アクリル板をテーブルのガラスと同じサイズに裁断する作業に入ります。
最初は、細工鋸でアクリル板をゴリゴリと切るつもりでしたが、途中でアクリル板が割れてしまう心配がありました。
そこで別の方法を思い着いたのです。
アクリル板をカッターでキズを付け、同じ場所を繰り返しなぞることでキズを深くして行こうと考えたのでした。
しかし、このやり方ではカッターのキズは深くならず私は途方に暮れてしまったのです。
父が遺した道具の中に何に使ったか分からない道具が一つありました。
金ヤスリをグラインダーか何かで削り、鷹か鷲の嘴みたいに先が曲がった道具です。
逆側には厚紙が巻かれてあり、こちら側を掴んで使用する道具のようです。
ある日、ボンヤリとテレビを見ていた時のことでした。
画面には漆の樹皮にキズを付けて樹液を集めている映像が流れたのです。
私はそれを見て身体中に電流が流れたような感覚を覚え、
『コレだーッ!』
と、心の中で叫びました。
すぐに父の道具箱を引っ張り出して来て、あの道具でアクリル板を引っ掻いてみたのです。
すると、どうでしょう、細くて薄くて白いアクリルの糸が父の道具の刃先からスルスルと出て来たではありませんか!
刃先に力を込めて何回かアクリル板をなぞると、溝がドンドン深くなり遂にアクリル板は切断されたのでした。
使い道が分からなかった父の道具が威力を発揮した瞬間でした。
『父もこうやって、手作りの道具でアクリル板を裁断していたのか… 』
父の凄さを改めて感じたのでした。