to turn our will and our lives over to the care of God as we
      understood Him.”
  2.2 除外基準
   ○再び酒を飲めるようになれる(かもしれない)と考えている人
  3. 試験デザイン
   対照群を設定せず、非盲検とする。
   本試験のエンド・ポイント(達成目標)が被験者の“心の落ち着き”という主観的な心理
   状態であり、被験者本人の申告によるものでもあるので、申告後の被験者の認知行動を
   観察することが何よりも重視される。
  4. 手順及び方法
   被験者は以下の手順に従って自身の過去の思い出を叙述する。なお、ステップ4と5は
   同時進行で行ってもよいし、むしろ普通は同時進行で実行される。
  4.1 ステップ4を実践
   ステップ4:恐れずに、徹底して、自分自身の棚卸しを行い、それを表に作る。
    “Made a searching and fearless moral inventory of ourselves.”
  4.1.1 個人年表を作成
   被験者はアルコールに親しみ始めた時期以降の自身の個人年表を作成する。
  4.1.2 出来事ごとの叙述
   1)出来事を叙述する順番は年表にある年代順でなくてもよく、重要なものから始めて
     よい。
   2)個人年表中の思い出の中で、被験者自身の酒にまつわるすべての出来事それぞれに
     ついて叙述する。
   3)飲酒した誘因を他者の所為と責任転嫁している場合は、なぜ責任転嫁するような
     心理状態(マイナス感情)になったのか、被験者自身の性格が起因してないか、
     を被験者はよく省察する。
   4)被験者は思い出を叙述する作業の中で、自身が犯した酒害の原因を省察し、酒害を
     誘発したと思われる自身の性格上の欠点(思考の歪み)を特定する。
   【叙述する際の留意点
   ○被験者は的確な言葉と適切な表現に徹底してこだわり、誤魔化すことなく、
    ありのままを正直に
叙述すること。
   ○思い出ごとに、因果関係や繋がりに重点を置くこと。“どのような時に(when)”、
    “誰が(に)(who)”、“何処で(where)”、“何を(what)”、“なぜ(why)”、
    “どうした(how)”、の5W1Hを意識的に叙述すること。
    特に“なぜ(why)”については必ず言及すること
  4.2 ステップ5~7を実践
   ステップ5:神に対し、自分に対し、そしてもう一人の人に対して、自分の過ちの本質
    をありのままに認める。
    “Admitted to God, to ourselves, and to another human being the exact of our
     wrongs.”
   ステップ6:こうした性格上の欠点全部を、神に取り除いてもらう準備をすべて整え
    る。
    “Were entirely ready to have God remove all these defects of character.”
   ステップ7:私たちの短所(性格上の欠点)を取り除いてくださいと、謙虚に神に求
    める。
    “Humbly asked Him to remove our shortcomings.”
  4.2.1 スポンサーを選定
   被験者は本試験開始後ステップ5を実行するまでの間にスポンサーを選定し、就任を
    依頼する。
   【スポンサー選択の際の留意点
    スポンサーは、被験者とは個人的に利害関係のない第三者であり、専門職のソーシャ
    ルワーカーや医師など、被験者の相談に乗ってくれる人物で、被験者の体験を分かち
    合ってくれ、被験者を助言や指導できる人物が望ましい。
  4.2.2 叙述文書をスポンサーへ提示
   1)被験者は4.1で実行した叙述文書をスポンサーに提示する。
   2)被験者自身が、酒害を誘発したと思われる自身の性格上の欠点(思考の歪み)を
     未だ暴き切れていない気分が残っている場合は、被験者はその旨をスポンサーに
     相談する。
   3)相談結果に基づいたスポンサーの助言に従い、被験者は自身の思い出を再省察し、
     自身の性格上の欠点(思考の歪み)を含め叙述内容を改訂する。
   4)被験者は、酒害を引き起こした自身の性格上の欠点(思考の歪み)を認め、ありの
     ままに受け入れる。
  4.3 ステップ8~9を実践
   ステップ8:私たちが傷つけたすべての人の表を作り、その人たち全員に進んで埋め合
    わせをしようとする気持ちになる。
    “Made a list of all persons we had harmed, and became willing to make amends
     to them all.”
   ステップ9:その人たちやほかの人を傷つけない限り、機会あるたびに、その人たちに
    直接埋め合わせをする。
    “Made direct amends to such people wherever possible, except when to do so would
     injure them or others.”
  4.3.1 埋め合わせ(謝罪)対象者の特定
   ステップ4で作成した叙述文書に基づいて、謝罪が必要と思われる人物を特定する。
  4.3.2 埋め合わせ(謝罪)を実行
   客観的に状況を判断し、被験者による酒害を謝罪しても差し支えないと判断した対象
   者に直接謝罪する。実施に際し、言葉によるよりも行動や態度による贖罪の方が適切
   な場合があり、慎重に考慮すること。
  4.4 ステップ10を実践
   ステップ10:自分自身の棚卸しを続け、間違ったときは直ちにそれを認める。
    “Continued to take personal inventory and when we were wrong promptly admitted
     it.”
  4.4.1 不断に実践する省察
   心に思い当たる出来事ごとに、その都度省察を実践し、過ちがあれば、ありのままに
   受け入れる。開始時期はステップ5以降の何時でもよい。
  5. スポンサーからの助言・指導
   本試験中、スポンサーは被験者の求めに応じて助言や指導ができるものとする。
   ただし、スポンサーの方から積極的に助言や指導はしないものとする。
  6. 中止基準
   再飲酒した時点で本試験を中止する。
   中止後、改めて本試験を初めから開始してもよいものとする。
  7. 主要評価項目
   本試験のエンド・ポイント(達成目標)は、被験者が“心の落ち着き”を体得することで
   ある。本試験期間中、“心の落ち着き”を体得できた時点で被験者はスポンサーにこの旨
   を申告する。
   通常、ステップ4~5を実行中に“憑きモノが落ちた”感覚を実感するものである。
   “憑きモノが落ちた”感覚とは、何かに執着したり、固執したりして、雁字搦めの状態に
   自分を追い込んでいた“思い込み”の原因を悟り、解放された感覚のことである。
   “憑きモノが落ちた”ことにより情緒(情動)不安定から解放された状態の続くことが、
   “心の落ち着き”を体得できたことである。
  8. 安全性の評価
   本試験では何ら介入がないので、有害事象の調査は行わない。
  9. 試験計画立案責任者
   Alcoholics Anonymous(AA)
  (参考)
   ステップ11:祈りと黙想を通して、自分なりに理解した神との意識的な触れ合いを
    深め、神の意志を知ることと、それを実践する力だけを求めた。
    “Sought through prayer and meditation to improve our conscious contact with God
     as we understood Him, praying only for knowledge of His will for us and the
     power to carry that out.”
   ステップ12:これらのステップを経た結果、私たちは霊的に目覚め、このメッセージ
    をアルコホーリクに伝え、そして私たちのすべてのことにこの原理を実行しようと
    努力した。
    “Having had spiritual awakening as the result of these steps, we tried to carry this
     message to alcoholics, and to practice these principles in all our affairs.”
 *************************************************************************

