ぶきっちょハンドメイド 改 セキララ造影CT

ほぼ毎週、主に大人の童話を書いています。それは私にとってストリップよりストリップ。そして造影剤の排出にも似ています。

楽園ーPの物語ーサキシアブルー

2021-08-20 21:39:10 | 大人の童話
サキシアは困っていた。
 隣で手元を覗き込むギャンに。
 
ギャンに理想の青について聞かされて、サキシアは考えた。
 メインで売り出す色であれば、今までよりも一層、手に入り易い染料でなかればならない。
 婚姻を急ぐギャンを説得し、野山に近い今の家で、一人染色に集中した。
 育ちの速い木を、容易に増やせる草花を、片端から試していく。
 やっと澄んだ青が出たのは、厄介者扱いされている、草の根だった。
葉と茎に煌めく刺があり、何処にでも生え、どんどん増える。
 『トゲトゲの』『刺の奴』と呼ばれ、名前さえ付けてもらえない。
 けれども夏に、白く美しい花を着ける野草だ。
 それを革の手袋を嵌めて掘り、毎日煮出して染料と触媒の濃度を試し続けた。
そしてとうとう、思い描いた色に辿り着けそうなのだ。
期待を込めて、触媒液から桶から布を引き上げるところだ。
そして今、困っているのだ。
ギャンがピタリと横に着いて、サキシアの手元を覗き込んでいるからだ。
求婚を受けて次に会った時から、ギャンは目が合うだけでも抱き付いて来る。
その拍子に、布を下手に取り落とせば、やり直しだ。
サキシアは、いつも以上に手元に集中した。
引き上げた布を軽く絞って、瓶の水でよく濯ぐ。
 仕上がったのは、深く、濃く、艶のある青だった。
 僅かに雑味はあるものの、それも水に晒せば、艶と清涼感に変わりそうだ。
手渡された布を両手で広げ、ギャンが叫んだ。
「これだよこれ!!」
そして振り回す。
「晒せばきっと、完成だっ!!」
文字通り、狂喜乱舞だった。
ギャンのそんな姿を見るのは、サキシアには二度目のことだった。
一度目は結婚の承諾を実感した後だ。
 あの時とどちらが長いだろうと、サキシアが考えていると、くるりと回って、ギャンが飛び付いてきた。
「これで結婚してくれるんだよねっ!?」
 ぎゅうぎゅうと抱き締めたまま、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。
 仕方なく一緒に跳ねているうちに、サキシアも段々と面白くなってきた。
二人で競うように高く飛ぶ。
そのうちに足がもつれて座り込んだ。
 息を切らしながら顔を見合せ、どちらからともなく笑いだす。
 その色は『サキシアブルー』と呼ばれるようになった。

アルムは見惚れていた。
隣で目を閉じている花嫁に。
 
 シンプルな白無地のドレスには、ふわりと薄手な生地を選んだ。
 胸の家紋は、レースの様な美しい刺繍を、サキシアが施した。
 白く塗られたその顔は、薄い色石で飾り付けてある。
 バスの予算に、ギャンの貯金全てを足して選らんだ、美しい物だ。
 バスとアルムの艶やかな朱赤の衣装。
 屋根の無い馬車を彩る、サキシアブルーの布と金のタッセル。
 全てが慣わしに乗っ取り、全てが特別だった。
 アルムは目を閉じたままの花嫁に付き添い、バスの御す馬車で、誇らしげに町内を一周した。
 慣わし通りに。