 ステップ11~12については、“心の落ち着き(serenity)” を体得した各人に対して、社会的な運動としてAA活動をさらに広めるための心構えを述べた部分と解釈し、参考として掲示するに止めました。
                *      *      *    
 この記事を書いた当時は私の考えも生煮え状態で、回復の達成目標が “心の落ち着き(serenity)” にあると考えていました。時が経つにつれ、 “心の落ち着き(serenity)” は常時あり得る状態ではなく、むしろどんな時でも “平常心” を保っていられることこそ回復の意味するところ、と考えを改めました。多少のストレスを受けても柳に風と受け流す心のことです。「思考の歪み」という言葉も、可笑しな「思い込み」に代表される “認知のゆがみ” とした方がより適切だろうと思っています。
 “憑きモノが落ちた” 感覚は、誰にでも味わえるものではないとしても、恐らく誰もがAAのミーティングで経験できる “気づき” と置き換えれば当てはまります。体験談でよく語られる “気づき” とは専門家がいう自己洞察のことで、悩みを一瞬浄化してくれるカタルシスのことでもあります。これを繰り返し体験することで、早めにアルコールの残渣が抜けることも期待できると考えています。
(2016.12.12追記)


以下もご参照ください。
AA Twelve Steps and Twelve Traditions
“心の落ち着き(serenity)”が分かる


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